さーちゃんの両親と高松商店街
凰太はサエやチサと過ごす時間をとても嬉しく思い、
これからも色々なことをして、みんなで過ごすことができればいいと感じた。
クリスマス前に、高松商店街をブラブラすることになった二人だが……
◯登場人物
凰太
39歳
ゲーマー。兵庫県神戸市に住む。
沙絵、さーちゃん
42歳
香川県に住む。元は神戸市に住んでいたらしい。
バツイチで、中三の娘がひとりいる。
合同誕生日パーティーから二週間ほど経った十二月のはじめ。最近は温暖化もあってかそこまで厳しい寒さではないんだけど、それなりに気温も下がってはくる。
前に話していたクリスマスの時にも香川に行くつもりだったけど、その前に休みが取れたのでもう一回来てしまった。月一から月二で四国旅行に来ている感覚だ。
さーちゃんが神戸に行くという提案も何回かあったんだけど、チサちゃんのこともあるし、心配でなかなかゆっくりできないこともありそうだったので、俺が香川に行くほうが彼女も安心できると思ったのだ。
今回は特にどこに行こうとかはなかったんだけど、さーちゃんの方から提案があった。
「いつも車でドライブが多いから、高松の商店街のあたりをブラブラしてみる?」
俺は何度か香川に来ているとはいえ、まだまだ知らないところも多かったので、素直にさーちゃんの提案を受け入れることにした。
志度にある彼女の家から車で高松まで向かい、商店街の近くのコインパーキングに車を停めた。
「このあたりは凄い都会って感じやんね! 大阪とか神戸みたいなめちゃくちゃ、ってわけじゃないんやけど、言い方悪いけどもちゃんと街! っていう感じ」
「うんうん、それわかる〜。私も香川に来たときは、意外とお店とかもあるんや、って思ったもん」
夏のお盆にお祭りでチサちゃんが行方不明になった、琴電の瓦町駅近辺もごちゃごちゃとはしているが飲食店や色々なお店がある。立派な駅ビルもあり、色々なお店が軒を連ねている。
この近辺は道が縦横に張り巡らされていて、縦の大きめの商店街があったり、横の道にも小さな商店街や、飲み屋街、風俗街があったりと、ちょっと雰囲気は違うかもだが、大阪で言うと、ミナミのような雰囲気を醸していた。
「そういえばチサが卓球部の推薦で入りたいと思ってた私立高校に入れるみたい」
「えっ! チサちゃん凄いやんか。そんな卓球上手かったんや!」
「うんうん、私も試合とかほとんど見に行けないから知らなかったんやけど、大会とかで実績上げていたら、声はかかりやすいみたい」
「ほぇ〜! なんかスポーツ部の部活で推薦とか声がかかるのって、ホントにエリートっていうイメージやから、なんか凄い!! チサちゃんやるやんな〜」
今は二人で歩いていて、チサちゃんは学校に行っている。チサちゃんは今中三だから、来年の四月からは高校なのだ。
「なんかあっという間に子供は大きくなっていくわ〜」
俺は子供がいないからその感覚はわからない。でも、彼女が大切に思っているチサちゃんのことを、同じく大切にしてあげたいとは思った。
「そういえばおーくんは阪神・淡路大震災の時って、大丈夫やった?」
さーちゃんの唐突に話変わるシリーズが始まった。
「ん、阪神・淡路大震災ってだいぶ前の地震やんな〜? 俺その頃は小五か小六やったと思うけど……俺は大阪やからそこまでは被害なかったで。家の食器がめちゃくちゃ割れたくらいちゃうかな?」
なんで急にそんな話をしてきたんだろう。
「そっか、おーくんは大阪やもんね。私は神戸の長田っていうとこが実家やったんよ。私は中学生やったかな確か。私のお父さん……震災で亡くなったんよ」
え。小さい時からいないっていう話は聞いてたけど…まさか地震で亡くなってたなんて。
「そうやったんや……」
「うん。おーくんは長田の方ってあまり知らないかもやけど、震災後の今は割と綺麗になってるけども、当時はもう全部ぐちゃぐちゃやってん。私の住んでた家も全部つぶれちゃった。私とお母さんはその時家に居なかったからちょうど助かっただけやったんよね」
阪神・淡路大震災が物凄い規模の地震であることは知識としては知っていた。でも、その現場に居合わせていたわけではないことと、隣の大阪とはいえ、被害はそれほどなかった地域だったから、尚更震災の実感が俺にはなかったのだ。
「その時は大変やったんやね……」
俺とさーちゃんは商店街を歩きながら話す。
「うん。私は中学生やったけど、その時はまぁまぁ悪くて。友達とかと夜遊びしたり、友達のとこで泊まったりもしょっちゅうやったから」
「お母さんはなんで居なかったん? 確か朝方やったと思うんやけど……」
「お母さんは……他の男と不倫してたから。その時居なかったみたい。あとで聞いた話なんやけどね」
さーちゃんは、俺が思っていた以上に辛い経験をたくさんしてきたようだ。俺は、実際に聞いていなかったこともあるが、なんとなくわかったふりをして、まるでわかっていなかった。
「お母さんが亡くなったっていうのは……」
「あ、お母さん亡くなったのはそれから十年くらいあとのことかな。確かお酒の飲み過ぎやったと思う。身体もボロボロやったみたい。私はその頃は一緒に暮らしてないから、詳しくはわからないけどね」
「お酒の飲み過ぎ……」
「お母さん、私が小さい頃は色々美味しいご飯作ってくれたり、私も可愛がってもらってたし、いいお母さんやってん。たぶんおかしくなったのは不倫をしだしてからと、震災でお父さんが死んでからかな……」
そんな人生なんて想像もできなかった。俺は自分のことばかり押し付けたり、ほんの少しのしょうもないことで怒ったり。さーちゃんの壮絶な人生に比べたら、なんのことはない。俺なんてホントに恵まれていたのだ。
俺は歩く速度が自然にゆっくりになっていった。
「お父さんもお母さんも色々あったんやね。さーちゃんも大変やったんやね。ごめんな、俺なんもわかってないのに、さーちゃんに色々嫌なこととか、偉そうなこと言ってしまったやんね……」
「ううん、おーくんは悪くないし、私が話してなかっただけやから。ごめんね、今更こんなこと言って。言い方は良くないんやけど、こういうこと言って可哀想な子だな、って思われるのが私、あまり好きでなくて」
なんとなく。なんとなくだがその気持ちは分かる気がする。同情で付き合うというか、好きでもないのに可哀想という気持ちだけで優しくされたり、下に見られるというと変だけど、そういう感情が出てくる可能性もある。
「俺……さーちゃんのお父さんのことやお母さんのこと。聞いた今でもさーちゃんに対する気持ちは変わらんし、これからも大事にしたいと思う。俺は、あまり頼んない性格かもわからんけど、俺にできることは限られてるかもしらんけど。これからもなんかあったら言ってほしいし、頼ってほしい」
「うんっ、おーくんありがとね。私、今までにこんなに色んなこと話したり、親のこととかも言うことなかったと思う。おーくんが私のこと、ホントに好きって思ってくれてるのわかるから。その気持ちが凄く伝わるから、私も向き合っていきたいと思った」
これからも、もしかしたら色々大変なことがあるかもしれない。辛いことや悲しいことや、喧嘩をすることもあるかもしれない。
でも、その度にきちんと話すことができれば、お互いに思いを伝えることができれば、二人なら上手くやっていける気がする。いや、三人なら、か。
「うわっ! 凄いアーケード!! というかドーム!!?」
商店街の途中に凄くお洒落なドーム状の建物が出てきた。
「これ凄いやんね〜、なんか私も知らないけど有名らしいよ〜。わっ、クレープ美味しそっ!!」
さーちゃんのいつもの様子に、俺はホッとして、笑顔で返した。
サエの壮絶な過去の話を聞き、衝撃を受ける凰太。
ただ、それでも変わらないサエへの気持ちと、自分への不甲斐なさも感じ、心新たになる凰太であった。




