後日談15 名探偵おタヒの事件簿 中
朝七時五分。俺はいつも通りにグリセルダに引きずられて食堂に向かっている。すると、珍しく大声が聴こえてくる。
「もう! 何よ、言うこと聞きなさいよ!」
「にょわわ!」
「私の言うことが聞けないっていうの!?」
「にょーわ!」
「本当に腹が立つわね、偉大なる正二位の斎宮にして内親王の私の言うことが聞けないっていうの!?」
「にょわわw」
世にも珍しいことにおタヒと牛頭くんが口論をしている。
もちろん牛頭くんが詳しく何を言っているのかはわからないが牛頭くんが何となくおタヒを煽っているのはわかる。
「どうしたんだ、珍しいな」
「もう、聞いてよチケン。牛頭くんが言うことを聞かないの!」
「お前がまた無茶振りしたんじゃねーの?」
こういうときのおタヒに信用はない。
牛頭くんは俺の後ろに一瞬で回り込み、俺の後ろから頷きつつ叫ぶ。
「にょわわわ!」
「もー! そんなに私が嫌ならチケンの家の子になりなさい!」
「にょ!」
おタヒのキレ方はなんとなく庶民じみている。
なんでこいつのキレ方こんなにかーちゃん風味なんだ、どこでこういうのを覚えてきたんだ、こいつ皇女様じゃねえのか……。
俺が牛頭くんを撫でると嬉しそうににょわにょわしていた。可愛いな。俺は牛頭くんの味方になることを決めた。
「まあいい、牛頭くんは俺が面倒を見てやろう」
「何よチケンまで! 腹が立つわね! でもお腹すいたから朝餉を早く用意しなさいよ!」
かーちゃんとパワハラおっさんのマリアージュのような12歳を眺めつつ、俺はあくびをしながら前日の夜用意していた朝飯を並べた。
おタヒの言うことにいちいち腹を立てていては循環器系の病気になってしまう。
俺はまだ憤死したくないからな。憤死ってマジであるんだろうか……と考えつつ、俺はキッチンに向かう。
テオネリアの食料庫は入れた区画ごとに出来立ての温度と鮮度を保存しており、出すだけで出来立ての飯を出すことが出来る。本当にありがたい。
俺に朝から飯を作る気力なんかないからな……。
なんだかわからんが今日はずっと牛頭くんが色々手伝ってくれた。
普段はインテと俺三人で家の掃除や料理などをしているが更に牛頭くんまで手伝ってくれる。
おかげでずっとやりたかった床のワックスがけも分担したおかげでサクサクと消化。
窓ガラスも牛頭くんと一緒だと高いところもいい感じに磨けて楽しい。動画サイトで見たプロのテクニックを試しつつ、いつもの倍速で家事が進んだ。
「牛頭くんは偉いなあ~!」
「にょわ!」
おタヒと違って牛頭くんは本当に素晴らしい。触るとふかふかで温かく心地よい。虹の橋を渡った実家の犬マシュマロを思い出す。
ペットがいる生活良かったけど、犬とか猫とかは結構手間がかかるからな。牛頭くんでもふもふ分を補給させてもらおう。
「牛頭くん、長生きするんだぞ」
「にょわわ!」
俺は牛頭くんの頭を撫でた。うーん、何度撫でても触り心地がいい。紙でできた式神とは思えないクオリティーだ。
「牛頭くんはおやつとか食うのか?」
「にょにょ」
牛頭くんは首を横に振った。そりゃそうか、式神だもんな……。
「なにかお礼をしたいんだけどな……ありがとうな」
「にょわわ!」
気にするなと言わんばかりに牛頭くんは俺に抱きついた。おタヒもこの素直な行動を見習えばいいのに……
――――その頃のおタヒの部屋。
「うーん、この段階では全然怪しいところはないわね」
「いつも通りだな」
「でもやっぱりチケンは侍女に向いているわね! 自ら技術を磨いて仕事をするのは侍女として好ましいと思うわ!」
「その意見には同意だな、まあ私の侍女なのだが」
牛頭くんの目を透してグリセルダとおタヒはチケンの行動を監視している。当然昼間なのでいつも通りでわからない。
おタヒは最近覚えた『録画』という概念を己の術に反映させることに成功している。つまり、牛頭くんを通じてチケンの行動を全て録画しているのだ。もちろん本人に許可などとっていない。
グリセルダとおタヒは全てを牛頭くんに任せ、自分たちはその日は普通通りに過ごすことにした。
その日はチケンは近所に軽い買い出しに行く程度でやはり何も変化はない。やはり、謎の根源は自分たちが寝たあとにあるようだった。
翌朝、グリセルダとおタヒはおタヒの部屋で牛頭くん経由で録画した画像を観察することにした。
夕食までの流れは自分たちが記憶していたとおりだ。
その後平岡に質問された日本の事務手続きに関する調べ物をしたり翌日の朝食を作ったり、ゲームをしたり、翌朝以降のグリセルダとおタヒの予定の調整やテオネリアへの日報の作成、意外にやっていることが多い。
「ふむ、だから疲れているのか?」
「でも三人で分担してそんなに疲れることはあるかしら。小さなチケンはともかく、二人は大人の男じゃない」
そして、時間は0時をすぎるとあとは無駄に動画を見たり、だらだらスマホをしているだけだ。
「ちょっとこの時間にさっさと寝ればいいじゃない、なんで寝ないのよ!?」
「うーむ、夜ふかしは体に悪であろう、遊ぶ時間がよほど欲しかったのか……?」
しかし、チケンは眠そうな顔をしながらもぼーっとスマホをいじっている。
寝付きのいいのが自慢だったはずだが、もしや不眠症にでもなったのだろうか、と訝しんでいるともう時間は午前二時になっていた。
『二時!』
『にょわ?』
急なチケンの叫びに牛頭くんが驚きの声を上げる。
『ああ、メテクエは4時間おきにショップの更新があるからな。ショップからしか買えない無料ガチャのチケットを手に入れてたんだよ』
『にょわ……?(意訳:それ、大事?)』
『すごく大事だ! 無料ガチャからしかでない超絶レアキャラがまだ完凸できてねえからな……こんだけ廃課金してもまだ完凸できてないんだよな……俺のガチャ運のなさよ……よし、あと三日くらいで百連分たまるし一気に百連回そ』
チケンは満足げにスマホを眺めると、スマホを充電し、ベッドに入ると五秒で寝た。
寝る時間が二時で、起きる時間が七時。それをずっと続けていれば確かに朝起きられなくても当然だろう。おタヒは睡眠時間は八時間は欲しいし、グリセルダも七時間は欲しい。
チケンが大人で男で体力があるにしても五時間睡眠が続いて体に良い訳がない。
なお二人にはならあと一時間寝かせてやろうという発想はない。
「謎は、すべて解けたわ!」
名探偵のようにおタヒが叫ぶ。
「……なるほど、道理で起きて来ぬわけだ」
「もおおおお! 自業自得じゃない!」
「しかしこれは迂闊に注意もできぬぞ……」
「そうね、めてくえだものね……」
そう、他のことは大体しょうがねえなあ、と文句たらたらで、でも言うことを聞いてくれる確率が九割のチケンだが、メテクエとなると話は別だ。
二人は頭を抱えた。
チケンとメテクエ。火と油、熱した油と水くらい合わせてはいけないものだ。
グリセルダとおタヒは天を見上げた。ヴェレルのように殺せばいいというシンプルな回答はない。
どうにかして、二人の共通の利益であるところのチケンの早起きに導かねばならない。
しばらく考え込んだが解決の糸口は全く思いつかなかった。
次回は木曜更新です!
エア表紙を描いた話と更新予定についてカクヨムの近況ノートに書きました
良ければご覧ください
なろうの活動報告は見てる人がいるのかわかんないのと画像がアップできないので……
https://kakuyomu.jp/users/akusuta_tabe_tarou/news/2912051597274889387




