第2話:適性
試験会場に着くと、そこには数えきれないほどの人が集まっていた。
「……すげえな」
思わず声が漏れる。
これが全員、俺のライバルになるのか。
さすがアウレリウス魔術師養成学校。規模が違う。
隣を見ると、ティナが少しだけ身を縮めていた。
もじもじと落ち着かない様子だ。
「ティナも緊張してるのか?」
声をかける。
「やっぱり試験って緊張するよな」
すると、ティナは小さく首を振った。
「……人、多い」
「ん?」
「私人多いの苦手」
予想外の返答だった。
「ああ、そっちか」
緊張しているわけではないらしい。
「まあでも、一緒に頑張ろうな」
「……うん」
ティナはわずかに頬を赤くして頷いた。
________________________________________
やがて集合時刻になる。
――パンパカパーン
場違いなほど明るい音が響いた。
「皆さん、ようこそおいでくださいました!」
声のする方を見ると、高台の上に一人の女性が立っていた。
その姿を見た瞬間、周囲がざわつく。
「……誰だ?」
有名人らしい。
「では、今回の入学試験について説明します!」
よく通る声だった。
「試験は全部で三つ!」
指を立てる。
「一つ目、魔力検査!適性を見るものですが、合否には関係ありません!」
ざわめきが少し落ち着く。
「二つ目、実技試験!二人一組で戦ってもらいます!勝敗だけでなく、戦い方を見ます!」
空気が引き締まる。
「三つ目、学力試験!魔術の知識を問います!」
そして、にっこりと笑った。
「皆さん、頑張ってくださいね!」
「「おおおおおお!!」」
受験生たちの雄たけびが響く。
熱気が一気に高まった。
「なあティナ、あの人誰なんだ?」
「……わからない」
ティナも首を傾げる。
まあいい。
問題は――
(学力試験か……)
少しだけ不安がよぎる。
うちは貧乏だった。
勉強道具も満足に揃わなかった。
一応やれるだけはやってきたが、周りとの差は否めない。
(……いや、やるしかない)
俺は気持ちを切り替え、最初の試験へ向かった。
________________________________________
「入場番号3250、前へ」
ティナの番だった。
「行ってくる」
「おう」
ティナは静かに歩き、水晶の前に立つ。
一瞬の静寂。
次の瞬間――
―あなたの適性は
炎・水・土・風・氷・雷です―
「……は?」
一拍遅れて、会場が爆発した。
「うおおおおおおお!?」
「六属性だと!?」
「ありえねぇ……!」
ざわめきが止まらない。
普通、多くても三つ。
それが常識だ。
「天才だ……!」
「神に愛されてる……!」
「結婚したい……!」
最後のは知らん。
俺はティナを見た。
「……すごいな、お前」
正直、素直にそう思った。
だが――
ティナは、少しだけ首を傾げただけだった。
喜んでいる様子は、ほとんどない。
(……あれ?)
違和感が残る。
________________________________________
「入場番号3251、前へ」
俺の番だ。
水晶の前に立つ。
「未来、頑張って」
ティナが言う。
「……おう」
頑張ってどうなるものでもない気はするが。
水晶に手をかざす。
一瞬、何も起きない。
そして――
―あなたの適性は
肉体強化です―
沈黙。
次の瞬間。
「ぶはっ!」
「肉体強化だってよ!」
「魔術じゃねえじゃん!」
爆笑が広がった。
「それスポーツ選手しか道ないだろ!」
「魔術師志望でそれかよ!」
嘲笑が突き刺さる。
「……」
俺は何も言えなかった。
審査員が困ったようにこちらを見る。
「えー……その……」
歯切れが悪い。
そして、はっきりと言った。
「あなたは肉体強化魔術しか使えません。正直に申し上げて、魔術師としての才能は……ありません」
はっきりと告げられた。
才能がない、と。
笑い声は止まらない。
さっきのティナとは真逆だ。
(……ふざけるな)
胸の奥が、じわじわと熱くなる。
その時だった。
「何の騒ぎですか?」
静かな声が響く。
振り返ると、さっきの女性が立っていた。
「これはアンリ先生……」
審査員が慌てて頭を下げる。
「事情は?」
「は、この受験生の適性が肉体強化のみでして……」
「……なるほど」
アンリと呼ばれた女性は、俺を見た。
まるで品定めするように。
「確かに珍しいですね」
くすり、と笑う。
「ですが――」
一歩前に出た。
「才能がない者でも受験できる。それがこの学園です」
周囲が静まる。
「ただし」
その視線が鋭くなる。
「この後は実技試験ですよ?」
「怪我をする前に帰った方がよろしいのでは?」
やんわりとした言い方。
だが、はっきりとした拒絶。
(……上等だ)
胸の奥の熱が、形になる。
「確かに才能はないのかもしれません」
一度、認める。
「でも――」
顔を上げる。
「才能がない=弱い、じゃないですよね?」
会場がざわつく。
「どこまでやれるか、見せてやりますよ」
笑って言った。
アンリは一瞬だけ目を細め――
ふっと微笑んだ。
「いいでしょう」
小さく頷く。
「なら証明しなさい」
声の温度が変わる。
「この学園は――強さがすべてです」
空気が張り詰める。
「勝ち続けなさい」
「そして頂点に立ちなさい」
「そうすれば、誰もがあなたを認めるでしょう」
静寂。
「……やってやるよ」
俺は即答した。
アンリは満足げに笑った。
「では、ご武運を」
そう言って、踵を返す。
________________________________________
「ああ、クソ……」
小さく吐き捨てる。
笑われたことよりも――
“決めつけられたこと”が、気に入らない。
証明してやる。
そう思いながら歩き出す。
その後ろを、ティナがついてくる。
何も言わずに。
ただ――
少しだけ、俺の手を見ていた。




