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魔械乱世  作者: 明松沢実
第一章
11/12

06―A


 領内北西部に位置する郡山城。


 桜の木に囲われた古城はとても風情があって見る者を惹き付ける。季節が過ぎ新緑となってはいるが、季節によって多様な美しさを見せてくれる素晴らしい古城だ。

 広大な三重の堀はかつての城下町とその賑わいを思わせてくれる。戦乱の世で度重なる変貌を経た城郭は歴史がそこに生きたことの証なのだ。


「まこと美しき。古の武人たちと語り合っているようだな」


 入城した忠岡は当時の暮らしへ思いを馳せると共に、頭の中で攻めと守りの構図を思い描いていく。そうして歴史と対話をすることもまた一興であった。


「僕には分からないや。天守すら失われているのに、君も物好きだよね」


 歴史と同化していた思考を掻き乱したのは、この作戦の指揮を務める権城。先達への配慮も無い気障りな男は、とかく見晴らしがいい天守台へ足を運んでいく。


「風情を理解する必要はない。ただ思い遣り、感じるままにあればよいのだ」


 侘び寂びを説いたところで聞く耳を持つ者は、今の幹部に存在しない。忠岡は歴史を生きた古城と、かつて遠津を巡った自分たちを重ねていた。


「随分と遠くまで来てしまったな。宝永ほうえいよ、あれがおまえの望む世だというのなら、それを止めるのもまた忠義と心得るぞ」


 共に肩を並べ夢と理想を追い求めた信念。それを捻じ曲げる存在を、今は見極める。




 天守台最上部では権城が我が物顔で闊歩していた。そんな彼は実験の仕掛けを施して回る研究者と合流する。


「それが原始魔石。智稔チネン、兵器は使い物になりそうか」


 呼び掛けに振り向くこともなく、無頓着に作業を進めるのは智稔。彼女は遠津財閥研究部本部長。四名存在する幹部の一人だった。

 研究以外のことはどうでもいい。そんな本質が肩口で切られた緑の髪に表れている。


「原始魔石を取り付けてはいるが、所詮は副産物だよ。その力を引き出すには程遠い」


 透明となった原始魔石。その一つを送信機に取り付け、退屈そうに自分の研究成果を批評しながら、彼の問い掛けに脳内検索結果を提示していく。


「魔物を操れるらしいな」


「送信機と受信機の役割を持たせただけさ」


「というのは」


「送信機は所持した人物の思考を読み取り、受信機は魔物に与える感情を制限する」


「つまり」


「魔物が歩く向きを指定できる。それだけだよ」


 幾度も噛み砕いてようやく権城は理解したのか素晴らしいと口にする。与えられた玩具に喜ぶ子供のようだと、智稔は彼の扱い易さを学習した。


「これで那羅を落とせる。花嫁を迎えた暁には僕が統治するのさ」


 無駄な時間が始まったので智稔は脳内世界に引き籠り、研究の枝葉を伸ばしていく。


「僕の才能に彼女の正当なる血が合わされば、虐げてくる奴等はいなくなる」


「血」


 その単語から彼の戯言を再生させていく。背景と化して流れていた記憶を巻き戻し、文脈を拾い上げると、興味を向けるに値する言葉が見付かった。


「宇陀研究所の生き残りか」


「そうだ。原始魔石の因子を植え付けられた彼女は今もなお変質を続けている」


「特異点が誕生することは二度とないだろう」


 夢想を砕かれるような発言に権城が鼻白んでいるが興味は無い。


「特異点の誕生を実現させた理由は至極単純だ。原始魔石がそれを望んだからに他ならない。特異点は研究によって生まれたのではなく、原始魔石に選ばれた」


 早くも権城は範疇を超えた内容が出て来たため聞くことを諦めた。


「原始魔石は共鳴し合う者にしか力を与えない。災厄の力を欲し、その感情を認められた者にのみ拝む権利が与えられる。あれに選ばれた特異点たちは、謂わば使徒なのさ」


 災厄の代行者。原始魔石はそれに値する人物を選定し、魔石と適応できる存在へと創り変える。最適化された個体は魔石の力を最大に引き出すことを許可される。


「進化への夢想が生み出した存在は、もはや人類ではなかった。原始魔石からの呪いと言ってもいい。だがしかし。それゆえに欲するのだ」


 そうして継続された研究の副産物が古城の各地に仕掛けられていく。彼女にとってはゴミのような物だが、僅かな可能性がある限り、試行するに越したことはない。


「あれは決して私へ振り向かないだろう。千年の時を重ねた想いは、こんなにも純粋であるのに」


 想いの年と同じだけ用意した漆黒の魔石。それを手に彼女は何を思うのか。変わらない無表情を窺ったところで、権城には推し量れない不気味さがあるだけだった。


「漆黒の魔石。それが完成した生物兵器か」


「魔物となる寸前で維持した臨界魔石に受信機を浸透させた。送信機で操れるのは、事前に工作を施した魔石から生まれる魔物のみで、権限も移譲できないからね」


「これら全てが僕の合図で魔物に変わる。幽鬼や屍でも現れるんじゃないのか」


 土壌に染み付いた感情はどのような魔物を生み出すのか。想像するだけで野望の展望が止まらない。


「霊体が存在するなら苦労はしない」


 隣で興奮している権城と相反するように、智稔の諦念は長年の想念で混沌としていた。


「何か言ったかい」


「次の研究が詰まっていて忙しい。帰らせてもらうよ」


 原始魔石を呼び覚ますには刺激が必要だ。この実験で多大な感情を喰わせれば反応を得られるかもしれない。

 譲渡された物を再び手放すことになるだろうが、最後に自分のもとへ帰ってくればそれでいいのだ。彼女の時間は無限だが、無駄な時間は存在しない。





 月明かりに照らされた郡山城が松明に包囲される。数千にも及ぶそれらは圧巻の光景であった。襲撃を知らせる鐘が敷地内に響き渡り意識が引き締まると、守りを固める兵たちが迅速に配置へ就く。


 統率された動きで相手を待ち構える兵たちの前で、いざ門前に影が現れた。


「追手門まで素通りじゃないですか。身構えて損しましたよ」


 現れたのは、たった一人の少女。呆気に取られた表情からはまるで緊張を感じない。門前には刀を構えた剣兵が出揃っており、左右の櫓にも銃兵が目を光らせている。だというのに力を抜いた姿は天晴な胆力と言えた。


「まあ主要な人物は出て来ませんよね。気配の数も三〇くらいでしょうか。人手不足極まれり。松明で人数を誤魔化した労力を返してください」


 智稔が去ったこの城には忠岡の忠臣三〇名しか残されていない。権城に人が付いていないことは言うまでもないが、那羅からの侵攻が来ると分かっていて、これだけしか数を揃えられないとは。


「生物兵器に自信があるのか。それとも」


 少女とて一人であるが、双方が無策でこの場にいるとは考えていない。だとしても。


「舐めてますか」


 返事はない。出来はしない。少女から放たれる圧力が一切の隙を奪い取ってしまった。反応に不満があるのか、彼女は冷めた目付きで睥睨すると、一歩、足を踏み込む。


 それが開戦の合図となった。


 発砲音が轟く前に少女は駆け出す。標的は布陣の中央部。多勢に無勢と分かっていれば取れる手段は限られる。数の有利を覆すべく、相手の数そのものを利用しようと試みた。中央に入り込めば相手が遮蔽物となり遠隔を封じることが出来るはず。


 ただ、実現には近接で圧倒的な力量差が必要とされた。


 少女が事前に得た情報により、相手取るのは忠岡の部下、刀に心得のある武人だと理解している。近接で有利を取ることは技量的にも、膂力的にも困難であると思われた。しかし。


「遠津の独立部隊がこの程度とは。肩透かしもいいところですよ」


 日々の鍛練に明け暮れた武人たちが尽く崩されていく。技量はともかく膂力で勝っているはずの者たちが、たった一人の女の子に負けていく。ならば何が違うのか。


 それは速度だ。


 軌道を定め刀を振り下ろす頃には姿がない。外れた視界から的確に魔石を刺してくる。一人が倒れされたと理解するより早く、陣形を整える間も与えられず、次の敗者が積み重なっていく。


 視線で動きを捉えようにも、その矮躯はすぐさま姿を隠してしまう。


「速いだけとでも思ってます」


 そして的確に武人の思考までも突いてくる。誇りを侮辱するような物言いは、却って武人たちの意識を引き締めさせた。剣兵たちは刀をさらに洗練させ、誇りというものを示そうとする。それすらも誘導であると知らず。


「素晴らしい信念ですね。本当に扱いやすい」


 前後左右隙間、あらゆる方向から絶え間なく刀が迫る。剣兵たちを引き付けることに成功した少女はここで始めて魔弾を放った。狙いは櫓に構える狙撃班。

 彼女にとって地上の白兵など、どうでもよかった。目下の標的は左右を取り囲む狙撃班、その追手東隅櫓と追手向櫓だ。


 しかし狙いが分かれば相手も姿を眩ませる。


「得物を下ろしてくれれば事足りるんですよ」


 狙われたと判断した銃兵は得物を下ろし、次弾への構えに移る。その隙を待っていたのは、戦場の音に紛れ忍び込んだライトと海瀬教官。

 言葉も音も無く跳躍で櫓に取り付いた二人は予備動作に入っている銃兵たちを仕留めていく。左右を同時に攻め入られた櫓からは、襲撃の情報が瞬く間に飛び交った。


「ようやく僕らの出番だよ」


 櫓を掌握した二人は増援へ向けて対処を始める。エミリが突入した時の気配で粗方の人数と配置は掴めているため、増援の余力や介入の瞬間までも想定済みだ。


「私たちの仕事は抑えるだけではないぞ」


 二人に与えられた役目の一つが区域の掌握。陽動でも足止めでもない。生物兵器が設置してある可能性が僅かでもある場所は確認しておきたかった。

 相手を誘き出すため自分の存在を誇示するように声を上げる海瀬は、魔装の鎖鎌で狭い櫓を蹂躙していく。


 追手門の左右が攻められ警笛と戦闘音が絶え間なく聞こえると、地上の剣兵たちにも変化が起きる。仲間の負担を減らすために、前線を下げるか、目の前の相手を仕留めるか。急かされる判断は後者が選ばれた。


「こちらは一人ですから、撤退だなんて無様な真似は出来ませんよね」


 とことん武人の誇りを逆撫でする。だがエミリとて単騎で区域の掌握まで持っていけると自惚れてはいない。これまでの挑発により狭められた包囲に対し、彼女は魔力で幕を張った。


「魔法とは、質量を持った映像である」


 彼女が行使したのは魔刃でも魔弾でもない。障壁である。障壁にただの色を付けて薄く広げた幕。伸ばす分だけ耐久性は減少するが、その遮光性は金属の如く、内部の情報を遮断した。

 対する剣兵が縦に横に切り裂こうと手応えはなく、幕は立ちまち追手門へ向けて伸びていく。


 彼女がそちらへ向かったかのように。


 視線を逸らされた剣兵の背後から新たな苦鳴が生まれた。エミリは、とことん武人を侮辱し、戦いを翻弄していく。


「卑怯で結構。任務に情も誇りも必要ない」


 信念を胸に与えられた役目を全うする。それが狩猫だ。


「武人とは似て非なる存在かもしれませんね」


 エミリが集団から抜け出せば、地上の剣兵たちは一纏めに石垣へ追い込まれる布陣とされていた。あとはその場にライトと海瀬が集中砲火を浴びせるだけ。全ては計画通り。


「掌握完了。と、言いたいところですが」


 沙汰を待つ相手も気付いたようだ。


「この異質な魔力。やはり生物兵器とは」


 本丸の異変に戦場が止まる。


「やってくれましたね、智稔」


 禁忌を破り捨てる研究者への恨みを静かに募らせながら、彼女は増幅を続ける魔力を仰ぎ見た。




 追手門の三人が戦闘を開始すると同時。アレン、アリサ、レオンは本丸へ潜入すべく水堀へ突入した。この水堀は戦国の世から幾度も拡張されたものであり、郡山城の奥深くまで三重に張られている。


「狼煙が上がった。一〇分でケリを付けるぞ」


 陽動班が魔石の継戦時間を超えて活動を続けることは出来ない。彼女たちの負担を減らすためにも本丸の制圧は迅速に遂行せねばならなかった。

 暗い水堀を駆け抜けた先、反り立つ石垣を跳躍を用いて一息に乗り越える。侵入に気取られるだろうと瞬時に戦闘態勢へ移行するが。


「待ち伏せがいない」


「この感じ。放送局を思い出すわ」


 木々に囲われた更地には人の一人も存在していない。放送局占拠の時も施設内は無人に等しく、奥深くまで誘導され、相手の目的を許してしまった。今回も何か思惑が隠されているのではないかと警戒心を高める。


「オレたちの成すべきことは一つだ。陽動の負担を減らすためにも、迅速に生物兵器を破壊する」


「考えても待ち受ける存在は変わらないってか」


「予定通り、天守台を目指しましょう」


 古城という構造もあり生物兵器が配置されている場所は天守跡であると推測している。郡山城を指揮しているのは権城と忠岡。彼らの性質からしてもこの構造を無視するとは考え難い。

 歩みを進めるとすぐに天守台の全貌を拝むことが出来る。盆地の果てまで見通すに相応しい壮大さはさすがというべきだが、現在はそれを守護する人物の一人とも遭遇せず。


「忠岡はともかく、権城には私兵なり護衛はいないのか」


「護衛こそが忠岡よ。なにより権城には私兵が付いてくれる程の人望がないわ」


「幹部なのにか」


「幹部なのによ」


 彼が遠津で成り上がりを見せたのはこの五年程だ。内戦の契機となった混乱にて上が次々と入れ替わり、虎視眈々と野心を育てていた人物が腰を据えるに至った。

 実力不足とは言わないが、経験不足が否めない。目標へ向けて最短で走ろうとする幹部たちは、結果は出せども総じて人望が無いのだ。


「これは頭の痛いところだ」


 天守台を登り始め最上部へ向かう途中。中部広場に鎮座する武人と出会った。


「忠岡」


 さすがというべきか気配を全く感じない。月明かりに照らされ、座禅を組んで瞑想する姿は堂に入っており、己の精神を日夜精練していることが窺える。


「であるからこそ、私が代表を支えねばならん」


 遠津財閥は智稔を除いた幹部が総代わりしている。地盤を固めねばならない状況で当の幹部たちが私欲に走っているため、忠岡は自分が負債を補うのだと事も無げに言う。


「生物兵器は、この上か」


「そうだ。権城の手中にある」


 手の内を晒してみせるのは、ここを護る自負からか。情報を引き出したいところであるが、任務の制限時間は七分と残っていない。問答をしている暇はないと、三人は歩み入る。


「通してもらうぞ」


「その前に問いたいことがある」


 アレンたちが時間に迫られていると分かってなのか、忠岡は一つだけの問答を要求した。


「命を落とす覚悟はあるか」


 開かれた瞳が三人の心を掴んで離さない。一瞬の迷いすら見逃さないとしているが、誰も生半可な覚悟でこの場に立ってはいない。

 魔械省に属している以上、相対する者はもちろん、協力してくれた者の命が、手の平から零れ落ちる様は嫌と見てきたのだ。しかし。


「覚悟なんて無いね。命が零れ落ちることが怖くて文句あるかよ」


 兵師だろうが兵器だろうか命を落とすことは怖くて当たり前だ。怖くないと言う者は、人生を諦めるほどの悲劇に呑まれてしまっているか、人間ではない外道くらいであろう。


「弱いと言われるかもしれない。それでも立ち向かうことを諦めはしないわ」


 司書からも同じような問答をされた。自らの絶望と向き合って、現実を受け止めて、だからこそ己の弱さを認めた。


「オレには、その弱さを分かち合ってくれる友だちがいる。だからこそ、この場に立ち続けられるんだ」


 己の弱さは仲間が補ってくれる。支えてくれる。だから前を向いて、生きることが出来る。


「それが貴様たちの答えか」


 躊躇いのない物言いに忠岡は立ち上がり、己の圧を解き放つ。だが仲間たちは権威や力に屈しはしない。自らの信念を持って立ち向かう。


「見事」


 忠岡が笑った。愉快痛快。至極満足。


「ここまで笑ったのは久方振りだな」


 遠津を巡った争いで宝永と共に語り明かしたとき以来かもしれない。未来について希望を抱いているからこそ、心から笑えるのだろう。

 アレン、アリサ、エミリ、ライト、レオン。自分の価値を弁えるこの五人は、間違いなく未来を切り開く希望と成るに相応しい。


「ならばこの先、付き合ってもらうぞ」


 その瞳は何を見極めたのか、或いは期待したのか。忠岡も己の中の覚悟を決めたように魔装の刀を構える。相対する三人も歴戦の武人に負けじと魔力を解き放つが。


「アリサ殿は最上部へ向かうがいい。人の上に立つ者として、大局的なモノの見方を学ぶことだ」


「何のつもりかしら」


「構うことはない。これは余興に過ぎないのだからな」


 これまでの展開に違和感を抱きはするが、任務が急を要することに変わりはない。残される二人を心配しつつもアリサは最上部へ向かうべく、警戒しながら忠岡の横を通り過ぎた。


「どうか、気を付けて」


 何を言えばよかったのか。何が待ち受けているのか分からないままでは紡ぎ出せなかった。


 広場からアリサが走り去ると静寂が取り戻される。


 己の絶望と向き合い仲間を失う恐怖を知った仲間たち。残された二人を見遣る忠岡はかつてと同じ言葉で開戦を告げる。


「構えよ」


 周囲の風景も相まって忠岡は古い記憶を想起させてしまう。人の弱さを教えることが出来なかったゆえに、失ってしまった弟子のことを。


「人を支えるとは何たるか。それを貴様らに教えてくれる」


 再び相見えることになっても、忠岡の剣気は鋭く生存本能を刺激してくる。だが成長した二人はそれに竦みはしない。どんな脅威にも果敢に立ち向かえる信念を胸に、思いを込めて魔装を顕現させた。


「随分と上からモノを言ってくれる」


「それならオレたちとて、成長した姿というものを見せてやる」


 かつての怯える自分とは違うと、レオンが果敢に斬り込んだ。彼が全力を出せるように、アレンは相手が付け入る隙を潰していく。


「俺が補助する。レオンは突き進め」


「引かないさ。仲間がいてくれるから」


「互いの欠点を補い合うか。確かに弱さは罪であるが、弱さを認めることこそ強さへと繋がる」


 相手を分断するため忠岡が型を変えてくると、二人も連携の役割を入れ替えて、攻めの姿勢を崩さない。


「このまま押し込む。相手に主導権を渡すな」


「二人なら勝てる。勝ってみせる」


 機転を利かせた忠岡がレオンの動作を阻害してやるも、すぐさまアレンが補助を入れる。逆も然りで、迅速な対応は二人の心の繋がりを示していた。


「レオン」


「アレン」


「見れるにはなったか。だがしかし、未だ半人前と言わざるを得ん」


 己の弱さを理解し、補い、制御する。これを一人で熟してこその一人前だ。さらに強さへと昇華させたした傑物となるには程遠い。


「弱さを補い合うのではなく、互いの強さを高め合え。それが出来る存在とならなければ、真に人を支えるなどありはしない」


 大切な人を支えたいのであれば、まずは己を支えられるようになれ。かつての弟子へ伝えられなかった思いを込めて、忠岡はその道を説き、刀を通して教え込む。人の弱さを理解出来る、強い人に育ってほしいから。


「人を支えるとは思い遣ることだ。己を思い、相手を思う。思い遣りこそが強さと心得よ」


 剣戟の配分を上げる忠岡に二人は食らい付いていく。彼の底知れぬ力量に慄くも、そんな境地まで辿り着いてみせると心を躍らせた。今も各地で戦い続ける仲間のため、大切な人を支えるため、この難局を乗り越えるのだと。


 しかしそんな余興は突如として終わりを迎える。


「始まったか」


 敷地内各所に現れた歪な魔力。上下左右、あらゆる方面から溢れる気配。それは収まりを知ることなく、郡山城を呑み込まんとする程に膨れ上がっていく。


「アリサ」


 心から支え合いたい大切な人。任務の最中だというのに、不意を突いてその名を呼んでしまう。

 彼女が向かった先は権城が待ち構える最上部だ。そこには生物兵器が配置されていると推測され、現場の異変がどうしようもなく結び付いてしまう。


「己を思え」


 激戦の疲労など影もない忠岡は、縁へ歩み寄ると本番の幕が上がったことを確認する。


「心の通わぬ戦など私は認めん。余興は終わりだ。ここからは、誰の命が失われる狂気の場よ」


 天守前広場は地面から生える屍で埋め尽くされようとしていた。


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