16話 はじめての依頼
コンコンッ
朝の7時。ノアの宿のドアが叩かれた。
「はい!ちょっと待ってくださいね!」
ノアはドアを開けた。ドアを叩いたのは、ソフィアだった。
「おはようございます。ノアさん。」
「おはようございます。今日もよろしくお願いします!」
「用意はできているようですね。朝食は取りましたか?」
「まだですね。」
「では、一緒にどうでしょう。いいカフェを知っています。」
「ぜひ!」
ノアはソフィアと共にカフェへ向かった。カフェはギルドの隣で、フレンチトーストがとても美味しいと評判である。
「朝からガッツリ食べたいなら、プレートがおすすめです。軽めがいいなら、フレンチトーストですね。」
「フレンチトーストにします!私、見たことはあっても、食べたことはないんですよ。」
「では、私はプレートにします。」
昨晩、レストランで魔法や研究の話で盛り上がって、2人はすっかり仲良くなっていた。2人の食事が届き、食べ始める。
「美味しいですね!ふわふわです!」
「それは良かったです。プレートも美味しいので、今度食べてみてください。」
「はい!」
それから2人は食べ終わると、ソフィアが切り出す。
「今日は初依頼を受けていただきます。」
「依頼ですか…?でも、依頼主が冒険者を選ぶんですよね?私、まだ評判つくほどの活動をしてないですよ。」
「大丈夫です。既に依頼が来ていますから。」
「え?」
「冒険者ギルドに行きますよ。すぐ隣です。」
ギルドに着くと、依頼主らしい女性がいた。優しそうな笑顔をしている。
「初めまして。ノア・フェレアです。依頼というのはなんでしょうか?」
「挨拶できて偉いね!あたしは"マリア・グルペア"。依頼主になるよ。立ち話もなんだ!相談室を借りようかな。」
ソフィアは「こちらへどうぞ。」と素早く相談室に案内してくれた。
「あたしが依頼したいのは、"アースバグ"の討伐だよ。数はざっと10匹だ。ランクAのノアちゃんには、簡単すぎるかもしれないね。受けてくれるかい?」
「あ、はい。もちろんです。あの、アースバグって何かに使うんですか?」
「いいや。ただの駆除だよ。木の根が食われたら、木が倒れちまうからね。報酬はアースバグの素材と、銀貨5枚だ。」
「わかりました。討伐対象のいる場所に、案内してもらえますか?」
「ああ、もちろん!」
ギルドを出て15分ほど歩いた所に、大きなりんご農園があった。
「ここだね。土にアースバグは埋まってる。できれば、木は傷つけずに討伐してもらいたい。」
「わかりました。」
ノアは杖を取り出し、軽く振る。地面から
グサグサッ────きゅぇぇぇ!
と音がした。
「終わったと思います。」
ヒュンッ────フワフワ
全てのりんごの木が宙に浮き上がり、りんごの木があった穴には10匹のアースバグがいた。
「む、無詠唱かい?」
「はい。」
「もしかして、とんでもなく長生きしてるのかい?」
「いえ。9年しか生きてませんよ。」
「ノアちゃんはすごいね〜!あたしゃ、感動しちまったよ!こんな早く終わるとは思ってなかったんだ。報酬を渡すから、家に来るといい。」
「はい。」
ノアはソフィアに手伝ってもらって、アースバグを地上に引き上げ、マリアの家に行った。
「さぁさぁ。座っておくれよ。ノアちゃんはココア。ソフィアさんはコーヒーでいいかい?」
「はい。」
「ありがとうございます。」
マリアはココアとコーヒーを入れて戻ると、報酬の銀貨5枚をテーブルの上に置いた。
「これが報酬だよ。」
「ありがとうございます。確かに、5枚ちゃんとありますね。」
ノアは確認すると、ポーチの中にしまった。
マリアが切り出す。
「ノアちゃん、追加依頼を受けたりしないかい?」
「追加でですか?…お話だけ伺っても?」
「そんなに身構えなくていいさ!簡単な依頼だよ。護衛依頼さ。」
「護衛…?どこかに行くんですか?」
マリアは頷き、棚からアルバムを持ってくる。
「この子に、会いに行きたくてね。」
マリアはアルバムの家族写真に写る1人の少年を指さす。
「この子は2つ隣の街にいて、半年くらい会えてないんだよ。あたしは、魔法が使えないから魔物に襲われたら、死んじまう。どうか、守って欲しいんだよ。」
ノアは悩む。
(護衛してあげたいけど、私では力不足かもしれない…)
ノアが何も言わずにいると、ソフィアが提案する。
「私も同行する条件でなら、どうでしょうか。」
「ソフィアさんも守ってくれるのかい?賑やかになるし、安心が増えるね。嬉しいよ。」
マリアは、話がまとまったかのように立ち上がり、キッチンに行った。
ノアは心強いが、迷惑なのではないかと思った。
「ソフィアさんが来てくれるのは、私も心強いです。でも、忙しいんじゃないですか?」
「大丈夫です。初依頼をしっかり見届けるように言われていますから。追加依頼も、初依頼に含まれます。」
「そうなんですか…!ありがとうございます!」
マリアがキッチンから戻る。
「2人が受けてくれて良かったよ!これ、うちのりんごを使った"アップルパイ"だ。たくさん食べておくれ!」
「うわぁ…!美味しそうです!」
「美味しそうじゃないよ?美味しいんだ!召し上がれ。」
ノアとソフィアは2人して、サクサクッと音をたてて食べた。
2人は顔を見合わせる。
「「美味しい!!」」
ノアが幸せそうな笑顔を浮かべて食べる。
「ずっと食べてたいです!」
「そうだろう?お食べ♪」
マリアは2人を微笑ましく思った。
2人は夢中で食べ、お昼ご飯が食べられないくらい食べた。
「ご馳走様でした!」
「とても美味しかったです。それでは、また明日。」
マリアは玄関で見送ってくれた。
「また明日!都合の合う日教えておくれ。」
「はい!また明日!」
幸せそうな笑顔で帰っていくノアを見て、マリアは心が温まった。
歩いている時、ノアはソフィアに質問した。
「あの、どうしてマリアさんは今回の依頼を、私に依頼したんでしょう?」
「どういう意味ですか?」
「活動もしていないのに、名指しできるのが不思議だったんです。」
「ギルドには、掲示板があります。冒険者全員のランクと評判が書かれています。」
「それで、私を知ったと?ソフィアさんが依頼を持ってきたわけじゃないんですね。」
「はい。あくまでマリアさんがあなたを選んだんです。」
("あくまで"か…)
「わかりました。掲示板を見てみたいです。」
話していると、ギルドに着いた。入ると、冒険者は1人もいなかった。
「全員、依頼に行ったんですか?」
「多分そうです。これが掲示板になります。」
掲示板には上から、ランクの高い冒険者から順に名前、ランク、評判が書かれていた。
評判は星の数で表されていた。多い方が評判が良く、マックスで10個だ。
ーノア・フェレア
ランク A
評判 ☆7 ー
「ほ、星7?!どうしてですか!」
「魔法使いギルドの紹介分の評価と、テストの結果を踏まえた上での、私からの評価です。」
「これは、普通の範囲ですよね…?」
「いえ。かなり高い方かと。」
「なぜですか?」
「優秀なら、それに見合った評価を付けるのが、私の仕事です。」
「な、なるほど…」
(評判がいいと、依頼が増えるんじゃ…?)
ノアの心を見透かしているように、ソフィアが付け加える。
「ちなみに、依頼は評判が良い方が多くなります。現在のランクで☆10になった場合は、特別にランクが上がります。」
「はい…」
ノアは頼まれたら、断ることはほとんどない。旅の中で復讐のヒントを得るのは難しそうだった。
「少し休憩していってはどうでしょう。アップルパイでお腹がいっぱいでしょうから。」
「そうします。マリアさんの追加依頼は、どうしましょうか?」
「護衛依頼は難しいですよ。人見知りなら、パーティを組んで仲間と行った方がやりやすくなりますね。」
「ソフィアさんがいれば、心強いですよ。でも、他の冒険者の方と仲良くなっておく必要がありますよね。いつでもソフィアさんが、いてくれるわけではないですから。」
「はい。頼まれれば一緒に来ますが、都合がつかない時は行けませんね。今回の依頼はいつでもいいですよ。」
ノアはしばらく考える。準備が必要なら備える必要があるし、街の観光もしたいと思っているからだ。
「明後日にしましょう。明日は準備をしようと思います。」
「それがいいと思います。明日、マリアさんに伝えに行きましょう。」
「はい!準備って、食料とかでいいですか?」
「はい。それと、馬車の準備もですね。」
「馬車ですか?私、乗ったことないです。」
「では、教えながら行きましょう。」
「お願いします!馬車、借りに行きましょう。」
ノアとソフィアは客車と御者席が繋がっている馬車を借りた。目的地はここから、最低でも5日はかかる。トラブルに備えて、食料は多めに持っていくことになった。
〜出発当日〜
コンコンッ… ガチャ
「おや、ノアちゃんとソフィアさんかい。朝食、食べてくかい?」
「おはようございます。食べます!」
「頂きましょう。」
マリアの家で朝食を食べ、馬車に乗り込む。
「では、行きましょう。」
「頼むね!」
ノアはソフィアの隣に座って、手綱を持つ。
「進む時は、軽く鞭で叩きます。止まる時はこの手綱を、クイッと引いてください。では、少し実演するので、見ててください。」
「はい…」
ソフィアはノアの持つ手綱を貰い、馬を鞭で軽く叩いた。
パチンッ
馬はゆっくりと歩き出した。
100mほど行って、ソフィアが手綱を引いた。馬はゆっくりと止まった。
「こんな感じですね。やってみてください。」
「は、はい…マリアさん、ちょっと揺れるかもしれません…」
「かまわないよ!たくさん練習しな!」
「ありがとうございます…」
不安の中、ノアは鞭で軽く叩く。
パチンッ
初めてだが、ソフィアが操縦するのと変わらないほど、ノアはちゃんと馬が扱えた。
「大丈夫ですよ。ちゃんと扱えてます。このまま出発しましょう。山道に入って5kmほど進んだら、一度馬を休ませます。」
「はい。マリアさんは大丈夫ですか?」
「あたしは大丈夫!ノアちゃんは上手だね〜」
それから、マリアの家から20分の山道に入った。
馬車に揺れながら、マリアの子供の話やノアの研究の話をして、山道から5kmの地点に着いた。
「お馬さんも、しっかり休んでくださいね。」
馬を5分ほど休ませ、また進みだす。
休憩しながら、5時間かけて1つ目の街に到着した。
「やっと着きましたね…」
「お疲れ様です。初めてとは思えないほど上手でした。」
「ああ!快適だったよ!ところで、遅めの昼食にしないかい?」
「そうしましょう!この街での名物ってなんでしょう?」
「良い店を知ってますよ。"クラウドウルフ"の肉が美味しいんです。」
「クラウドウルフは美味しいよ!ノアちゃん、クラウドウルフを食べようじゃないか!」
「そうしましょう!」
ソフィアが紹介した店は、高級感溢れる内装と料理で、ノアは圧倒されそうだった。
ウエイターが料理を運んできて、説明を始めた。
「こちら、"クラウドウルフのステーキ"でございます。クラウドウルフはご存知で?」
「た、食べるのは初めてです…」
「クラウドウルフは、風属性の魔物になります。ですので、風魔法でずっと浮かんでいて、ほとんど筋肉がありません。脂身が多く、ジューシーな肉になります。」
「ありがとうございます…」
「では、ごゆっくり。」
ノアはステーキにナイフを刺し込む。輝く肉汁が溢れてきて、ソースと混ざる。
(美味しそう…!)
ノアは、恐る恐る一口食べた。
「っ!」
(すごい柔らかい!歯がいらないくらいだなんて!)
ソフィアとマリアも一口食べる。2人の顔からも、本当に美味しいことがわかる。
「ここまでは順調に来れましたが、ここから目的地までが遠いです。ガジオルド谷を通りますから、しっかり休まなければ行けません。」
「ガジオルド谷って、長いんですか?」
「いえ。ただ、ランクAでも手こずる魔物がいるのですよ。遠回りでもいいですが、何日もかかってしまいます。」
ステーキを食べ終えたマリアが言う。
「あたしは、何日かかってもいいよ。急いでるわけじゃないからね。」
ノアは考えた。
(マリアさんは長旅に慣れてないって言ってたし、短い方がいいけど…)
「何かあっても大変ですから、何日かかけて進みましょう。」
「いいのかい?」
「はい。私でも勝てない魔物なら、マリアさんを安全に送り届けたいですから!」
「そう言って貰えるのは、嬉しいね〜」
翌日、ノアはソフィアと追加の食料を買い、馬車に乗った。谷を通っても、丸1日かかるが、遠回りは3日ほどかかる。
山は荒れており、途中で魔物と会ったが3日目の夜になっても、大きなトラブルはない。
3人は山道出口から10kmの地点で野営することにした。マリアは既に寝ている。
「ここまで長かったですけど、何も無くて良かったですね。」
「はい。ノアさんも馬車を操縦するのが得意になりましたし、良かったです。」
カサカサ
「「!」」
2人は魔物の気配に気づく。
「なんでしょうか?」
「まさか…"ジャヴォック"がこんな森にいるわけありません…」
「"ジャヴォック"って?」
「風魔法をお願いします!」
ノアは咄嗟に杖を振った。
風が木を切り倒す。
ぎゅぁぉぉぉ!
鳴き声が聞こえる。
「あの…ジャヴォックって?」
「水魔法が来ますよ!"ウィンドシールド"を!」
「は、はい!」
ノアが防御をすると同時に、水の槍が飛んでくる。
ノアは、まだ姿が見えない魔物に対して雷を起こした。
ボンッ! ぎ…ぎゃぁ…
「倒したようですね。ノアさん、お疲れ様です。私は見に行ってきますので、マリアさんを頼みます。」
「はい…」
ソフィアはものすごい速さで森の奥へ行った。
5分ほどたって、ソフィアがドラゴンのような大きい魔物を持って、帰ってきた。
「これが、"ジャヴォック"です。大きいでしょう。」
「はい…」
(これを手で持ってきたソフィアさんは、何者なんだろう…)
「これは、主にガジオルド谷の河付近にいますが、どういう訳か森にいましたね。」
「どんな魔物なんですか?」
「水属性で、周りにある水を使って魔法を放ったりするので、河付近で会うと厄介なんです。」
「なるほど…」
「これは、解体して持っていきましょう。いい機会です。血抜きと解体をするので、教えます。」
ソフィアは素早くジャヴォックの首元を切り、血抜きを始める。
「ジャヴォックのような大型の魔物の血抜きは、このように寝かせたままにします。」
「小型なら、吊り上げますけど、そうはいかないということですね。」
「はい。この大きさなら、あと10分もすれば終わるでしょう。」
血抜きが終わった後も順調に解体が始まる。
「解体は、まず内臓の類を全て取り出してください。ここを切り開きます。力をしっかりと込めてください。」
ソフィアは、説明しながらジャヴォックの腹に切り込む仕草をしながら、指示を出す。
「はい…あの、血が飛んできたりしませんよね?」
「血抜きはしましたから、多分大丈夫ですよ。」
ソフィアの言葉を信じ、ジャヴォックの腹にナイフを当てる。体重を乗せながら慎重に切ると、心臓が見えた。
(うっ……)
「綺麗ですよ。…大丈夫ですか?」
「少し、怖くて…」
初めて見る内臓は刺激が強くて、ノアに吐き気が襲う。
顔色が悪いノアを見たソフィアは、少し考え込んでから言う。
「そういえば、ジャヴォックの体は全て素材になり、魔法の研究でも使うと聞いたことがありますね。」
シュバッ!(ノアがソフィアを見る)
ソフィアがチラリとノアを見る。目を輝かせていた。
「あ、あの…この素材って…」
「討伐したのはノアさんですから、好きにしていただいて結構ですよ。」
「ありがとうございます!!」
それからノアは、吐き気を忘れて解体をした。しかも、研究に使えるようにとても綺麗に。
「全て綺麗に解体できてますね。研究に使うのは、主に内臓らしいので肉や皮などは、売ってしまった方がいいと思いますよ。」
「では、そうします!次の街にもギルドがありますよね?」
「はい。そこでも素材の買い取りができますので、立ち寄りましょう。」
「はい!」
2人は解体したジャヴォックを馬車に乗せる。
「そういえば、"ジャヴォックが森にいるはずない"って言ってましたよね?どういう意味ですか?通常、谷にいるんだったら、森にも入ってきたりするんじゃないですか?」
ソフィアはジャヴォックの肉を運びながら答える。
「ジャヴォックが通常、谷にいる理由はなんだと思いますか?」
「え?…体が大きいから、住み着きやすい…とかですか?」
「それもありますが、1番は水があるからです。」
「水?水属性なら、生成して攻撃できますよね?」
「はい。ですが、生成するのと、あるものを利用するのとでは、魔力の使用量が違います。」
「あ!だから、常に水がある河付近にいるんですね!」
ノアが閃いたように言った。
「正解です。あのように森にいては動きづらいだけです。実際に、こちらに向かってくるような素振りはなかった。つまり、意図的に転送された可能性があるでしょう。」
ソフィアは最後のジャヴォックの肉を馬車に乗せた。
「意図的に…ですか?誰がそんなこと…」
「わかりません。我々を狙ってなのか、実験なのかも不明。とりあえず、森が安全ではない状況であることは間違いありません。夜のうちに進みましょう。」
ソフィアは、寝ているマリアを起こさないように馬車を走らせる。
カサカサ…
木の影から、何者かがノアたちの馬車を、じっと見つめていた。
最後まで読んでいただきありがとうございます
17話からは、22時に出します
お楽しみに




