03―A
「全ては貴様たちの責任だ」
上司との会話は開口一番に告げられる叱責から始まるものだ。
このところ何も上手くいかない芋縁は、それが己の短慮が原因であることを知ろうとしない。上司の失敗は部下の責任。典型的な黒企業だと部下は思う。
「此度の失敗により吾輩の地位が危ぶまれる結果となった。どうして吾輩の出世街道には邪魔ばかり入る。吾輩の功績を見れば幹部に上り詰めていて当然だというのに」
下働きをしていた頃は優秀であっても一つ出世した途端に無能に変貌する。得手不得手が極端である者ならば当然、仕事内容が変わると立ち行かなくなるものだ。
ならば早々に上部の者が対応してくれれば。せめて自ら無理ならば無理だと言ってくれれば、部下が苦労することもないだろうに。
部下は風通しの悪さを痛感しながら、上司の過去の栄光に縋り続ける話を右から左へ流していく。
「芋縁さま、連絡です」
「吾輩が幹部になった暁には」
「その幹部からの連絡です」
「早う言わんか」
幹部との会話は開口一番に飛び出した他責から始まるものだ。
昨今の業務の滞りは全て部下の失態であり、決して上司の責任ではない。そんな風に端末へ媚びへつらう姿など、幹部にとってはどうでもいいこと。
「先の任務の失態は部下の者が功を急いたのが原因でして、はい。吾輩の責任だなんて、はい。え、どうでもいいとは」
かつての部下ならば愉悦に勤しむ場面であったが、事件以降はそんな気も起きない。自分は何をしているのか。存在意義が分からなくなっていた。
ただ行動理念だけは変わらない。変えることは許さない。
「こちらへお越しくださると。いや、それは。わざわざ僻地にまで足をお運びになる必要など。え、あ、吾輩が無能である、と」
どうやら上司の無能ぶりに気付いた幹部が現地にまで訪れるらしい。話が進むに連れ顔を青くしていく芋縁は、通話をしながらも忙しなく手元にある菓子や娯楽本を片付け始める。さすが武勇伝を語るだけはある器用さだ。現場に戻ればいいのに。
これは部下の思考の片隅にあった情景が実現されたものだ。しかしなぜだろう。望んだはずの状況を前に胸が早鐘を打って止まらない。
『内戦の計画が早まりそうだ。直に大和全土を舞台にした戦いが幕を開けるだろう』
「そう言われましても、こちらにも準備というものが」
今代の幹部たちは血の気が多いと聞いていた。上司が誤って拡声機能にした端末からも一方的な報告が並べられていく。
これは血の気が多いというものではない。血が通っていないのではないか。そんな草案を次々と聞かされる。事実なのか、実行に移すつもりなのか、どこまで本気なのか。現場の部下には何も分からない。
ただ今は、媚びへつらう上司を見る目が変わっていることに気付いた。
「なんとか待っていただけないかと」
大切な命綱なのではないかと。
「今度こそは手土産を用意してみせますゆえ」
全然そんなことはなかった。
『司書の手綱を握るのも限界だと委員会から連絡が入ってね。そもそも追い出された輩がどうこう出来る存在でもないのにさ』
「実に目障りな事この上ない。吾輩が代わりに釘を刺してやりましょうぞ」
『君如きが何を』
「ですよね。承知しておりますとも」
若輩の威圧に対して中年が媚びへつらう様が繰り広げられること数分。それなりに幹部はこの光景を愉悦しているように感じる長さが過ぎていった。
『では耳には入れたからね。思惑通りに動いてくれるなんて微塵も思えないけど』
「滅相もございません。吾輩はやれば出来る者で」
『会うのが楽しみだよ。いったい、どんな反応を示してくれるんだろうね』
ただの連絡という幹部の威圧は、上司への冷たい選別で幕を閉じた。部下には、とりあえず大変な人物が来訪することくらいしか分からない。
「先に切りおるとは礼儀も知らぬ若造めが。そもそも吾輩を誰と心得る。終始一貫して嫌味ったらしい言い回しをしおって、全ての責任は現場にあるというのか」
「お茶を取り替えますね」
証拠の隠滅を図った惨事が机の上に広がっている。菓子を撒き散らし、茶を零し、慌てるからそんなことになるのだ。資料端末を救出できたからいいものの。
部下が近辺の片付けを行っている間も芋縁の愚痴は留まることを知らない。通話の切れた端末を幹部に見立てているのか、それとも目の前の部下に対して幹部に言ってやってるぞ感を出す意思表示なのか。
これは長丁場になる。覚悟を決めて聞き流そう。
「もとを正せば上が他党に喧嘩を売ったのがケチのつきはじめ。物事というのは順序があるだろうに、碌な地固めも根回しもせず怠りおって。首が回らなくなれば現場に責任を押し付けるか。無駄な仕事を増やされる現場の身にもなってみろ。こちらは毎日ひもじい生活を強いられ、耐えに耐え抜いて今日の飯代を稼いでおるというのに、貴様らとくれば空調の効いた部屋で茶菓子を頬張りながら顎で人を使っておるのだろう」
「貴方のことですか」
やべ、言っちゃった。
「顎で使う。おい部下。えっ、あ」
「桃井嗣生にございます」
初めて名乗ってしまった。名前も覚えられたくないのに。
「そうだ桃井。幹部の方がお越しくださる。オマエのような下っ端には分からんだろうが、とても偉いお方だ」
「承知いたしました。すぐに歓迎の準備に取り掛かります」
大方は聞こえていたことなど、おくびにも出さない。飛び交っていた物騒な単語から耳を塞ぐように、桃井は七三に分けた黒赤の髪のように、ただ己の成すべきことを成すだけだ。
「その必要はない。吾輩がいずれ蹴落とすキザ男だからな」
「左様でございますか。承知いたしました」
すぐに歓迎の準備に取り掛かります。追加で尻拭いの準備が増えましたが、今回ばかりは追い付きそうにもありませんね。
アレンの一日は早い。
夜が明ける前に豪快な欠伸と共に起床し、寝惚眼を擦りながらうがいをする。軽い食べ物を胃に入れて身体を目覚めさせると、ようやく日課の始まりだ。
屈伸、腹筋、腕立て伏せをそれぞれ二〇回三組。数少ないそれだけに集中し、ゆっくりと限界まで負荷を掛けていく。時間に余裕がない日々でもこれだけ欠かさず行っていれば、三カ月で成果が表れてくるのでぜひ試してほしい。
時間に余裕がある場合は庁舎寮から屋外に出て三〇分の走り込みを行う。追い込んだ筋肉により基礎代謝が高まった肉体は、有酸素運動の効率を高めてくれるのだ。
ただし、走り込みは軽く行う程度に留めてほしい。筋肉の回復を妨げてしまい、筋肉が育たない。より高みを目指したいならば、必ず専門の筋肉家に指示を受けてくれ。
筋肉と向き合い適切な鍛練と休息を繰り返す。さすれば必ず筋肉は応えてくれる。筋肉はいいぞ。筋肉筋肉。
新規の部隊が編成されてから一カ月が経とうとしていた。
太陽が昇り始めた街に色濃い影が伸び、静かな環境から徐々に音が聞こえ始めるころには、走り込みを終えるため庁舎へ戻る。
すっかり見慣れた学生の往来。慌ただしい庁舎。騒がしい訓練所。日課を繰り返すことで配置も間取りも完璧に把握した庁舎内で、アレンは人の視線が届かない林の中に向かった。
蛋白質豊富な携帯食を口に含み、水筒から浴びるように水を飲む。栄養が、水分が、筋肉に染み渡る。最高の瞬間だ。
しかしここまではただの日課。彼の鍛練はここから始まる。木の幹に立て掛けていた木刀を手に取ると、素振りを丁寧になぞる。
いつからこんな日々を繰り返すようになったのか。幼い頃の自分は同じように村の林へ隠れて鍛練していた。強くなるため。大切な人たちを護りたくて。
その始まりは、一人の少女だった。
「努力型でしたか。てっきり天才型だと思ってましたよ」
声が聞こえた瞬間に木刀を木陰に投げ隠す。鍛練に集中し過ぎていたのか、気配をまるで感じなかった。
「あ、えっと」
「心配しないでください。このことは誰にも言いませんから」
「はは、ありがとう」
見られたくない現場を目撃されて戸惑うアレン。すぐに察して気遣うエミリに感謝を述べる。
「戦闘では派手に活躍するのに、意外と繊細なところもあるんですね」
「昔、ちょっとな」
「そうですか。まあ、努力を笑う奴は嫌いです」
「誰だってそうじゃないか」
無垢な表情で言い切る彼に呆れるやら羨ましいやら、複雑な笑みを返す。今の彼女には、その純粋さがとても眩しく映ってしまうから。
「ところで、このあと商業施設で皆と会食を予定しているのですが、アレンさんも来ますよね」
「ああ、参加させてくれるなら」
楽しめる場所があるなら積極的に参加するのが彼の流儀だ。言い換えれば、後悔しない生き方を心掛けている。いつだって、約束の少女に見られても誇れる自分でいるために。
「水浴びしてから来ますか。それなら途中で仲間と会ったら声を掛けておいてください」
「端末で連絡すればいいじゃないか」
「私は先に失礼しますね」
疑問に答える間もなく、そそくさと場をあとにしようとするエミリ。その背中に向けてアレンは確認したいことがあると声を掛ける。
「わざわざ誘ってくれるためにこんな場所まで来たのか。どうやって俺を見付けた」
壁外でも怠らない日課の癖で鍛練のときは意識的に警戒心を高めている。なのに気付けなかった理由を知りたかったのだが、返ってきたのは何かを試すような言葉だ。
「私が来たのは初めてですよ」
釈然としない困惑を汗と共に洗い流すと、訓練施設内に備え付けられた自販機で喉を潤した。鍛練では喉が渇く前に水分補給するのが鉄則である。長椅子に座って時計を確認するが、会食は昼という話なのであまり休んでもいられない。
足を延ばす前に足を伸ばしておこうなどと呆けていると、新たに誰かが休憩室に入ってくる気配を感じた。別に相手によって態度を変える質ではないので、そのまま伸びておく。
「アレンも朝の鍛錬なのね。おつかれさま」
「ん、アリサも来てたのか。おつかれさん」
いつもとは異なる軽装に身を包んだアリサは、やはり水浴びをしたのか髪を真っ直ぐに下ろし、肩に掛けた柔らかい布を顔に当てていた。
アレンの様子を確認するや自販機に向かい、同じ飲み物を手に持って来ては自然と隣に腰を下ろすと、花の香りがふわりと広がる。
「あの、えと」
「どうしたよ」
隣に並んだはいいものの、なぜか彼女は落ち着かない様子。休憩室なのだから何も話さなくても構わないのだが、それもどこか違うのか、口をパクパクさせている。
「いつも、この時間に鍛練してるんだっけ」
「まあな。日課を欠かすと気分がモヤモヤするんだ」
「わたしも日課を欠かさないんだけど、でも、施設では見掛けたことがないような」
「お、おう。それは、まあ、うん」
今度はアレンが落ち着かない様子をしてしまう。対するアリサも言葉を間違ってしまったのかとオドオドするが、それでも意を決したように伝えたい思いを口に出した。
「よければ、今度から一緒に鍛練したい、かな」
勢いで言葉を紡いだため、保険を掛けるように疑問符で終わってしまった。
「分かった。今度からよろしく頼むよ」
「ほんと」
花が咲いたような笑顔を浮かべる彼女に釣られてアレンも笑みを浮かべてしまう。
あれだけ努力を見せたがらない自分が、どうして了承してしまったのか。言い終えてから気付いたが、不思議と心は明るかった。
「そういやこのあと商業施設で会食があるんだが、他の仲間も誘っておいてくれって頼まれてんだ。アリサも来るだろ」
「もちろん。誘ってくれてありがとね」
何かを誤魔化すように頼まれたことを伝えて、飲み物を一気に呷る。空になった飲み物を片付けに立ち上がると、そのまま部屋をあとにしようとした。
「じゃあ、またあとでな」
「え、あれ、ま、待って」
突如として別れの雰囲気が漂い出して、アリサは思わず手を伸ばす。二人共が咄嗟の言動をしているため冷静になる隙もない。余裕のない状況から発せられるそれらは、謂わば本音であった。
「一緒に、行きましょ」
商業施設一階に並び立つ飲食店の数々。中間試験の時期と重なったのか下校途中の学生たちで溢れ返っていた。
事件があったことが嘘のような賑わいに足を踏み入れた二人は、揃って中央の共有飲食広場にいる仲間たちを探す。水浴びの差異から先客がいると思ったのだが。
「二人共、こっちだよ」
仲間内で最も背の高いライトが大手を振って招いてくる。そんな姿ですら周囲の生徒から黄色い歓声を貰うのだから罪な男だ。
「ぜったい、わざとだ」
「ええ。間違いなく」
学生たちよ、どうか騙されないでくれ、と願いつつ仲間の集う席へ合流する。
「無事に二人で来てくれたみたいですね」
連絡役のエミリは歓迎を述べるが、その意識はレオンに向かっていた。
合流した二人には、濡れた身体を乾かす時間しか与えないよう図って誘いを出した。身形を整える猶予もなく、軽装のまま二人が並んで訪れる。そんな仲睦まじい状況を意図的に作り出して、見せ付けられる彼はどんな反応を示すのか。それが彼女の狙いだった。
「遅れてごめんなさい」
「いえいえ、わたしたちも到着したばかりですので」
もともと教官から交友を深めるために会食を提案されていたのだが、それを利用した形である。
エミリにとっての最優先事項は常に己が仕える主で揺るがない。現状、最も不穏分子であるレオンの感情が、どんな性質と方向性を示しているのかを測り、結果次第では。と考えていたのだが。
「オレたちは注文を終えている。二人も早く飯を選ぶといい」
全く感心を示すことなく、予想した反応を得ることは出来なかった。ならば彼が固執しているのはアリサではないのか。
方向性を絞れただけマシか。今回での判断を下すことを諦めたエミリは、何事も悟られる隙を与えないまま、仲睦まじい二人に意識を戻す。
「お、ナゲットの期間限定ソースだってさ」
「へぇ、そっちもおいしそうね」
「分け合えばいいんじゃないか」
「ん、ありがとう」
こちらの二人は少しずつ関係性が変化しているのだが、ちょうど距離感を掴み辛い時期らしく、見ている方が焦れったくなる。
ぐぬぬとエミリが歯噛みしている様子に、何を悟ったのかライトまでぐぬぬを始めた。
「なんだよその表情は。ナゲットが食べたいなら分けてやるけど」
「いや距離感。アレンさんは距離の詰め方が早いんですよ」
アレンは思い遣りを大切にするあまり最初は遠慮がちに探りを入れるが、相手の許容範囲が分かればすぐに肩を組んでくる。それでいて心の壁には決して踏み込まない配慮まで併せ持っていた。相対した者には容赦なく踏み抜いていくが。
「みんなもハンバーガーだったのね。どんな味にしたの」
アリサは思い遣りを大切にするあまり周囲との距離感に悩む質だ。不慣れな交友の空気を壊さぬよう、雰囲気を読んで懸命に付いていく。強い芯と柔軟性を兼ね備える本質が発揮されたなら、きっと深く広い関係性を築いていけるだろう。
「私のは限定ものです。新しいに唆られまして」
「僕のは復刻ものだね。思い出を感じられるよ」
「オレは定番に限るな。安定した良さを求める」
そんな二人を迎えた仲間たちは、学生時代の感覚が呼び起こされたのか、馴染み深い食べ物を机に並べていた。遅れて商品を受け取った二人も同じものだったゆえ、先程の遣り取りが再演される。
「おまえらもナゲットあんのかよ。それならソースは全部共有にするか」
「僕も貰っていいんだよね」
「二度漬けは禁止ですから」
周囲の風景も相まって、部隊の仲間たちは学生へ戻ったように楽しみ始める。或いは初めての経験に戸惑う仲間へ積極的に話を振っていった。
ポテトをソースに浸け出したり、浸け過ぎだと怒られたり。終いにはハンバーガーのソースにまで。
「あぁ、そうだ。みんなに聞きたいことがあるんだよ」
同郷野郎二人が味変で遊んでいると、その内のライトが真剣な面持ちで話題を出してきた。これは今後の活動に向けても確認しておいた方がいいだろうと聞き入る。
「みんなは、どうして部隊の招待に応じたんだい」
「いきなりどうしたんですか」
彼女は主の発案に関する話題に逸早く反応するが、機嫌を損ねた風はなく、純粋な興味を示している。
「部隊の結束を目的にした会食なら、触れないわけにもいかないと思ってね」
「なるほど。話し辛い事情もありますから、答えられる範囲でよければ」
前向きな意見に満足したのか、他の仲間たちも話題に参加していった。まずは話しやすい流れを作ろうとアレンが答えていく。
「俺は遠津の自警団に所属していた。内戦に反対する派閥と脱出したんだが、反対派の全滅で受け入れ先がなくなって。そんなとき司書から受け入れの打診やら、部隊への招待があった。最初は見返りとして応じたんだが、今は同じような悲劇を減らせるよう、少しでも力になれたらと思う」
遠津の経歴を聞いて拒絶されると思ったが、仲間たちは歓迎の頷きを返してくれた。
魔械省の話題が出たため、次はアリサが静かに語る。
「わたしはずっと会議の場から情勢を聞いてたの。初めは噂程度のものだったのに、昼夜問わず情勢は変化して、内戦阻止のために遠津と会談を重ねていたところに砲弾が撃ち込まれた。炎の中でわたしは無力を痛感したの。武器を持って押し寄せてくる戦闘員と民間人。そんな現場の声を聞かなきゃいけないと思って部隊への参加を決めたわ」
会議と現場ではモノの見方が、視点が違うのだと彼女は言う。話し合わなければ内戦は止められないのに、どちらか一方の視点だけでは通じる話も通じない。
果敢に最前線に立とうとする決意を聞き届けた仲間たち。しかし人類の脅威はもう一つあるとエミリが続く。
「私は祖父母が営む喫茶店で育てられまして。遠くで働く両親に褒めて貰いたくて頑張ってたんですよ。ですが勤め先が魔物の襲撃にあったと知らせが来て、それっきり。そんな不幸を無くすために、私はここへ来たんです」
滅ぼされた集落。ライトにも身近な話だった。
「僕も故郷が滅ぼされてね。目覚めたときにはレオンの集落に助け出されてた。生き残ったのは僕と妹の二人だけ。でも集落も人が少なくなっててさ。僕が我儘を言う余裕なんてないでしょ。だから僕たちを助けてくれた恩返しとして、同じ境遇にある沢山の集落の力になりたい思ったのさ」
文化は歴史であり、人類が存続するために獲得した知恵でもある。そんな壁外の文化を守るために、今も戦っている人たちがいる。
最後となったレオンも、そんな誇りを持っているのだろうか。
「オレは強くなる。求められたそれを貫くだけだ」
あまりにも短い言葉を、彼は堂々と言ってのける。その言動には迷いを感じさせないが、数多の感情が込められているようでもあった。
何にせよ、五人の動機は前を向いている。
「みんなの思い。叶えてみせよう」
皆の結束を高めるように、ライトは熱く締め括った。
「これが、青春」
「本当に青春してる人たちは遠巻きになってますけどね」
「あえ」
五人はここが学生で賑わう飲食広場だということをいつの間にか失念していた。和気藹々と食事を楽しみ、不器用に仲を深めていたら、いきなり物騒な話を語らい出す。こればかりは周囲から距離を置かれても仕方ない。
「食うか」
みんなは、すっかり冷めてしまった残り物を静かに完食した。
標的の居場所が特定された。任務の決行を意味する報告に部隊の緊張が高まる。
その名は芋縁。穹窿という特殊な仕組みにより、遠津財閥へ勤める中間職でありながら、現在も政府に属する遠津の役人である。彼は現場指揮官として那羅に残された拠点を転々と身を隠していたが、ここで分派の屋敷に姿を現すとの報告が上がった。
生物兵器の研究にも進展が見られており、近々行われる実験には芋縁もその名を連ねている。未だ計画段階らしく詳細は不明な点も多いが、芋縁が実験に関与していることは間違いない。
彼から生物兵器の資料を入手することが今回の任務だ。
「精度はどのくらいよ」
「魔械省の諜報部を舐めないでください。過程や憶測の段階で上に報告することはありません。確実性が高い情報を得るか、連絡を絶つかの二択です」
どこの特殊部隊なんだ。そう言いたい衝動を堪えるアレンの正面に件の屋敷が現れる。穹窿という限られた敷地で平屋を構えるなど富豪ですら気が引ける発想だが、この区画には線引を測れない者たちの屋敷が軒を連ねていた。
「随分と贅沢な豪邸だな。そこまで権威を誇示したいのかね」
「重役の方たちの住まいに限った話ですが、高層建築では災害時などに身動きが取れなくなる場合があるので、危険度分散を目的に建てられた屋敷もあるんですよ。これもかつてはそうだったんでしょうけど」
そんな綺羅びやかに過ぎる屋敷が任務の舞台。普段は分派の人間が使用しているため手入れも行き届いているが、芋縁の来訪に備えてなのか使用人の出入りが目立つ。
「俺たちはこの使用人に紛れ込むのか」
「です。相手さんも人手不足のようで日雇いの募集がありました。清掃員とか料理人まで」
「手を加えようとする奴が簡単に入り込めるじゃないか。そんなに隙を見せて大丈夫なのかね」
「罠という線はありません。これは噂ですが、芋縁という男は軽く扱われているのだとか」
歴戦の現場指揮官というのは表の話で、実態は役人の肩書を持った使い勝手がいい捨駒なのだという。
エミリが噂というなら、それは事実なのではなかろうか。そんな気がしてならないアレンに、他の持ち場に就く面々から連絡が入る。
『みんな、作戦決行よ』




