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Himmel Vogel  作者: フラップ
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40/56

ワイン

濡れ場です。シンプルに纏めました。

 「ワインがある」


 彼女が突然、そういった。


 「今日アラートだったから、明日は大丈夫」


 彼女は何を言いたいのだろう。


 * * * *


 彼女はもうグラスを何回も空けている。前も殆ど酔っていなかった。酒に対して強いのだろうか。


 部屋は薄暗く、乾燥して冷たい空気がその部屋に充満していた。ベージュ色の壁紙が黄色い照明でますます濃く感じられた。


 彼女はデスクの前のソファで背もたれに体を預けている。一瞬だけ、背中に暖かい感触を思い出す。


 温い照明。


 空気も、壁も、僕が座っているベッドもひんやりと冷たかった。


 煙草を吸おうかとも考えたけど。どうしてか吸おうとは思わなかった。


 溜息を吐く。まるで自分の周りの空気全てが僕の吐いた息で包まれている気さえした。


 彼女はグラスを傾けている。僕もグラスは持っているが、まだ一回も口をつけていない。


 「ワインは嫌い?」


 彼女が訊いて来る。いつもの顔とは余り変わらない、だが少し違うその顔。機能が破綻している、そんな彼女が僕を見つめている。


 「いや……」


 「そう」


 彼女は彼女の持っているグラスを口に向けようとして、止める。


 床に赤い影。


 彼女は髪を解いた。


 「これを……」


 「?」


 「これを飲んだら、全部酒の所為にできるかな」


 「何を?」


 彼女は答えない。


 無言。


 静寂。


 彼女はグラスを傾ける。


 白い喉が動く。


 その喉を、こぼれたワインが通る。


 それを、僕は見ていた。


 彼女は胸元を緩める。


 布の擦れる音。


 彼女がグラスを置く。


 僅かな逡巡。


 彼女は僕を見る。


 戸惑い。


 僕に、如何しろと言うのだろうか。


 彼女は立ち上がって、歩き寄って来た。つまり、彼女のベッドとは反対方向へ。


 僕はグラスを脇に置く。


 彼女は僕から視線をそらす。アルコールの所為かそれ以外か、彼女の頬は赤い。


 彼女が倒れこんでくる。甘酸っぱい匂い。


 髪が流れる。


 結局、僕はワインを一回も飲まなかった。

おわり。「物足りない!」って人はノクターンへ。

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