誕生日おめでとう、さーちゃんと俺
小豆島からの帰りのフェリーに乗るときになって、天候が急変。
フェリーの到着が遅れてしまう。
無事帰れるかな……?
◯登場人物
凰太
39歳
ゲーマー。兵庫県神戸市に住む。
沙絵、さーちゃん
42歳
香川県に住む。元は神戸市に住んでいたらしい。
バツイチで、中三の娘がひとりいる。
千沙
15歳
沙絵の娘。
土砂降りの雨のあとは、逆にめちゃくちゃ晴れてきて。そしてフェリーも無事に港に到着した。
「今日帰れなかったらどうしようかと思ったよ〜」
「ほんまやんね。とにかくフェリーが無事出れそうでよかったわ……」
小豆島から高松まではおよそ一時間くらい。着く頃にはもう夜になってしまう。
「チサちゃんお腹空いたって言うてない? 帰ってすぐ食べれるものとか買ってかえろか? デリバリーピザの持ち帰りとかにする? 誕生日っぽく」
「わっ、ピザいいやん! チサに一度聞いてみるね」
俺はさーちゃんが電話している間、トイレに行きがてら、高松のあるお店に電話を一本かけた。
「帰りのフェリーが天候のせいで大幅に遅れちゃって……夜の20時までには行けると思うんですけど、なんとか今日受けとれませんか……?」
『あ、お店は19時半なんですけども、どちらにしても片付けとかそういうのがあるので、店は閉めてますけど、近くで連絡いただけたらお渡ししますよ。今日でないと……ですもんね』
「ありがとうございます! フェリーなんで絶対何時ってわからないんですけど、なるべく早くに行きます!」
電話を切ってさーちゃんのところに戻ると、彼女も電話を終えたところみたいだった。
「おーくんトイレ行ってたん? チサもピザでいいって。フェリーに乗ってる間に持ち帰りの予約しとく? 私はしたことないんやけど」
「おっ、そうしよう。確か志度の駅の近くにピザ屋さんあったと思うわ」
俺は携帯を操作して、ピザのテイクアウトの予約を始める。
二人でフェリーの休憩所で寝転んでたのだが、横でなんかごそごそしている。
「何してんの? さーちゃん」
「はい、チーズ!!」
俺がピザの予約してる横で写真を撮っていたみたい。俺、写真撮られるのってホント苦手だったんだ。カッコよくもないし、引きこもりだし、しかもイヤイヤ写真撮られてるのに、その写り具合をイジられでもしたら、更に嫌になるんだよ。
でもね、彼女が撮ってくれる写真はとても嬉しい。俺も不思議なんだけど、俺の顔が笑っていた。俺ってこんなに笑えたんだ。昔から感情を上手く出せない性格だった。
でも、彼女と居ると、なぜか感情豊かになってるみたい。不思議だな。
「さーちゃん、ありがとう」
「え? どうしたん、急に。わっ! そのピザ美味しそっ! 四種類も乗ってるやつ」
そうそう、ピザは一枚の上に四種類の具材が乗っているタイプにした。あと、チサちゃんの好きなポテトとナゲットのサイドメニューも頼んだ。
「なんもないよ、旅行楽しかったやんね〜」
「うんっ、めちゃくちゃ楽しかった〜!」
そう言って、彼女はにっこりと笑った。
フェリーが高松港に着いた。俺は急いで車を走らせる。
「あ、さーちゃん。ピザ屋さん寄る前に少し行きたいところあって。ごめん少しやけど寄り道するわ」
「えっ。う、うん。わかったよ」
「チサちゃんお腹空かしてるのにごめんな。なるべく急ぐわ」
目指しているところはそこまで志度からは離れていなかったが、少しだけ遠回りになる。お店の人にも迷惑がかかってしまうから、早くいかなければ。
お店の駐車場に着いた。
「さーちゃんちょっと待っててな。俺受け取ってくるから」
「え、ここって……ケーキ屋さん?」
そうなのだ。俺は誕生日ケーキを予約していた。旅行帰りに普通に受け取るつもりがフェリーが遅れてしまったので少し焦っていた。
お店の人は快く片付け中でも対応してくれ、ケーキを受け取った。
「さーちゃん、ケーキひっくり返らんように持っといてくれる?」
「わぁ〜! 誕生日ケーキ嬉しい。ホールのケーキってあまり買うことないもんね」
「そうやんな〜、俺も確か小さい頃以来やと思うわ」
そのあとピザ屋さんで予約していた商品を受け取り、そこから十分もかからない彼女の自宅に着いた。
「おなか減った〜」
「チサごめんね、遅くなって。先に食べていいよ」
チサちゃんは運動部をしてるだけあって、凄く食べる。買ってきたピザとポテトやらを美味しそうに食べはじめた。
さーちゃんはさっきから、ケーキの箱をチラチラと見ている。
「ケーキ気になる? 先に開けてみよっか」
「うんっ、ケーキ見たい」
こういうとこは素直でいいなと思う。俺はケーキの箱を、倒してしまわないように横から開けて、ケーキをスライドさせて取り出す。
「わっ! 凄い! 美味しそっ! わっ、名前書いてる!」
合同誕生日なので、ケーキには「おーくん&さーちゃん」の名前を入れてもらった。ケーキの種類はシンプルな昔ながらのバタークリームのホールケーキ。
フルーツとか具材は乗ってないが、バタークリームで薔薇の花の形にデコレーションされていて、とても見栄えがした。ケーキの真ん中にネームプレートが乗せられている。
「先にハッピーバースデーしよか」
ロウソクを二本立てて、ライターで火を点ける。チサちゃんがピザを食べている横で二人でハッピーバースデーの歌を歌う。
二人で一緒にロウソクの火を吹き消した。
子供の前だからイチャイチャはできないけど、とても幸せな時間だった。
「おーくん、いっぱい考えてくれてありがとう。私こんなにしてもらったの初めてかも」
「よかったわ、喜んでもらえて。俺もこんなことしたの初めてかもやわ」
「おーくんひとつお願いがあるんやけど……」
なんとなくお願いは読めたんだけど、一応聞いてみた。
「ケーキ先に食べていい?」
誕生日おめでとう、さーちゃん。そして俺。
無事バースデーケーキも受け取ることができ、ほっとする凰太。
今までで一番の、誕生日になったようだ。
ハッピーバースデー、凰太と沙絵。




