後日談20 ちいさくてかわいい:出発編
「ねえチケン、映画館とやらに行きたいわ、連れていきなさい!」
飯の後片付けをしていた俺を襲ったのは、おタヒの唐突な発言だった。
「ん? 動画ならインテに操作してもらって好きなやつを見ろよ。大体の動画配信サービスは契約してあるだろ」
この家を引き継いだ時、スマートテレビには日本で契約できる殆どの動画配信サービスが入っていた。サブスク代金は俺の金ではないので解約はしなかった。人の金で見る動画は良いものなので。
なので、配信で見られる殆どの動画は家の115インチの4k液晶なんて言う意味のわからんデカさのテレビで見られる。FHD画質の動画も、インテが設計してくれたアップコンバーターで4k画質で鑑賞することが出来るのだ。
「みたいやつはないのよ」
「無いのか」
「そう、無いのよ、朝やっているあにめえしょんが、映画館とやらでやるんですって!」
それを聞いて俺は今流行っているコンテンツであることに気がついた。
SNSで受動喫煙しまくってた、SNS発のマンガがアニメになったアレだ。ただ、アニメは見たことがない。
その時間は食事の後片付けや掃除をしているので見る機会がなかった。朝、仕事を高速で終わらせることによりメテクエの時間を一秒でも増やすためだ。やむを得ない。
「ああー、なんか小さくてかわいいやつな」
「それ!」
おタヒは目を輝かせて叫んだ。おタヒにしては珍しいな……。
でもアニメから入るというのも、オタク道入門としては悪くない。それにたまには気分転換をさせてやるのも悪くないか。
「ふむ、あの動く絵か。私も見に行こう」
「グリセルダも!?」
「……悪いか?」
「いえ、良いと思いますが……珍しいなと思って」
俺がビビって思わず敬語で返すと、グリセルダはフン、と言わんばかりに鼻で笑って俺を見下していた。ありがとうございます。
いやあ、最近は減ったからな、見下されるの。良いことといえば良いことだが、俺の性癖がそう言うやつだから、ないのもさみしいんだよな……。
子供っぽいものを俺に押し付けてご満悦することはあっても、自分に押し付けられると嫌がるタイプだから珍しい。それはそれとして、嫌がる幼女俺に女児服を着せようとするのは辞めてください。
止めると「ではお前が着ろ」といって俺にメイド服とかを押し付けてくるから逆らえねえんだ……。
「あ、僕も映画みたいな、話題のやつだよね! チケンくん、僕も連れて行ってほしいな。ちゃんとお金払うから……」
「大丈夫だよ、連れてくから。お金も心配しなくていいよ」
「よかった! ノートパソコンやテレビで見たことは有るけど、本物のスクリーンって見たこと無くて。楽しみだなあ」
平岡さんが積極的に俺に要望を出すのは珍しい。いつも控えめで、なにかやりたいことがあっても我慢することがほとんどだからだ。
平岡さんが行きたいので完全に俺も行く方に舵を取ることに決めた。この経験が平岡さんの中で花開き、メテクエ2として開花することが無いとは言えないからだ。
……行くしか無い。これは人類と未来への投資と言っても過言ではない。
まあ言うて全員で行っても平岡さんと幼女俺とおタヒは小学生料金だし、以前のスイーツビュッフェに比べれば安い。リーズナブルな投資ではある。
しかしこの小さくて可愛い映画は大流行の映画だ。人混みの中でこいつらが大人しくしていられるかどうか、一抹の不安がある……。とくにグリセルダとおタヒ。
グリセルダはマナー違反をしている人間を暴で黙らせようとするし、おタヒはマナー違反で騒ぐ人間を呪でどうにかしようとしかねない。この二人はそういう一般的マナーにうるさいのであまり人混みを歩かせないようにしている。
ぶつかりおじさんにでも会おうもんなら、命がない。
ぶつかりおじさんの方の……。
「インテ、あのさ……」
「はい! 今検索した所、少し遠いですが明日の朝五席並びで空いている劇場がございました。なので、今予約しておきました!」
五席の内訳は幼女俺、俺、グリセルダ達三人ということである。
さすがインテだ。気が利く。一を聞いて百を知る。それがインテだ。
「インテえええええ! やっぱり俺の最高のカバンだあああああ!」
「えへへ、褒められると照れますね、本当のことですが……!」
「やはりインテは賢いわね、ありがとう!」
「うむ、インテ嬢、いつも気が利く最高のカバンだな……!」
「インテは本当に賢くて、気が利くねえ」
俺達からの褒め言葉を一身に浴びたインテは、その日一日ご機嫌だった。
「明日ちょっとっていうか、結構早いけど、おタヒと平岡さんは平気か?」
朝一の上映って結構早い時間なんだよな。
「当たり前でしょ! 私はいつも日の出とともに起きているわよ」
「僕、毎日五時起きだけど、それよりも早い?」
平岡さん地味に老人みたいな生活リズムなんだよな、いや平岡さんって日本の戸籍上では五十代後半か六十代になってんだっけ……。
「そこまでは早くないかなあ。朝七時くらいに出るけど大丈夫か?」
「それはチケン、お前の方こそ大丈夫なのか?」
グリセルダが訝しげな目で俺を見つめている。ありがとうございます。
「俺は大丈夫。仕事に遅刻したことは一回もねえからな。おい、高橋。お前明日起きれるんだろうな?」
俺は朝飯を食いに来た高橋に一応聞いてみる。最近こいつはなんか朝早くから家にいて、グダグダしている。一緒にゲームも出来るから助かるんだが。
「あー、いけるいける。最近朝釣りにハマって早起きなんだよ」
「じゃあいいか。明日の朝六時集合な。マップはインテから送ってもらうから」
「おk」
俺は運転免許は持っているが、すごく運転が好きというわけではない。なので高橋が運転してくれるなら助かる。こいつは車の運転が釣りの次に好きなのだ。
さて、予習しておくか、はたまた予習無しで行くか悩むな。
一応受動喫煙で大体のシナリオは知っているが……。
映画を見に行けるとわかって、三人はタブレットを眺めて楽しげに会話をしている。
「うふふ、どんな話か楽しみね!」
「うむ、どのような活躍か楽しみではあるが……。あの小さくか弱きものがちゃんと戦えるのか……心配だ」
「僕はネットで毎回見てたけど、大きい画面で見れるの楽しみだなあ……!」
とりあえず、映画館でのマナーを解説して、その後に映画館でマナーを守らない奴がいた場合どうするかを言い聞かせるか……。
前者は解説の必要もないかもしれないが、後者は言い聞かせられるだろうか。自信がない。
一時間ほどかけて、多少うるさいくらいではキレてはならないこと、呪詛をかけないこと、胸ぐらをつかんで殴ってはいけないことなどを説明した。
二人共その状況ならなんで攻撃してはいけないのか、と納得しなかったが、従わないなら連れて行かないと言うと渋々了承してくれた。
そんなに二人共見たかったのか、小さくて可愛いヤツ……。意外な一面だな。
ちいさくてかわいい編は明日終わります。




