さーちゃんからのメール
ホテルで見つけてしまった指輪。
それはサエが男から贈られたものだった。
凰太は何も信じられなくなり、
その場をあとにした。
◯登場人物
凰太
39歳
ゲーマー。兵庫県神戸市に住む。
さーちゃん、サエ
42歳
香川県に住む。元は神戸市に住んでいたらしい。
バツイチで、中三の娘がひとりいる。
志度からの高速バスに乗り、兵庫県の舞子までの二時間くらいだったかな……そんな道のりを、俺は悲しみと絶望の中、何もせず帰った。
携帯は途中で電源を切った。
大事に持っていた指輪、その贈り主が誰なのか。昔の男? それとも現在進行形の男? ただの遊びの男? しょうもない考えが何度もよぎる。
何もわからない。でも、それを聞いたところで、全てが言い訳に聞こえてしまうと思う。
やはり、ゲームで知り合った仲だからか。そんなもんだったのか。俺はさーちゃんに取ってどんな存在だったんだろう。
淡路島でパンケーキを食べて、そのあとドライブをしてカラオケに行って。さーちゃんの住む香川で、夜のドライブデートして、ドンキに行って。
そして、短い間とはいえ、体を重ねて愛し合った。すごく幸せだった。
ついさっきの出来事なのに、なんだか遠い昔のことのように思えてしまう。さっきまで俺の身体にさーちゃんの温もりがあったはずなのに、それが何故かもうない気がする。気持ちが離れてしまうと、そうなってしまうのか。
『ジョーカーくんの声、聞いてみたい』
あれは、ただの気まぐれだったのかな。そういえば、さーちゃんのことってまだほとんど知らなかったような気がする。
42歳で、介護の仕事をしていて、中三の娘がひとりいて、その娘と二人暮らしで。元々神戸に住んでいて、夜の仕事で知り合った男と結婚して香川に来たこと。
ご両親は……どうなのかな? 聞いてないな。一人っ子なのかな? そういえば聞いてないな。
あぁ……明日から仕事か。行くの嫌だなぁ……
◇ ◇ ◇
俺はいつの間にか寝てしまっていた。あまり寝てなかったもんな。
さーちゃんは何か伝えようとはしてたんだろうけども、あの場ではとても聞く気になれなかった。舞子に付き、電車に乗って家に帰った。
帰りにコンビニでビールとチューハイを買った。最近は酒自体飲んでなかったんだけども、何かに逃げたかった。
携帯の電源は切ったままだ。
全然お腹が減らない。何も食べたくない。全然美味しくないビールを心の苦みと共に流し込む。
「なんでだよ……」
俺はひとり、部屋でつぶやいた。
何も期待はしていなかったが、携帯の電源をようやく入れた。
着信が何回かと、メールが数件入っていた。ちなみに俺にはほとんど友達はいない。だから普段メールをやり取りすることもない。最近のメールも電話も、ほとんどさーちゃんだ。
これは俺がバスに乗る前くらいに来たメールかな。
『おーくん、ホントにごめんね。もし帰る前だったら、できたら電話して。ちゃんと話すから。おーくんが聞きたいこと全部話すから。今まで何も言わなくてごめんね』
ちゃんと、ってなんだよ。今までは嘘ばっかりだったのかよ。その一時間後くらいにまた、メールがきていた。
『おーくん、何度も言うけどごめんね。怒って当たり前だよね。ホントは直接ちゃんと話したいと思うけど、声も聞きたくないかもしれないから、メールで少し言うね。指輪を貰った相手は、前の旦那と別れた後に、仕事や子育てが大変だったこともあるけど、淋しくて。旦那の仲良かった友達がたまに気にして連絡があって。その人に貰ったの。好きかどうかもわからないけども、関係も何度か持った。でも、おーくんと知り合う前、だいぶ前に連絡したくらいで、それから連絡もしてなかったの』
そこで、メールが一度途切れていた。その十分後くらいに続きのメールが来ていた。
『なんで鞄に指輪が入ってたかって言うと、これは言い訳になってしまうんだけど。おーくんと知り合ってから一度その人から連絡があって。会わないかという連絡。でも、私はもうおーくんがいるから会いたくなくて。でも指輪だけは返さないと、と思って鞄に入れて、結局返しそびれてそのままになってしまってた。ちゃんと私からそのことを話していたら、おーくんに嫌な思いさせることなかったよね。私、いつもそういう大事なことを言えない、自分の中でだけしまっておくようなダメなとこがあって』
自分の早とちりだったのかよ。でも、彼女が言うように、素直に話してくれればよかったのはよかった。
聞きたいこと、たくさんあるけども。きっと全部は俺からは聞けない。さーちゃんのことだから素直に全部話すだろうから。俺が嫌になってしまう。
俺はひとつだけメールを送った。
「さーちゃんは俺のこと、どう思ってる?」
缶に残ったビールを一気に飲み干す。もう苦い思いはたくさんだ。
メールはすぐに返ってきた。
『私は、おーくんのこと、大好きだよ。ずっと一緒にいてほしい』
自宅に着いてしばらくしてから電源を入れた携帯に、
いくつかのメールが来ていた。
凰太はサエに、気持ちの確認をする。




