後日談18 コピー機と紅茶 上
今日は朝食が終わるとおタヒがリビングに文机を置いて、なんだかわからんけど書き物をしていた。
「ここでやるのは珍しいな、何を書いてるんだ?」
おタヒは普段書き物は自分の部屋でやる。書き物をしてる間は邪魔されたくないのか、ドアの外で牛頭くんが門番をしているのでわかる。
「スフォーの翁やエトワール、あとテオネリアの役所への連絡よ。全部同じ文章なんだけど、何回も同じ文章を続けて書いていると書き損じるし飽きるから場所を変えて気分転換しようと思って……」
「メールじゃ駄目なのか」
「端末とやらを渡されたけど、使い方がわからないわ。文を認めてインテに渡したほうが楽だと思って」
俺のじいちゃんとばあちゃんでもスマホやゲーム機を使いこなす時代なのになあ。十二歳から老人味を感じることがあるとは。
「音声操作なかったっけ?」
「音声なら使えるけど、音声ではなくて紙に書いてまとめたいこともあるのよね」
「それをカメラで撮って送ればいいんじゃねえか?」
「無粋だわ」
そこにリビングで膝の上にノートPCを置いて書き物をしていた平岡さんが声をかけてきた。
「ねえ、斎王殿下。以前チケン君のご実家で試せなかったコピー機の出番じゃない?」
「あっ、そういえばそんな楽しそうな玩具があったわね!」
コピー機をおもちゃというカテゴリーに入れていいのだろうか。事務用機器だと思ってたな。
「じゃあコンビニに行くのはどうだ。紙は違うけど気に食わなかったら諦めろ。それについでにおやつも買えるしな」
「おやつ? 行くわ!」
こいつ最近菓子にハマってるんだよな……。
言うてお姫様の食べ方なのでちょっとだけ食べて余すんだが。
すると後ろでストレッチしていたグリセルダも声を上げる。
「ふむ、私も行こう。あのコンビニとやらもう一度行ってみたかったのだ」
「なんか気になるのあったか? ワインは普通の味って言ってような」
「茶を入れる機械があったのを記憶している。どんなものなのか試してみたくてな」
最近のコンビニコーヒーレベル上がってるもんな。そのうえ最近は紅茶まである。
だが、グリセルダの口に合うかどうかはわからない。グリセルダはまずいものも平気で食うが舌は割と肥えている。
口に合うかわからんけど行くだけ行ってみよう。
しかし、安全面を考えると徒歩圏内のコンビニは却下だ。
目立つ美少女三人だからストーカーとかが出たら嫌だ。
俺は一応おっさんに雇われている身で、あの三人を安全に楽しませるのが業務の一つでもある。多少遠回りでも安全な方を選ぶ。
ちなみに小さい俺は大変普通の顔なので目立たない。
コンビニの公式サイトをチェックして、ティーメーカーが置いてあって、できれば公園に近い店舗を探す。
車の中で慌ただしく飲むのはあの二人のお気に召さないだろうからだ。
公園でピクニックのように飲むのなら、多少口に合わなくても楽しんでもらえるだろう。
「チケン様、こちらの店舗はいかがですか?」
インテが調べ物をしていた俺のPCにマップ情報を転送してくれた。ちょっと休めそうな公園に近い、うってつけのコンビニだ。
紅茶はまだ全店に配備されていないから選択肢が限られる。ここがいいだろうな。
「お、さすがだ。やっぱり天才だな、インテは……!」
「えへへ、どういたしまして! お役に立てて光栄です!」
俺は高橋を呼び出し、早速その日の午後にコンビニツアー(二回目)を催行することにした。何かコンビニじゃなくてもっといい場所もありそうな気がするんだが、本人たちが楽しみにしているのでいいだろう。
「おタヒ、平岡さん。午後からコンビニに行くからコピーしたいもの準備しておいてくれ」
「本当!? わあ、何を出力しようかな、迷うなあ!」
「本当に!? なんて素晴らしいの! あ、そんな便利なからくり使うのに金子は必要ないの? 金子がいるなら私が出すわよ」
おタヒはジャラジャラと金色の、日本とはちょっと違う規格の小判を取り出して数枚俺に押し付けようとするが、それは断った。その一枚でコピー機がまるっと買えそうな価格の気がする……。もらったら詐欺になっちまう。
「大丈夫だよ、コピー代は白黒なら一枚十円だしそのくらいは俺が出すよ」
「えっ、本当にそんなに安いの!? たしかこの前買ったちょこれえとが二百円くらいだったわ。そんなに安いと質が悪いとか書き損じが有るのではないの!?」
おタヒの価値観がよくわからない。
「書いたそのままだから安心しろ」
「信じられないわね……」
おタヒは首を傾げながらとりあえず小判を懐に収めてくれた。良かった。そんなしょうもないことで大金を受け取るわけには行かないからな……。
「チケンくん、コピー機ってデータの出力はできないの?」
「JPGとかPDFならUSBメモリーとかに入れておけば出力できると思うよ」
「わかった!」
気になっていたコピー機で遊べることにソワソワしながら、おタヒと平岡さんは自分の出力したいものを準備し始めた。
全員着替えて準備したものの、おタヒがゴスロリみたいなワンピースを着ている。
うーん、すごく目立つ。
でもこいつの普段着は和服だし、裾が長い十二単巫女みたいな和服の小学生とかゴスロリの小学生の百倍くらい目立つだろう。それに比べれば許容範囲だ。
高橋がやってきて一緒に昼飯を食ったあとにコンビニに出発する。コンビニは車で三、四十分ほど移動した先にある。眼の前に公園と住宅街があり、住みやすそうな場所だった。
今日は季節の割に涼しいから、飲み物はホットでもアイスでもいけるだろう。あんまり暑いとホットの選択肢が消滅するからな。選択肢はある程度多いほうがいい。
コンビニに着くとおタヒが即コピー機に移動する。
「チケン早く早く! 早くこれをこぴいして頂戴!」
すっかり何かをキメたような目をしていた。こいつ文房具と本と紙と碁のことになると目の色が変わるんだよな。
こいつの文房具趣味は俺のメテクエ好きといい勝負じゃないんだろうか。
ちなみに俺のメテクエは神ゲーへの正当な評価なので正義だと思っています。無罪です。
「チケンくん、斎王殿下の次は僕も!」
「わかった、順番にね」
珍しく平岡さんも興奮している。コピーをするだけだが二人は目を輝かせてコピー機を見つめている。二人の目のきらめきに、操作画面をタップする手がやや緊張してしまう。
数百円をコピー機に入れておタヒの手紙をセット。A4サイズくらいの紙に書かれてるからA4でいいか。
「何枚コピーするんだ?」
「四枚……やっぱり五枚!」
サクッとコピーすると、ガーッという音を立ててあっという間に紙が五枚出てくる。
まじまじと見ていたおタヒに紙を渡してやると、おタヒはコピーされた紙を目を見開いて震えていた。




