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第8話 案外人生は上手く出来ている

ピンポーンとインターホンを鳴らす。


ゆかりちゃんの家はそこそこ大きく、ある程度裕福な家庭であることが分かる。

キィとドアが開き、中からゆかりちゃんが出てきた。


「....茜ちゃん。な、何しに来たの?」


怖そうに、何かを予想しているようにゆかりちゃんは顔を歪ませる。歪ませてるのは私なのだけれど。


「....まって...」


「え?」


「ちゃんと謝って。私に....ゲホ....謝って」


少し噎せながら私はゆかりちゃんにそう言った。ゆかりちゃんはその事を予測してたのであろうという反応をしている。


「わ、悪かったと思ってるよ!!....私が、被害者ぶって...迷惑かけたとは思ってるよ!!でも!...茜ちゃんだって悪かったんだから!」


ゆかりちゃんは涙を流しながらそういった。


「いつもいつも他人事のような目で見て茜ちゃんは神様のつもり!?当事者だって色々あるんだよ!好きでこんな性格になった訳じゃないし....人をバカにして!自分は安全席で眺めてるし...!


自分の手を傷つけるとかバカじゃん!?」


ハァ...ハァ...と息を乱しながら、涙をポロポロ流しながら彼女はそういった。

やってしまったという罪悪感、自分には出来なかったという劣等感、もうやり直しができないから正当性の主張。


色々な思いが私にあるんだろう。


「うん、それでいいよ」


私はゆかりちゃんの言葉を否定しない。反論もしない。それが的を得ているのは承知している。


「ゆかりちゃん、学校に行こう」


「はぁ!?」


脈略のない私の言葉に驚愕するゆかりちゃん。そりゃそうだろう。私がまさかこんなこと言うとは思ってなかったと思う。


「バ、バッカじゃないの!?なんで私が...やだよ!どうせイジメられるもん!」


「イジメられるのが嫌なら、やめてって言えばいい。それだけで全部解決する。それでも無理なら関わらなければいいし、やり返せばいい。私の時みたいに」


やり返しがダメなんて、そんなのは強者の独り善がりな論理である。こんなのは加害者の為の論理だ。


綺麗事で世界は変わらない。


「..っ..そ、そんな簡単に言わないでよ!!そんな簡単な訳ないでしょ」


「簡単だよ。どうせ皆は面白がってやってるだけで恨みなんてないんだよ。遊びなんだよ。だったらその遊びに付き合わなくていい。


何も気づいていないバカな子供は見捨てていいんだ」


見捨てていい。どうせ10年後には関係なんてない人間なんだ。イジメっ子だろうがどうせ成功するやつは成功するし、失敗するやつは勝手に失敗する。


「なんで...なんで、茜ちゃんはそこまでするの?私のこと嫌いでしょ?」


何かを期待するような顔でそういってきた。もしこれが青春ドラマだったら、友情が芽生えているだろうが....


生憎、私はひねくれてるからそんな感情とかもってない。


「知らん、語彙の少ない思春期一歩手前の小学生にそんなん聞くな。明日になったら今度こそ本当に放っておく」


「え、酷くない!?茜ちゃんがずっと友達でいてくれるとかじゃないの!?守ってくれないの!?」


「甘ったれるな、友達くらい自分で作れ。自分の身くらい自分で守れガキ」


それを言ったら怒った顔をされた。うん、私も最高に無責任でとんでもないことをいってるのは分かる。

若干喋りが可笑しくなってるけど、気にしないで欲しい。


「けど、学校くらいは一緒に行ってやる」


私はゆかりちゃんに手をだした。まぁ、この手を掴んだところでなにをする訳でもないが、気休めにはなるという意味だ。


「....分かった....行くよ」


ゆかりちゃんは恐る恐るという風に私の手を掴んだ。そしてそのまま学校へと向かう。しかし、その途中にゆかりちゃんはいきなり止まった。


「私、茜ちゃんと友達になりたい。よかったら、なって欲しいの!!」


「いいよ」


私はアッサリとそう返した。


「ぇえ!?いいの!?なんで!?」


「いや、普通こう答えるし」


「私の葛藤とか...ああもう!!絶対に友達になれないと思ってたのに!!茜ちゃんのせいで!私...もう!!から回ってばっかりじゃん!!」


「それ、君が悪いよね」


大きな声でうめき声をあげ、天を仰ぎ、俯き、顔を真っ赤にして、青くして、泣いて笑って、ヤケになってる忙しないゆかりちゃん。


「ちゃんと言えば伝わるもんなんだよ」


何も言わないと何もわからない。


嫌だと、ハッキリ言えば伝わるし、嫌いだと言えば伝わる。好きだとちゃんといえば伝わるし、愛してると言えば伝わる。


「人間はエスパーじゃないんだよ」


「何でも見透かすよ癖に!!」


「何でもじゃないよ、実際にゆかりちゃんの言葉には驚いたし」


「無表情だよ!!」


手を繋ぎ、歩きながら喋る私たちはまるで何事もなかったかのような普通の友達に見えてたと思う。


案外人生は意外と上手く出来ている。

これで話は粗方終わります。この後、彼女たちがどうなったかについては、皆さんがご自由に想像していて下さい。

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