大晦日の夜、君との未来を
年越しの準備をして、前倒しでお節もいただき、
チサがぐっすり寝たあとに、二人で夜のデートに行くことにした。
◯登場人物
凰太
39歳
ゲーマー。兵庫県神戸市に住む。
沙絵、さーちゃん
42歳
香川県に住む。元は神戸市に住んでいたらしい。
バツイチで、中三の娘がひとりいる。
千沙
15歳
沙絵の娘。
チサちゃんがぐっすり寝てしまったあとに、俺とさーちゃんは、夜のデートに出発した。
と、言っても、ホテルはJRの讃岐牟礼駅の近くなので、自宅から車で10分ちょいくらいなのだ。何かあってもすぐ帰れる距離である。
車を停めて、階段を上がり、ホテルの部屋に入る。
実はもう、ここのホテルはまぁまぁの常連になっている。何故かと言うと、やはりチサちゃんが居る自宅で、部屋は離れているとはいえ男女が同じ布団で寝ているのは教育上あまりよろしくないからだ。
「おーくん、いつも来てくれてありがとうね。結構バス代もかかるのに。それに予約も大変やんね」
「全然気にせんでいいよ、俺が会いたいから来てるだけやし。それに、さーちゃんが前みたいに神戸に来てくれても、ゆっくり出来なかったら淋しいやろ」
「そうやねん……あ、実はね。チサが高校を卒業したら神戸に引っ越そうと思ってるねん」
え。それは初めて聞いたな。
「そうなんや! さーちゃん達が神戸に来てくれたらめちゃくちゃ嬉しいし、俺もしょっちゅう行けるようになるけど……さーちゃんの仕事とか、チサちゃんは大丈夫なん?」
「うんうん、おーくんと知り合う前からもね、元々神戸にはいつか帰るつもりでいたんよ。香川にいるのはチサの学校とかの兼ね合いだけやから。私の介護の仕事なんて、場所を選ばずどこでも探せばあるし」
確かに前にも聞いたが、この香川には結婚をしたから来ただけで、もう別れている今は、さーちゃんに取っては居なくても差し支えはないし、むしろ元旦那さんの知り合いが近所に住んでいたりと、さーちゃんにとっても、俺にとっても、そんなに良くはないのである。
「そうなんや……じゃあ三年後くらいかな? そのくらいには一緒に住めるかもやね。チサちゃんは俺と暮らすのはどうなんやろ?」
「え……? それって……」
「俺も職場がどうしても安定しなかったり、色々異動がある場合あるからなんとも言えないんやけどね。俺、さーちゃんがずっと香川にいるとしたら難しいかなと思ってたけど、神戸に引っ越す予定があるんやったら、せっかくなら一緒に住む方がいいんちゃうかな、って思って……」
さーちゃんは俺の方をじっと見つめる。
「一緒に住むってことは……結婚……してくれるん?」
「簡単に言えることじゃないかもやけど……俺はできたら、そうしたいって思ってるで。あ、でもな、チサちゃんの気持ちも考えてあげないとあかんよ。さーちゃんと俺だけの意見だけで決めるんでなくて、一緒に住むこととか、あと結婚することもやけど、チサちゃんも含めて一緒に話していかないとあかんよ」
さーちゃんは、少し泣きそうになっていた。ベッド後ろの照明を調整するボタンで、部屋を暗くする。泣き顔を見せたくなかったのかな?
「私ね、これも私の悪いところなんやけど、思っててもなかなか口に出して言えなくて。おーくんがいつも私やチサのこと大事にしてくれたり、喜ぶこと考えてくれるやん? でも、将来のこと、ってなんて話したらいいんかな、ってずっと迷ってて」
俺はベッドで、さーちゃんを抱き寄せて、しっかり抱き締めた。さーちゃんは俺の体に自分の体を預けてくる。俺自身もちゃんとさーちゃんに向き合っていかないと。
「うんうん、そうやんな。なかなかそういうことって言いづらいし言えへんもんね。俺もさーちゃんにちゃんと言えてなかった。でも……これからの三年間があるやん? その間に少しずつ、みんなで話し合っていこう? チサちゃんのことも含めて」
今も、もちろん幸せだ。でも、これからも同じく幸せに暮らしていけるように考えないと。今だけが良ければ、という考えも良くないもんな。
「おーくん。めちゃくちゃ好き……」
「うん。俺も大好きやで」
さーちゃんに優しくキスをする。
「ずっと一緒にいたいよ。私おーくんがいたらすごく笑えてる、今までこんなに笑えてたことなかった」
「え、俺もそうやで。前も言ったかもやけど、俺めちゃくちゃ人付き合い苦手で。さーちゃんと、チサちゃんが一緒に居てくれるだけで、すごく幸せやし、俺ってこんな笑えることできたんや、って思ってるもん」
「なんだか、似たもの同士な気がするやんね」
そう、ホントにそうだった。でも、実際のところはさーちゃんの方が俺より何倍も。めちゃくちゃ辛い経験をしてきたに違いない。きっと、たくさんの辛い思いをしてきたから。だからこそ、こんなに優しくできるんだろう。
俺はその時に湧き上がってきた言葉をさーちゃんに伝えた。
「いつか、ずっと一緒にいれるようになろうな」
「うん。おーくんありがとう。私、幸せだよ」
遠くの方で除夜の鐘が鳴っていた。
それは一年の終わりを知らせると共に、俺とさーちゃんの将来のことを。優しく、そして力強く応援してくれているようにも聞こえた。
サエの考えを聞くことができ、自分の気持ちも伝えることが出来た凰太。
すぐには一緒に暮らすことはできないかもだが、
少しずつ、少しずつ前に進んでいければ。
そう願う二人であった。




