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Himmel Vogel  作者: フラップ
Drehend
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36/56

射出

 シノタキが向こうから歩いてくる。


 「あと10分。鳳流は基本的に変わらない。発信後、ポイントワンで発艦フォーメーションで200メートルにつける」


 「スタータはつけた。100メートルじゃないのか?」


 「カタパルトは動かない。空母は動く」


 航空母艦からの発艦フォーメーションで離陸するようだ。


 機首左側の主翼にもぐり、搭乗用梯子を引き出す。空気抵抗で自動的に閉まるタイプだ。限界までのマンパワーの削減がこのメカニズムを生み出している。その梯子に足を掛け、登る。視界の奥ではシノタキが同じように登っていた。


 猫のようなほっそりとしたシルエット。引き出し足掛けを引き出し、コックピットに入った。真新しい素材の匂い。ゴムとビニールとオイルの匂い。


 シャッターが開き始める。その音が聞こえてきた。此処からは見えない。


 フラップを下げる。


 「一番機、二番機シャトル連結」


 シノタキもセットが完了したようだ。空母と別物のように違う。


 スロットルを少し出す。


 パネル右手のスイッチをONに入れ、左手の緑色のチョーク・レバーを二秒だけ起こす。これで始動用燃料が入った。


 スターターが回り始める。


 手を振り上げ、叫ぶ。


 「コンタクト!」


 一拍置いて一瞬でプロペラが見えなくなる。それをミラーで確認。


 爆音。


 耳が慣れる。


 無線に老人の声。


 あと10秒。パネル右上の航空時計のストップウォッチを入れる。


 あと一秒のところでペダルを踏んでブレーキを開放、スロットルを全開。


 ラダーで摂動を抑える。


 首を引き、頭をヘッド・レストにつけた瞬間、猛烈なGが僕を襲う。


 体が浮き上がりそうになる。


 視界の上に夜空が移る。次の瞬間、滑走はスキージャンプに移る。体が押さえつけられる。


 次の瞬間、鳳流は宙に放り出される。


 僅かなマイナスGのあと主翼が揚力を捉える。


 スロットルを抑える。


 凰流に合わせて作られたからか容易に上昇に移れる。


 ストップウォッチが15秒を指す。左旋回。


 シノタキが発艦する。


 シノタキが後ろに付けた。そのまま上昇。スロットルを出して上昇旋回。


 機首を基地に向ける。


 明るみ始める東の空。


 夜明け。


 朝が僕らを呑み込んでいく。


 僕らを呑み込んでいくそれは戦争かもしれないし、


 悪魔かもしれないし、


 敵軍かもしれないし、


 それは何だっていいことで。


 彼女は僕の左後方。


 彼女と僕との距離に似ている。


 互いに依存したくない。


 互いに干渉したくない。


 でも……、


 さっきの彼女は、少し変だった。


 酒のせいだろうか。


 正常ではなかった。


 バランスを崩していた。


 彼女の笑ったような、泣いたような顔。


 震える声。


 僕を抱きしめる震える手。


 押し付けられた拳銃のホルダ。


 すすり声。


 彼女に靠れかかられた感触が僕の背中に。


 夜と朝の、その真ん中を僕は飛んでいる。


 視界の真ん中に基地が見えてきた。

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