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22話 魔王討伐 前編

 特別依頼当日の朝5時。

 セラシア国の勇者が率いる「魔王討伐隊」は、魔王のいる戦場へと向かっていた。


「ノアさん、起きませんね。」

「そりゃそうだ。神聖魔術を授かったっていうのは、神をその身に宿すことと同じ。相当な負荷がかかるはず。戦闘時に起きてくれればいいんだ。」

「やけに落ち着いていますね?」

「ああ。勝利は見えているからね♪」

「確かに…この数の兵士がいる上に、剣聖が100人と司教7名全員。おまけに、あなたとノアさんもいますから。」

「そうだよ。皆、強い。僕は今日、この戦いで終わらせるんだ…」


ドンッ!ドンッ!


「ほら。戦争の音だよ。気を引き締めないと。」

「はい。」


 討伐隊は、戦地のテントに着く。外では、現在進行形で戦争が行われ、多くの兵士が怪我をしてテントに戻ってきていた。


「どういうことだ?優勢だと聞いていたのに!」

「勇者様…!それが、"戦場の精霊"が呼び出されたようです…」

「な…」


 その場にいた全員が、顔色を悪くする。


「…精霊は、僕とノアで足止めする。」


 レイが名乗り出る。


「いくらあなたでも、危険すぎる!精霊は魔法も魔術も効かない……魔力が尽きない限りは。」

「魔力が尽きるまで、遊ばせてあげればいいんでしょ?なら大丈夫。僕たちの魔力は、常に飽和状態。漏れ出ているからね。」

「でも……わかった。だが、2人の命が最優先。これが条件だ…!」


 勇者は考え、渋々承諾する。レイは頷く。

 整列した兵士たちの前に、勇者が立つ。


「この戦場には、数多くの仲間が眠っている。だが、今回の討伐は一味違う!万全の準備をし、力を蓄えてきた。我々の戦いも、今日で終わりだ!」

兵士たち「オーッ!」


 兵士たちの士気が上がる。


「ノアさん、起きてください!もう始まってしまいますよ!」


 ノアは、誰の問いかけにも反応しない。


「ノアはまだ起きないのか?」

「はい。反応がありません…呼吸はあるので、寝ているだけのはずなんですが……」

「神聖魔術を授かるのは、世界で初めてだ。副作用か何かだとすると、やばいぞ…精霊は僕1人じゃ、どうにもできない。」

「行ったとしても、寝ているノアさんは誰が守るんですか?」

「……いや。そのままにしよう。」

「なぜ?」

「ノアは安全だ。この戦争もちゃんと終わる。僕の言葉は絶対だ…」

「っ!」


 ソフィアは以前にも似た状況に立ち会ったことがある。大事な時、ピンチな時に放たれるレイの言葉は、必ずその通りになる。


「ソフィアは僕の援護。魔法で気づかれないようにするから。」

「……わかりました。」


 ノアをテントに残し、外に出る。


「戦闘態勢を取れ!」


 勇者の言葉で、兵士たちは隊列を組む。


「では、進め!」


 戦場はテントから5kmほど離れている。

 テントの半径5kmは結界で守られている。そのため、結界ギリギリまで広がる盆地が戦場となる。


ドンッ!

うわぁぁぁ!  ギィャャャ!


「あの精霊……敵味方問わず攻撃してるのか?」

「そのようですね…呼び出した者の指示は無いのでしょうか?」

「無いな。完全に理性が失われている。」



☆ノアの夢☆


「うわぁ…こんなに魔法書があるなんて、夢みたい!」


 ノアは魔法書の海に飛び込む。


「これは…魔力循環と魔法の放出の関係……なるほど…ふむふむ…」

〝気に入ったかな?〟

「うわっ!」


 ノアは振り向く。

 振り向くと、光の玉が飛んでいた。


〝神だよ。ちょっとお話したいと思ってね。〟

「お話?どんなことですか?」

〝レイとか言う男のことだよ。あいつといるのはやめなさい。〟

「なぜです?」

〝危険だからだよ。彼は君にとって危ない。剣術、武術、魔術の全てが世界を滅ぼせるほどだ。〟


 ノアは俯く。


〝悲しいだろうが、事実だ。そんな化け物のそばに居るなんて…〟

「レイさんの魔術は、どのようなものなのでしょうか…」

〝?……魔力は学院生全員の魔力量より多い。特に厄介だと言われているのは、「クリア」だ。ノアも使えるだろう?〟

「はい……レイさんは、私より多くの魔法を知っていますか?技術などは?」

〝えっと…非常に多くの分野に長けている。完璧なやつだな…〟


 神はノアの顔を覗き見る。


〝ひっ…〟


 ノアは笑顔だった。狂気に満ちた笑顔。好奇心でどうにかなりそうな顔だ。


「それは…もっと仲良くならないとですね…♪」


 この時点で、ノアの中でレイは「魔法書の1つ」となった。


「神様っ!」

〝うわっ!な、なんだ?〟


 急に顔を上げたノアに、神は驚いた。


「ここで魔法は使えますか?あ…でも夢か…」


 そう言いながらも、ノアはポーチの中を探って杖を出す。


〝何をするんだ?魔法を使うのか?なぜ?〟


「え…だって、練習しとかないとですし……」

〝起きてやれ!起・き・て!〟

「では、どうすれば帰れますか?」

〝あと……7時間程度ここにいれば、勝手に目覚める。〟

「は?あ、いや…なんでそんな時間制限があるんですか?」

〝なるべく長く話したくてな…人と話すのは久しぶりで、つい…〟

「えー…じゃあ、神聖魔術の使い方のレクチャーでもしてください。」

〝いいだろう。〟



〜現実〜


「ソフィア!精霊の右腕を落とした!」

「あとは左腕と、うざったい翼だけですね…」

「ああ。魔力も尽き始めている…再生ができないほどなら、あとは攻撃に注意すればいい。」


 ソフィアとレイは、2人だけで戦場の精霊を相手にしていた。

 最初は四肢を切断しても再生していたが、魔力が無くなりだしたのか、なかなか再生しない。

 ソフィアが翼に向かって斬りかかる。


ヒュンッ


「カハッ…」

「ソフィア!」


 残っていた左腕で、ソフィアは殴られた。気づくはずのないレイの魔法が、見破られたのだ。


(なぜ気づく……)


 レイは戦場の精霊と睨み合う。


「ぜってぇ殺す…!」



 勇者は先頭で多くの魔物や悪魔を倒していた。

 アーティファクトを持つ勇者は、一太刀で魔物たちを切る。


「魔王は目の前だ!進め!」


 魔王の前で立ちはだかるのは、ランクAAの魔物が3体。


兵士A「あ"あ"あ"あ"あ"!」


 兵士の1人が声を上げる。


(ランクAAの魔物から距離があるのに、なぜ……?)

 勇者は見回すが、何も無い。


「まさか魔王が…?」


 今までの討伐は、魔王に到達する前に勇者は死んでしまっていたため、魔王の情報は0に等しい。

 今わかっていることは、魔王は神獣であること。

 いや、正確には"元"神獣だ。


「お前が勇者なのか?」


 頭の上から声がして、勇者は頭上を見る。

 いたのは、白い狐だった。


(喋る白くて9つの尻尾……九尾か…!)


「勇者がここまで来るのは、初めて。名は?」


 勇者は斬りかかるが、九尾に傷はつかない。


「名乗る必要ないだろう。お前は死ぬ!」

「そうか……まあ、殺せるならの話だ。」


 勇者は斬りかかり、何度も斬撃を与える。

 九尾は浅い傷が入るが、すぐに治る。


「浅いぞ。そんなのが本気か?」

「…お前の傷は魔力で治るんだろう?魔力切れすればいい。」

「魔力で治しているとして……私の魔力がどれほどかわかっていないのか?」

「わかっている!」


 勇者の目には、魔力のオーラがしっかりと見えていた。九尾は、自分の10倍以上の魔力を持っている。


「ランクSの魔法使いと同じくらいだろう?」

「そうだな……だが、私は魔力で傷を治しているのではない。」

「何を言っている?そんなはずはない!」

「私は神聖魔術で治している。」

「魔王が神聖魔術?」

「ああ。元々神獣だからな。私の攻撃は、神聖魔術でのものだ。お前の武器アーティファクトでは、相殺してしまう。」

「別にいい。お前に物理攻撃が入れば、それで……!」


ヴゥゥゥ!


 九尾が唸る。

 雲からゴロゴロと音が聞こえる。稲妻が横に走る。


「逃げるなら、今だ。」

「いや。私はお前を殺す!殺さないといけないんだ!」

「……何のために?」

「国のためにだ!」


ヴゥワゥ! バチバチッ────ドオンッ!


 九尾の唸り声で、勇者の足元や兵士たちに向かって、雷が落ちる。


兵士たち「ぐぁぁぁ!」

「大丈夫か!」


 勇者は避けながらも、九尾に攻撃を与える。


「さすが勇者…兵士たちの心配もできるか…」

「クソッ…」


 勇者は構えて斬りかかる。


「先程とあまり変わらない威力だな…」

「一刀両断…」 ボソッ


 勇者の動きが緩やかになる。


「っ!」


 勇者が斬ったのは、後ろの右脚。

 先程までとは比べ物にならない斬撃は、文字通り右脚を完全に一刀両断にした。


「すぐに治る…」

「治っても斬り続けるまでだ!」



☆ノアの夢☆


〝まず、魔力分解というのは生物と魔力を剥離させるものだ。……剥離のためにはイメージが必要だ。〟

「わかりました。では、剥離した魔力を自分のものにするには、どうすればいいですか?」

〝吸収のためには、まずノアの魔力口を開く必要がある。〟

「魔力口?」

〝魔力口というのは、魔力を出したり吸収したりする口のこと。だが、それは身体のどこでもいい。指の先がいいだろう。魔力を指先に集中させて。〟

「はい。」


 ノアは目を瞑り、魔力の流れを感じ取る。指の先に魔力を持っていく。


ポワァ シュゥゥ…


 魔力が指先から流れ出る。


「うわ…出てきましたね。」

〝「うわ…」って何?……まぁ、吸収したければ、そこから吸い込むイメージを持つ。…これの注意事項は、吸い込んだ魔力が身体に合わないことがある。十分気をつけるように。〟

「なるほど…では、それぞれの魔力に合うように、身体内で合わせますね。」

〝そんなこと、普通はできないんだが……〟


 ノアは寝っ転がる。


「あの…どのくらい経ちましたか?」

〝……4時間くらい?〟

「うわぁ…あと3時間も残ってますねぇ。」

〝だが、そろそろ戦場も大変なことになってきたな。〟

「戦場…早く行かないと……」

〝なんか…ごめん……〟

「まぁ、皆さん強いですし、きっと大丈夫です。そう信じてます!」

〝いや…大変だよ。元神獣が魔王だからね。〟

「元神獣…?!神聖魔術を使えるんじゃないですか?不利じゃないですか?」

〝不利に近いね。どうしようか。うーん……ノアのポーチには、指輪型の魔法具があったよね?〟

「ありますけど……あれがどうしたんですか?」

〝あれにはね、九尾が封印されてるんだよ。〟

「え……じゃあ、九尾は番とかだったんですか?」

〝いや。兄弟だね。〟


 光の玉はノアの上をグルグルと回る。


〝魔王の九尾は、離れ離れになったあと1人の少年に拾われて、2年程度育ててもらった。〟

「九尾を育てる…」


 ノアは神聖魔術の実験を手伝ってもらう想像をした。


〝実験のためではないよ?〟

「あはは…家族ですよね。わかってますよ。」

〝はぁ……それで、少年は隠れて育てていたところを、司教の1人であった父にみつかって、「九尾は神獣だから。」と、また離れ離れに。〟

「可哀想です。」

〝そうだね。で、育ててくれていた少年こそ、勇者だ。もっとも、勇者本人は覚えていないが……〟

「……どうすればいいんですか?」

〝何を?〟

「九尾が可哀想です。魔王だとしても、可哀想過ぎます。」


 ノアは立ち上がって、ウロウロと歩きながら考える。

 光の玉はその後ろをついて行く。


「九尾の目的は、なんだ?まず、セラシアを滅ぼしたいと思っている。ではなぜ?離れ離れにされたのが嫌だったから。でも、戦うのは育ててくれた人。噛み合わない……」


 ノアはブツブツと独り言をこぼす。


「別れた九尾に会いたいのと……」

〝神として信仰されたのが、嫌だったのかもな……〟

「え?」

〝九尾は、もとは魔法動物。己ではない別のものとして扱われるのは、人間でも嫌な思いをする。〟

「なるほど…では、九尾を解放して、国民からの謝罪があればいいでしょうか?」

〝謝罪があっても、心の傷は癒えない。討伐以外の道はない。九尾だって…解放してから魔王側についたらどうする?〟


 ノアは俯く。

 しばらくして、ノアは顔を上げる。


「…あ!"浄化"でならどうです?傷は癒えなくとも、負の感情は消えるんじゃないですか?」

〝なるほど…無害化すればいいと…やってみたら?〟

「はいっ!……ところで、あと何時間ですか?」

〝あと………40分くらい?〟



〜現実〜


「ソフィア!大丈夫か!」

「大丈夫です…なんとか、骨何本かで済みました……」


 ソフィアとレイは、戦場の精霊の魔力を尽きさせることに成功した。


「早く勇者に加勢しよう。まずは、ソフィアの手当からだ。テントに戻ろう。」

「はい…」


 30分かけてテントに戻ると、ノアはまだ寝ていた。

 メフィに手当を頼む。


「メフィの声は落ち着くね。」

「ありがとうございます。でも、ノアさんの方が綺麗なんですよ…寝てますけど。」

「何か変わった様子は?」

「特には。途中、ノアさんが唸ってたりしましたけど、起きる気配はないですね。」

「そうか…」


 1人の兵士が、テントに入ってくる。


兵士D「報告です!せ…戦場の精霊が、復活しました…」

「復活?そんなこと、ありえない!この目で消滅するのを見た。」

「私も見ました。」


 レイは、テントから戦場を覗く。

 上空には、戦場の精霊がいた。先程よりも魔力が多い。


「おはようございます…」


 振り返ってソフィアたちを見ると、ノアがいない。


「ノアは?」

「え…」


 ソフィアとメフィが、ベッドの方を見る。


「さっきまで寝てたのに…どこへ……?」


 ソフィアはとても焦っている。


「まさか、もう戦場にいるじゃないか?」

「ですが、そんなにすぐに……テレポートですか。」

「そうだ。ノアなら、簡単にできてしまうだろう。だが、魔力の消費は激しい。」

「ノアさんの魔力は、ランクS程度です。戦場の精霊を相手するなら、魔力が足りません!」

「僕も、今は魔力が足りない…」

「私が行きます…!」

「君はまだ本調子じゃないだろう!」

「ですが!」

「ノアなら大丈夫だ!」


 ソフィアは大慌てで戦場に向かおうとする。



 ノアは戦場の上空にいた。


「あなたが、戦場の精霊ですね?」

「いかにも。先程まで暴走していたが、正気に戻ったようだ。」

「そうなんですね…では、1回倒されたんですか?」

「倒されたというより、魔力切れだな。」

「そうなんですか……魔王の九尾を"浄化"で更生させたいんです。そこをどいてもらえますか?」


 戦場の精霊は、ノアに向かって槍を投げる。

 ノアは咄嗟に杖を振る。


「っ!」

「これはすごい!まるで古代人類だな!」


 ノアの顔に笑顔が浮かび上がる。


「……なぜ微笑む?もしや、いわゆるドMというやつか?」

「いや。一旦九尾はいいです。……あなたは精霊。なら、魔力切れ以外でだと、どうすれば死ぬんですか?あなた。」

「なるほど。狂信者か!」


(狂信者…?誰が?)

☆ノアの夢☆


「あの…神様って、暇なんですか?」

〝いや?暇じゃないよ。〟

「なんで、こんなことやってるんですか?」

〝楽しいから?〟

「「から?」じゃないですよ。いつも何やってるんですか?」


 神は少し間を空けて答える。


〝人々を見守ってるよ。〟

「見てるだけですよね?」

〝見守ってるの!〟

「具体的には?」


 神は黙ってしまった。


「じゃあ、わかりました。神はなんでも知ってるんですよね? 」

〝まあ…答えられるかは別としてね。〟

「なら、魔法についての面白いこと教えてください。新しい技術とか。」

〝えぇ…魔法か……魔力分解とか?相手の魔力を引き剥がしたり、自分で使ったりできる。興味無いか…〟


 神は、ノアが何も言わないことが不安になった。

 ノアの方を見ると、ノアの目が輝いている。


「詳しく!!」

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