17話 思い出のアップルパイ
明け方、ノアたちは山道を抜けて、街に続く一本道に出た。マリアはまだ寝ており、ノアとソフィアはヒソヒソと話す。
「ノアさんは、9歳でしたね。学院で学ぶことが無くなったから、冒険者になったんですか?」
「そういう訳では、ないんですけど…」
「では、なぜ冒険者に?」
ノアは深呼吸をして、話し出す。
「私は、両親とは死別。7歳まで育ててくれた義両親も、魔王の手下に殺されました。魔王の手下は殺したので、もういいんですけど…」
「指示を出したであろう魔王を殺そう。ということですね。」
「そうです。なので、これは復讐の旅なんです。」
沈黙が流れる。
「復讐以外にもすることがありますよね。」
「え…」
「無詠唱魔法を広めることです。」
ノアは、ミリアたちと話したことを思い出した。
「確かに、そうでしたね…約束したんです。ミリアさんと。」
「お約束でしたら、たくさんの場所に出向き、教えていかなければいけませんね。"ユアリーベ国"がおすすめですよ。」
「ここの国では、だめ…なんですか?」
ノアは困惑していた。他国に行くことは考えていなかったからだ。
「だめですよ。この国は、魔法国です。魔法の情報はすぐに広まります。ですが、他国はどうでしょう。散らばった魔法使いの冒険者たちに、無詠唱を教えられるのはノアさんだけです。」
「はい…」
(他国、怖い!!死んじゃう!!)
ノアが嫌そうにしているのを察したソフィアが、ノアに聞こえるようにボソッと言った。
「他国はダンジョンが充実していて、魔法研究に使える素材が豊富なんですよねー」
「…とりあえず、宿の期間が明けたらユアリーベ国に行きますね…!」
ノアは先程と異なり、明るい笑顔を見せている。
(なんかチョロいですね…)
ソフィアはすぐに、ギルド総括マスターであるレイの顔が浮かんだ。
「ノアさん、ギルマスの前では気を抜かないで、彼の言葉には注意してください。」
「?…はい。」
話していると、街が見えてきた。朝日も差して、朝がきた。
「もう朝ですね。今日は街に着いたら少し寝ましょう。」
「そうですね。眠くなってきちゃいました…」
ノアがウトウトし始める。
「寝ていても大丈夫です。私は慣れていますので。」
「いえ…これも……経験…ですか…」
スヤァ
ノアは最後まで言い切らずに眠ってしまった。
「…寝る子は育ちますからね。」
コケコッコーッ!!
「ん…?」
コンコン
誰かがドアをノックする音が聞こえる。ノアはゆっくりと起き上がってドアを開ける。ドアの前に立っていたのは、ソフィアだった。
「おはようございます。よく眠れましたか。」
「お、おはようございます…眠ってしまって、すみません…」
「大丈夫です。朝食を食べましょう。」
「あ…はい!準備するので、ちょっと待っててください!」
ノアはドタバタと音を立てて、急いで支度をした。
「お、お待たせしました…マリアさんも、待たせてしまってすみません…」
「あたしは大丈夫。さぁ、あそこの定食屋が美味しいんだ。行こう!」
「はい!」
定食屋に着いて、席に座る。
ノアは焼き魚定食、ソフィアはトースト定食、マリアはビーンズスープ定食をそれぞれ食べる。
「マリアさん、お子さんってどの辺に住んでるんですか?」
「後で案内するさ〜…」
(元気ないのかな?)
マリアはいつもより少し元気が無さそうに見えた。
3人は食べ終わって、店の外に出る。
「2人とも、ついておいで。」
ノアとソフィアは、マリアについて行く。
「マリアさん、どこに向かってるんですか?」
「うちの子の"クロア"がいるところさ。ノアちゃんと同じくらいの年なんだよ。会ってやってくれるかい?」
「もちろん…」
(写真、古そうだったけど…)
マリアは街にある丘に向かって歩いていく。
丘はとても高く、街全体が見渡せるほどである。
20個ほどの墓石があった。マリアは比較的古い墓石の前に立つ。
「ここにいるのが、クロアだよ。」
マリアは作ってきたりんごジュースを墓の前に供えた。
「クロアは、アップルパイが好きでね。食べると嬉しそうにしてたんだ。"ずっと食べてたい"って。」
マリアは上を向き、涙を堪える。そんなマリアを、ノアはそっと抱きしめる。
「泣かないとだめです。いつも明るく振る舞ってますけど、クロアさんの前だけは本心を出してください。」
ノアは優しい笑顔で言った。
マリアは、クロアの言葉を思い出す。
『お母さん!僕の前では泣いてもいいんだよ!』
無理した時、無理して笑顔を作るマリアに気づいたクロアは、いつも寄り添ってくれた。
「うん…うん!そうだね!ノアちゃん、ありがとう……!」
マリアはノアの腕の中で泣いた。
グゥ〜
しばらくして、ノアのお腹が鳴った。
「おや、お腹がすいちゃったかい?」
「すみません…//」
「あははは!いいんだよ〜!アップルパイ、食べようかね!」
3人はマリアのアップルパイを食べ、街に戻った。
「滞在しますか?」
「そうだね。今日は泊まって、明日、朝食を食べてから出発しようかね。」
「わかりました。準備をしましょう。ノアさん、また山道を通って隣の街に行くので、よろしいですか。」
「あ、はい!」
ノアは、もう少し街を見たいと思ったが、マリアのりんご農園には誰もいないことを思い出した。
3人で食料などを買っていたら、ノアが思い出す。
「ソフィアさん!ジャヴォックのお肉、売りに行くのすっかり忘れてました!」
「そういえば、討伐しましたね。」
「ジャヴォックを討伐?!本当かい?」
「はい。ノアさんが大活躍でした。」
「すごいじゃないか〜!」
ノアは、ソフィアとマリアに褒められて、照れくさそうにしている。
「ぎ、ギルド行きましょう…//」
ギルドに行くと、冒険者よりも多い数の動物がいた。ノアは、来る場所を間違えたかと思った。
(動物カフェ…?)
「"サファリファ"さんはいますか?」
「はいはーい!」
ギルドの奥から、大量の動物に囲まれた犬のような女性が出てくる。
(わんちゃんのお耳だ…!)
「あら、ソフィアちゃんじゃん!どったの?」
「買い取っていただきたい物がございまして。」
「えー!ソフィアちゃんが?珍しいじゃん!」
「私ではありません。ノアさんです。」
「ノア?」
サファリファは、ソフィアの後ろにいたノアを見る。
「えぇ!おきゃわ〜!!ノアちゃん、初めまして!あたしは"サファリファ・ポピズ"!ここの街のギルドマスターよ!」
「え…あ、そ、え、と…」
ノアは、あまりの勢いで何から喋ればいいのか、わからなかった。
「サファリファさん、落ち着いてください。かわいいのはわかりますが、それ以上は大変なことになりますよ。」
「…あ〜。買い取りだったね。ノアちゃんたち、ついておいで。」
サファリファは、少しテンションが落ちたが、しっかりと仕事を始める。
「ここは、買い取りスペース。お肉も素材も、なんでも買い取るよ。」
先程より元気がない、しゅん。としたサファリファが、なんだか可哀想に思ったノアは、思わず言う。
「少し屈んで貰ってもいいですか?」
「ん?屈む…こう?」
ポムッ
「へ?」
ワシャワシャワシャ!
ノアは、サファリファの頭を撫で始める。サファリファは、困惑している。
「な、何?どうしたの?」
「かわいくて、つい…しかも、元気なさそうでしたから。」
(励ましてくれた…嬉しい♡)
「ありがとう、ノアちゃん!」
サファリファは、撫でることはあっても撫でられることはほとんどないため、とても嬉しかった。
機嫌が治ったサファリファは、元気に仕事を始める。
「さ!なんでも出しちゃいな!」
ドンッ!
ソフィアが馬車から、大量の木箱を持ってくる。中にはジャヴォックの肉が詰め込まれている。
「え…これ、ジャヴォックの肉…?」
「はい。内臓系は全部欲しいんですけど、お肉は私たちの分貰ったので、売ろうと思って持ってきたんです。」
「ソフィアちゃん…これは、ソフィアちゃんが討伐したんだよね…?」
「いえ。討伐はノアさんです。血抜きと解体は、教えながらやりましたが。」
サファリファは少し引いている。
「ま、まあ、このくらいの量になると、全部は買い取れないなぁ…」
「そうですよね…すみません…」
ノアがしょんぼりすると、サファリファはすぐに言い直す。
「いや、買い取るよ!ノアちゃんは、銀行口座持ってる?」
「はい。この前できたばっかりなんですよ。」
「そーなのか!じゃ、ギルドカード見せて!」
ノアはカードを手渡す。サファリファは、魔法具にギルドカードを読み込ませる。
「な?!ノアちゃん…お金持ちだったんだね…」
「確か…500万円ほどだと、ソフィアさんが言ってましたよ。」
「あはは…増えてるよ…?ほら…」
サファリファは魔法具に映し出された数字を見せる。
「一、十、百、千、万、十万、百万、千万……2000万円?!」
「やっぱり、知らなかったんだね…」
「ソフィアさん!なんでですか?!」
「私には分かりません。」
「ま、問題ないよ!ノアちゃんは、銀行に振り込む形でいいかな?」
「振り込む…?できるんですか?」
ノアは今まで、小さいギルドは銀行に振り込むことができないと思っていたため、驚いた。
「うちみたいな、小さなギルドでもできるんだよ!大体の冒険者は、口座を作るほどのお金を持ってないから、その場で支払いとかするんだけどね!」
「なるほど…」
「じゃ、鑑定に入るね!」
サファリファは、肉の重さや鮮度、皮の質を調べ始めた。
30分後、サファリファはぐったりとしていた。
「終わったぁ…」
「お疲れ様です。量が多くて、すみません…」
「いいのいいの!ノアちゃんが、初めて討伐した魔物を鑑定できるなんて、嬉しいに決まってるじゃん!」
「そう言っていただけて、嬉しいです//」
ノアは、照れくさそうにして言った。
「それで、結果なんだけど…最高に良き!って感じだよ!肉の量と質から、すぐにでも有名レストランが欲しがるし、皮はカバンにしたいって職人がうじゃうじゃいる!値段は……ざっと200万円くらいかな?」
「えっ!そんなにですか?」
「そんなわけありません。」
ソフィアが、ノアとサファリファの話に割って入る。
「そんなに安いわけがありません。」
「ソフィアさん、200万円って相当な額ですよ?」
「はい。ですが、ジャヴォックの肉は希少価値が高いでしょう。サファリファさん?」
ノアの中では、そこまでお金が欲しいわけではないため、値段は正直どうでもいい。だが、ソフィアはそれを許さないと言わんばかりに、サファリファに鋭い視線を送る。
「あはは!ソフィアちゃんには、敵わないなあ!そうだね!"最低でも"200万円だ。間違えちゃったな〜。うちとしては、最高1000万くらいかな。ノアちゃんの言い値で買い取るよ!」
サファリファの言葉で、ソフィアの怖い顔がいつもの表情に戻っていく。
「あ…じゃあ…」
ノアはチラリとソフィアを見る。ソフィアは指を3本立てていた。
「300万円で…」
「それでいいの?」
「はい。お金には困ってないので…」
「ありがとう!ノアちゃん!」
サファリファは、ノアの口座に300万円を振り込み、確認させる。
「はい。確かに。」
「よし!お仕事終わり〜!ノアちゃん、お喋りしない?ちょうどおやつの時間だし!」
ギルドにある時計を見ると、4時を示していた。
「じゃあ、少しだけ。」
「やったー!」
ギルドにはノアたち3人以外いなかったため、サファリファはテーブルいっぱいにお菓子を広げる。
「何か聞きたいことない?」
「あ、えっと…あ!動物が多いですけど、好きなんですか?」
「うん!他のギルドはダメだけど、うちのギルドはギルマスから"特別に"許可貰ってるから大丈夫なの!」
「"特別"ですか…ギルマスさんとは、仲良しなんですか?」
「うん!あたしを拾ってくれたんだよ!」
サファリファの話によると、12年ほど前に森で倒れているところを、ギルド総括マスターであるレイが保護して、育ててくれた上に仕事までくれたらしい。
「では、ギルマスさんはサファリファさんの親的存在なんですね。」
「そうだよ!とっても優しいの。"お気に入り"への執着は、半端ないけど…でも、でもっ!撫でてくれるのはギルマスくらいなの。だから、さっき撫でて貰えたの、すごい嬉しかったんだ!」
「それは良かったです。初めて見た時から、お耳がかわいいと思ってたんです!また撫でたいです!」
「うふふ!どうぞ〜♪」
ノアはサファリファを撫でる。
話していたら、あっという間に時間が経ち、外が暗くなった。
「そろそろ、夕食を食べないと明日、起きれませんよ。」
ソフィアが声をかけ、宿に帰ることになった。
「ありがとうございました!」
「こちらこそありがとう!また遊びに来てね〜!」
サファリファに見送られて、ノアたちは歩き出した。朝の定食屋は、夜になればレストランとして開いているため、そこで夕食を食べた。
宿に向かって歩き出す。
「部屋は別々なので、時間になっても起きていないようなら、起こしに行きますね。」
「あたしは慣れてるから、大丈夫だよ。あたしより、ノアちゃんが心配だ。起きられるかい?」
「あ、朝は少し苦手です…でも、頑張って起きます!」
「頑張っておくれ!おやすみ!」
「おやすみなさい。」
宿に着き、3人はそれぞれの部屋に入った。
コンコン…コンッ
街の人々が眠り、静かになった頃にソフィアの部屋の窓が、合図のように叩かれた。
「こんばんは。鳩さん。ギルマスは、なんて言ってましたか?」
「"きっと盗賊だろう"とさ。フルートに行ったら、大勇者の息子であるヴァン様が、盗賊たちを捕まえてくれていたから、帰りは大丈夫だろう。」
「おつかい、ご苦労様です。」
「ほんとだよ。俺の本業はスパイだ!じゃあな!」
ソフィアは、話していた"鳩さん"を見送り、ベッドに座る。
「盗賊が、あんな大掛かりなことしませんよ…」
ソフィアは、ギルマスからの"大丈夫"という言葉を信じ、眠りについた。
翌朝、ノアはしっかりと寝ていた。
コンコンッ 「おはようございます。」
ノアは、ドア越しに聞こえるソフィアの声で起きた。
「お、おはようございます!すぐに支度しますから!」
「ゆっくりで大丈夫ですよ。」
爆速で支度を済ませて、ドアを開けた。
「お待たせしました…」
「大丈夫です。ギルマスはそもそも、起きません。」
「そうなんですか。なら、良かったです。」
「2人とも、おはよう! 」
後ろからマリアが声をかけた。
「「おはようございます」」
「定食屋で朝食にしないかい?」
「そうします!」
昨日と同じ定食屋に行き、ノアはビーンズスープ定食、ソフィアは焼き魚定食、マリアはトースト定食を食べた。
食べ終わってすぐに、馬車に乗り込む。
「それでは、出発しましょう。」
「はい!」
ノアは鞭で馬を軽く叩き、街を出た。
帰りは慣れていたからか、2日で1つ目の街に着いた。この日は既に暗くなっていたため、街で休むことになった。
翌朝、ノアはしっかりと起きていた。
「おはようございます!」
「おはよう!ちゃんと起きれて偉いねぇ!」
ノアがドアを開けたら、ちょうどソフィアがノックしようとしていた。いきなりドアが開いて驚いている。
「お、おはよう…ございます。偉いですね。」
「はい!頑張りました!」
ノアはドヤ顔で言った。
朝食を食べ、馬車に乗り込む。この街からフルートまでは7時間も進めば、着く。
馬車に揺られながら、マリアが話す。
「今回の追加依頼、受けてくれてありがとう。いつでもアップルパイを食べに来ておくれ。」
「お役に立てて良かったです…!」
「いつまで、フルートにいるんだい?」
「一応、宿が2ヶ月間滞在できるので、2ヶ月いっぱいまではいるつもりです。」
「その後は、どこに行くんだい?」
「ユアリーベ国に行こうと思ってます。"無詠唱魔法を広める"ことが目的の1つなので。」
「そうかい…また、何か依頼したら受けてくれるかい?」
「もちろんです!私にできることだったら、なんでもしますよ!」
「嬉しいね〜!」
そんな話をしていたら、フルートに帰ってきた。
ギルドに寄って、依頼達成の書類を書いてもらい、マリアを家まで送り届ける。
「ノアちゃん、ソフィアさん。クロアに会いに行かせてくれて、ありがとう……!」
マリアは深々と頭を下げた。
「こちらこそ、たくさんアップルパイ食べれて、幸せでした。ありがとうございます…!」
「ありがとうございます。」
ノアとソフィアも、マリアに礼を言って別れる。
「ソフィアさん」
「なんでしょうか。」
「アップルパイ食べたい時、ついてきてくれますか?」
「いいですけど、どうしてですか。」
「1人で人の家に行くのって、勇気いりません?」
「……確かに、そうですね。」
ソフィアも人の家に行く時、少し心の準備をするのを思い出した。
「ちなみに、週3回くらい食べたいです。」
「わかりました…3回?」
「はい…とっても美味しいです!…ダメですか?」
ノアのうるうるした瞳に見つめられて、ソフィアは母性をくすぐられる。
「いいですよ…でも、私が一緒に行くのは週2回です。1人で行けるようになった方がいいですから。」
「…そうですね。頑張ります!」
ノアはそれから、ソフィアと一緒にマリアの家に行ったり、1人で行ったりした。
2週間後、ソフィアがノアの宿を訪ねてきた。
「ノアさん、ギルドには来ないんですか?」
「ギルドは、依頼をされたら行くんですよね?」
「いいえ。依頼が来ているのかを確認するのが大事なんです。」
「そうなんですね…これからは、定期的に行きます!」
ノアはマリアの家に向かおうとする。
「アップルパイを食べに行くんですか?」
「はい!最近は1人ででも行けるようになったんです!」
「それはいい成長ですね。ですが、今日は行けませんよ。」
「えっ…」
ノアは残念そうにする。
「依頼が来ましたから。今からギルドに来てもらいます。急いでください。気難しい方ですので。」
「え!今ですか?」
「はい。今です。」
「ちょ…ちょっと待ってください!心の準備が!!」
ソフィアは心を鬼にして、ノアの言葉を無視する。
「アップルパイィィィィ!」
最後まで読んでいただいてありがとうございます
18話、お楽しみに




