後日談21 ちいさくてかわいい:感想編
――翌日。
朝は高橋が時間通りにやってきて、無事に車で一時間半ほどの映画館に到着した。
ショッピングモールの中にあるその劇場は、最近リニューアルしたらしく、新しくて綺麗だった。
「ここが映画館という場所ね!」
「僕、映画館って初めて実物を見るよ、嬉しいなあ」
「ふむ、劇場か……桟敷はあるのか?」
グリセルダが言ってることがわからん。桟敷ってなんだ。
(チケン様、桟敷というのは特別席のようなものですよ! 今回は私がプレミアムシートを用意しておきましたので!)
「なんかいい席らしいぞ。良かったな」
「ならば良い」
グリセルダは満足げに頷いている。これ一般席だったら文句言われたのかな。面倒くさいが文句を言っているグリセルダは見たい。複雑な気持ちだ。
「ケンイチ! 俺も映画見てえんだけど。チケット買ってくれよ、お前の金で!」
「いいけど。珍しいな、お前がこういうの見るの」
高橋はアクションとホラーが専門だ。こういう可愛いアニメにあまり興味がありそうに見えない。人が死なない映画はつまらんと言ってる男だからな……。
「おふくろが入場特典欲しいって言ってたんだよ。親孝行しねえとな」
と高橋は述べた。高橋のかーちゃんは俺も会ったことがある。前回は平岡さんを連れて家出ついでにお邪魔して、寿司をご馳走になった。優しいおばさんなんだよな。じゃあ席を買うか……と思った時。
(チケン様、実は席に余裕がありましたので左右一席ずつ多めに取っておいてあります! アルファード様はそちらを使われては?)
(有り難いけど、なんでまた)
(隣の人が近いとグリセルダ様とおタヒ様が気を使われるかと思いまして……)
確かにその方が気を使わなくてもいいか。
(インテは本当に気が利くな……!)
(どういたしまして、チケン様と皆様のためですから!)
とはいえ、俺達のせいで満席になったら……と思ったが、この入り具合だと満席にはならないだろう。映画館と映画会社への寄付だと思っておく。ガチャより安いし。
田舎の映画館ならではの良さだ。
東京の映画館だとこうは行かないだろうな。わざわざ地方の映画館というチョイスをしてくれたインテに感謝だ。東京の映画館混むんだよな。実際一人でいった時、人気映画だったせいか、全席埋まってなおかつ混んでて、びっくりしたし。
初めての映画館に三人のテンションは爆上がりしている。
とはいえ平岡さんはニコニコして座ってきょろきょろしているだけで、アクションに移しているのは二人である。
一応幼女俺も二人を監視しているが、幼女俺はおタヒと一緒にフォトスポットで写真を撮ったり、グリセルダに写真を撮られたりと翻弄されている。
「チケン、ここに並べ」
「俺はおもちゃじゃないんだぞ!」
「まあそういうな、お前にはこの撮影場所がよく似合っている、小さき者同士と思えばよかろう」
「よくねえ! 俺は小さくても可愛くはねえよ!」
「そうよね、チケン一緒に写真撮りましょ! 平岡、ちょっとすまほで写真を撮ってちょうだい!」
「わかった! チケンくん、ほら笑って!」
「嫌だー! 平岡さんまでそっちに行くのかよ!」
悪いが幼女俺にはデコイになってもらう……。
もう一人の俺がデコイになっている間、俺はおタヒとグリセルダが欲しがったポップコーン入れとドリンクホルダー、パンフレットなんかを買った。
高橋は俺が注文する時に横から滑り込んできてビールとフランクフルトを注文して逃げた。あの野郎、帰りは俺に運転させる気満々じゃねえか……。まあ寝起きで運転しないで済んだだけ良かったか……。
上映時間が迫ると流石に人が増えてきたので早めに中に入る。プレミアムシートと言うだけあって座り心地は良い。広いし。ポップコーンやらドリンクホルダーやらあるし、プレミアムシートにしたのはあまりにも正解すぎる。ありがとうインテ……!
「すごい! あの白い幕に絵が映るの!? 家のてれびは黒いのに」
「3Dじゃないタイプの劇場って初めてだなあ……」
「人間が演じぬタイプの劇場は初めてだな」
前者がおタヒ、間が平岡さん、最後がグリセルダ。三者三様の感慨を抱いている。全員現代人の感想には聴こえないところが面白い。
「それにしても、このぽっぷこおんという菓子、食べながら見てもいいの?」
ポップコーンを一粒つまんだおタヒが不安げにしている。おタヒが何かを食べながら何かをすることはほとんど無いからな。
「ここでは食べてもいいし、飲んでもいい。こぼさないように、音を立てすぎないようにな。大きい音が流れるから音は目立たないと思うけど、静かなシーンでは食べないようにしたほうがいいかもな」
「わかったわ!」
ちいさくてかわいいキャラクターのポップコーン入れを持っておタヒは嬉しそうに笑っている。年相応でとてもいい。
平岡さんはニコニコしながら宝物のようにドリンクホルダーを抱え、グリセルダは嬉しそうにそれを見ながらホットコーヒーを飲んでいた。素晴らしきかな、視覚に優しい世界……!
小さい俺はポップコーンをやっつけるのに専念しているようだ。
店で買うやつより何故かこういうところで食うポップコーンのほうが美味いんだよな。出来たてなんだろうか。
やがて場内が暗くなり、映画が始まった。
一時間半の間、そこそこ客席が埋まっていたのに客席も静かで、落ち着いて鑑賞することが出来た。
時々横に座るグリセルダとおタヒの顔を見る。
瞳がキラキラときらめいて、スクリーンの絵を映し出していた。これが見られただけでも連れてきたかいはある。
劇場を出ると珍しくおタヒがぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでいる。
「すごかったわ! 歌も演技も上手だったし、なによりちいさくてかわいい仔達の頑張りが素晴らしかったわ……!」
こんなに手放しで喜ぶおタヒを見るのは珍しい。だいたい上から目線で、まずマウントを取るのがおタヒの主義だからだ。もしかして、普通の子どもとして育てばこんな明るい顔が普通の顔になったのだろうか。
そう思うと、少しだけ悲しい気分になる。
「二次元の映像だけどあんなに大きいと3D映像より迫力があるね! ノートパソコンのモニターで見るよりずっとずっと良かった!」
「なるほど、あのように音響が良いと臨場感が増すのだな……」
平岡さんとグリセルダも楽しんだようだ。確かに新しい劇場だけあって音響も良く、俺もストーリーは知っているのに結構楽しんだ。声優さんの演技ってすげえんだな、というのがありきたりな俺の感想だ。
「いやー、いいアクション映画だったな、ケンイチ!」
「アレはアクション映画に入れていいのか?」
「いいだろ。飯も美味そうだし、アクションもあるし、因習村で人も死ぬし。いい映画だったよ。アニメだからって馬鹿にしてちゃ駄目だな……それはさておき俺も、てりてりソースの焼きそばでビール飲みてえ。ケンイチ、夕食焼きそばにしてくれよ」
高橋の感想は最低だったが、こいつも楽しんでくれたようで何よりだ。
帰る途中、ショッピングモールの雑貨店に吸い寄せられて映画関連のグッズを沢山買った。グリセルダも欲しがっていたのが意外だった。
「みて! こういう玩具を買うのは初めてだけど、本物のようで可愛いわね!」
「うむ、お前によく似合っているではないか、おタヒ」
グリセルダの褒め言葉におタヒも満面の笑みを浮かべている。
「紙のマンガ買うの初めてかも! 嬉しいな!」
平岡さんは原作の漫画本を抱きしめてニコニコしている。他にも欲しい漫画があったらいくらでも買って欲しい。
そしてビールで程よく酔った高橋は、おタヒとグリセルダに乞われてUFOキャッチャーで妙技を披露していた。
こいつ、バイト代をUFOキャッチャーに全ツッパしていた時期があるので異様に取るのが上手いのだ。要望のあった景品をすべて三百円以内で取り終えると二人に褒められて、まんざらでもなさそうな顔をしていた。
「まあ、さすがアルファードね!」
「うむ、このようなものすら上手く運転するのだな、アルファード嬢は……!」
ちょっと悔しくなり俺も負けずにチャレンジしたが、千円かけても取れる様子がないので辞めた。俺はメテクエのガチャ以外では諦めるのが早いんだ。
ちなみに小さい俺だと幸運チートで取れすぎるので、こういう場所では自粛している。
クレープやソフトクリームなんかも食べて、三人とも満足そうな顔で、ついでに更に追加のビールをキメた高橋を連れて家に戻る。
一番不幸だったのは幼女の俺である。
「まあ、ぴったり! 愛らしいわ!」
「似合うではないか、チケン、この髪飾りもつけよ」
と、ちいさくてかわいいコラボの服を全身買わされ、その場で着替えさせられたのだ。
「くそ、大きい俺、ちょっとどうにかしろよ!」
「お前、俺がちいさくてかわいいコラボの服を着るのが見たいのか?」
「見たくねえわ……」
「だろ……」
「おっさんに待遇改善を訴えるか……」
「そうしようぜ……」
二人で愚痴りながらも三人と高橋を引率して家に戻る。
夕食には三人からのリクエストで焼きそばやカツカレーを並べた。三人とも美味しそうに食べながらも話は映画の話題で持ちきりだ。
いかに楽しかったか、いかにドキドキしたか。可愛らしい話を俺は飯を食いながら聞いていたものの、話は胡乱な方向に進む。
おタヒが楽しげに、そしてドヤ顔をしながらまくしたてる。
「でね! ほら、白くて小さくて可愛いでしょう、私にそっくりよね、主人公! 小さくて可愛くて白くて思慮と勇気があるわ!」
「お前が……ちいか……わ?」
俺達三人は首を傾げた。おタヒは確かに小さくて可愛いが、あんなに大人しくはない。
(どっちかっつーとモモンガじゃね)
(だよな)
(でも絶対口に出せないよな……)
口にしたが最後おタヒが荒ぶるのは目に見えているからな。
まさかおタヒの自認がちいさくてかわいいやつだとは思いもしなかった。しかし、ショックを受ける俺達三人にグリセルダが追い打ちをかける。
「ふむ、おタヒがちいさくてかわいいやつだとすれば……チケンよ、私は作中の人物だと誰に相当すると思う?」
すげー無茶振りが来た。正直に言うと、誰にも似てないと思う。
でも答えを要求するかのように、グリセルダは俺の顔をじっと見つめている。
「えーっと……背が高くて……強いから……」
誰だろうな……。思いつかねえ。
「ああ、声も良くてかっこいいから島じ……」
といいかけた瞬間グリセルダの目がなにか、怨念と圧迫を込めた色に変わる。不正解だったようだ。俺はあのおっさんかっこいいと思ったんだけどな……。声とかめちゃ良かったし。
「ああ、声がいいからセイレー……」
グリセルダの目の色は変わらなかった。不正解らしい。魔物と一緒にされるのは流石に嫌か。
(チケン様! ヒントは剣でございますよ!)
インテがグリセルダに見えないようにメッセージを送ってきてくれた。なるほど。なるほど……?
「ああ、わかったぞ! ラッコだな!」
そう言うとグリセルダは満足げに頷いて、開いたグラスにワインを注ぐように目で要求してきた。大人しくグリセルダのグラスにワインを注いでやる。
「うむ、剣を良く使い、私と同じような色の毛……強敵にも屈さず後進の面倒をよく見る、かく有りたいと私も思っている」
グリセルダはお気に入りの赤ワインを飲みながら、そう俺に語りかけていた。
(グリセルダ、自認ラッコなんだ……)
(まあかっこいいけども……)
(酒に強いから栗まんじゅう先輩とか、言わなくてよかったな……)
グリセルダは俺達の気持ちを知ってか知らずか、紅しょうがと焼きそば、赤ワインのマリアージュを楽しんでいた。
ちなみに高橋はビール三本で撃沈し、リビングで気持ちよさそうに爆睡している。それを面白そうに平岡さんとおタヒが見ていた。
「先輩みたいだね」
「本当に! 起きたら豆腐でもだしてやるべきかしらね」
皆が寝静まった後、俺は自室でインテに話しかける。
「インテ、今日はありがとうな。おかげで楽しかったよ」
「私も皆様と一緒に観劇して楽しみました! テオネリアにはああいう施設はほとんどございませんので、大変新鮮でした!」
インテも喜んでいてくれた。
なんだかんだで全員に楽しんでもらえたようで良かった。俺も楽しかったしな。
また皆で楽しめるイベントが有るといいんだが。
久々の番外編でした。たまにはこういうのを書きたくなってしまう
明日からは本編の更新に戻りますのでよろしくお願いします~!




