さよなら。今までありがとうね
淡路島デートの前日に、唐突にサエから無理かも、と言われてしまう凰太。
初デートはどうなってしまうのか?
◯登場人物
凰太
39歳
ゲーマー。兵庫県神戸市に住む。
さーちゃん、サエ
42歳 バツイチ子持ち。
香川県に住む。元は神戸市に住んでいたらしい。
『明日、会うの無理かも』
「えっ!! なんで!!?」
俺はもうデート前日だから、ドキドキワクワクで、仕事もできるだけ早く終わらせて、明日に備えて気合いを入れていたところだったのに。
『明日出勤の人がもしかしたら出れないかも、って連絡あって。私、午前中だけ出ないといけないかも』
さーちゃんの仕事は介護士だった。そして、訪問介護という、利用者さんの家に直接訪問して介護をする仕事だそうだ。
「あ……そうなんや。出れないかも、ってことはまだわからない、ってことなんかな?」
『んー、微妙かな……それに、私可愛くないし。おばちゃんやし』
え。急になんなんだ。
「見た目のことなんてわからないやんか。まだ会ってもないのに。それに、俺も素直に言うと、全然カッコよくないし、おっさんやし、さーちゃんに会うの凄く不安やから、一緒やで? 嫌われないかな、って思ってるし」
『じゃあ……尚更やめたほうがいいと思う』
なんでそうなる?
「いや、違う違う。不安な気持ちは同じやで、って言ってるだけやんか。でも、仕事がどうなるかはわからないのは仕方ないと思うけど、その場合でもお昼からなら来れたりする?」
明日、当日はさーちゃんは車で、幸せのパンケーキの店舗がある、北淡インターという淡路島の割と北寄りの所に、高速道路で来る予定になっていた。俺の方は、朝早めの高速バスで、その北淡インター止まりのバスがあるので、それに乗る予定だった。
『んー、どっちにしても出勤になったとしたら、もうそのまま仕事するかも。おーくん、もう明日はやめとこ? せっかく予約してくれて、ごめんやけど』
「俺……さーちゃんのこと、実はだいぶ好きになってしまってる。前に言ったみたいに最後の恋人になんてカッコいいことは言わないけど。さーちゃんが俺のこと、そんなに好きでもなく、会いたいっていうわけじゃなくても、俺に少しでもチャンスほしいねん」
『前も言ってたやんね、チャンス。最後の人になってくれる、って言葉。ホントに凄く嬉しかったよ。おーくん、ごめん。これは私のせいやねん。もしかしたらおーくんに勘違いさせるようなこと言ってしまったかもやから』
何を……何を言ってるんだよ……
「さーちゃんが喜んでくれるなら、俺はそれだけで嬉しいんやで。勘違いなんてしてない。もちろん、さーちゃんに好きになってもらえたら、めちゃくちゃ嬉しいけど。でも、そんな何ヶ月かですぐに好きになんてなれないこともわかってる」
『さよなら。今までありがとうね』
通話が切れた。
なんで……なんで……
俺はショックのあまり、通話をかけ直すこともできなかった。
◇ ◇ ◇
翌日の朝。
俺はさーちゃんに通話ではなく、一件だけメールを送った。
「おはよう。自分でも女々しくて嫌になってしまうけども、もし仕事の段取りがついて、約束してた予定通りに来れそうなら、北淡インターの出口のところで待ってる。九時くらいに北淡インターに着く予定やからね」
俺は電車でJR舞子駅まで行き、そこから明石大橋のちょうど手前くらいにある高速バス乗り場から、淡路島に向かうバスに乗った。そして、バスに乗ってからもう一件メールを送る。
「予定通り高速バスに乗れたから、今から北淡インターに向かうね。連絡できそうならしてくれたら嬉しいし、もし連絡なかったら、お昼には帰るから」
高速バスに乗ると、というか。舞子駅自体がもう明石大橋の目の前だから、バスに乗ったらすぐに橋を渡る。
普通なら、というか。今の心境でなければ、大きな橋を見ながらウキウキしながらバスに乗っていたはずだ。俺はまぁまぁ乗り物は好きだからだ。
ただ、今はもうほぼ絶望というか。自分でもどうしたらいいかわかってないけども、さーちゃんと、こんな終わり方は嫌だった。北淡インターまではおよそ15分くらい。橋を渡ると、大きい観覧車がある、淡路サービスエリアがあるが、そこには停まらず、二つ目くらいのバス停が北淡インターだった。
インターのバス停に着いた。さーちゃんからの連絡はない。これ以上しつこくメールやら通話はやめておこう。もし逆なら俺もきっと嫌だと思ったからだ。
今更だが、季節は五月の真ん中あたり。日中はもう暑いくらいの天気になるが、朝はまだ少し涼しいような気温だった。
北淡インターの出口の駐車場は、公衆トイレと、そんなに大きくない駐車場と、特に売店もない殺風景な場所だった。時間は九時の少し手前だった。
携帯が鳴った。さーちゃんからだった。
「もし……もし?」
『もう少しで着くよー。なんか高速の途中で事故ってて、少し遅れたんよ、ごめん』
「え、え。全然大丈夫! それよりも安全運転で来てな。ありがとう、ありがとう!」
なんだか俺はなんて言ったらいいか、わからなくて。
『パンケーキ楽しみやね。仕事のほうは、なんとか代わりの人見つかったよ』
どん底からのサプライズ。あぁ、神様!
というか、俺は現実に急に引き戻された。もう少しでさーちゃんが着く。どうしよう、どうしよう。
なんだか、挙動不審な人になっていたら、北淡インターの駐車場に、一台の車が入ってきた。
たぶん。きっとさーちゃんな気がする。俺は恐る恐るその駐車場に止まった車に近づいていった。
車の中の小柄で、可愛い目をした女性が手を振る。
「おーくんやんね? 全然おじさん臭くないやん」
さーちゃんの声だった。
「さーちゃん……可愛い」
俺は、それを言うのがやっとだった。
一時はどうなるかと思ったが、
車に乗って、待ち合わせ場所まで来てくれたサエ。
凰太は、緊張と喜びとで、感情がぐちゃぐちゃになってしまい、なんと話してよいか、わからなくなっていた。




