報告
「シノタキはどうした?アラートはまだ先だが、無断休暇を許せる状況ではない!さっさと呼んで来い!」
新野が机を叩きながら叫ぶ。無造作に置かれた紙の山。その内の一つから書類が落ちた。
「シノタキは今、寝ています」
これは本当の話だ。痛みが治まらないので部屋まで送った。後はそのままだ。朝食は食べただろうか。
「寝てる!?馬鹿じゃないのか!何時何時出撃命令が来るとも分からないのに」
「生理です。指令」
自分でもこんなにすらすらと嘘を言えるのが不思議だった。きっと今まで試す機会が無かったのだろう。自分のマニュアルが無い、ということが機械と生物の違いだ、といってもいい。
こんな不可思議で不気味なメカニズムを十分に理解していないのに、皆知ったように使う。不思議だったが、とりあえず他人に訊くのは止めた。絶対に取り合わない。
きっと馬鹿にして気にしないようにするプログラムが植えつけられている。製造不良だった僕が、それに気付いた。
シノタキだって、そうだ。
きっと、そういう製造不良品の人間が所々にいて、それぞれのことをしている。
最初から変だった。
最初から狂っていた。
最初から、壊れていた。
だからきっと、人を殺している。
だからきっと、空を飛んでいる。
「殺されていることを望んでいるんだろ?」といったのは誰だったか。
思い出した。平木だ。狂った女だった。自殺することを考えていた。でも最後は鳳流の主翼トラブルの餌食になった。
彼女も、きっと狂っていたんだろう。狂っていない、正常な人間が、僕の目の前にいる。
「……全く、これだから女は役に立たん」
新野が吐き捨てる。その吐き捨てた言葉が壁に反射して、分散して、まだこの部屋に漂っている気がした。
成果平均で言えば、女性のほうが優秀だといえる。でも死ぬ確率は女性のほうが高いような気がする。一歩奥に踏み込む。そこで、撃たれる確率が跳ね上がり、撃てる確率が跳ね上がる。だからだろう。
一歩奥に踏み込んで拳銃を抜き出して銃撃。それをシミュレート。勿論、別に一歩踏み込む必要は無い。どうして一歩踏み込もうと思ったのか思考を辿ったけれど、答えは見つからなかった。
「もういい。下がれ」
彼がヒステリックな溜息と共に言葉を吐き出した。嫌で嫌で仕方が無い、あるいは、呆れてしまってしようが無い。そんな溜息だ。
部屋を出て、ドアを閉める。失速速度ギリギリで歩く。これ以上遅くなったら床に沈みこんでしまいそうな気さえした。
一応、シノタキに朝食を届けたほうがいいだろうか。
よく考えたらただ報告しただけで1000文字使うとは……何という高燃費。




