13.リオント側の事情
あーあ、やっぱりそうだったか。
数ある装飾品の中からシェフレラが取り出し「これだと思う」と言った、紅玉のペンダント。
それは……リオントの捜し物でもあった。
リオントと話している時、シェフレラは自分が捜しているのは「ペンダント」としか言っていない。
ペンダントと言っても、色々なものがある。多く出回っている装飾品だし、シェフレラの話を聞いた時に、たまたまかぶった、くらいに思っていた。
だが、ラメルボの店で店主が「赤い石の……」と話しているのを聞いて、同じ物だったりして、などと思っていたのだ。
そう言えば、自分も「思い出の品」という言い方しかしていなかった、ということに気付く。お互い、同じ物を追っている、とわからなかったのだ。
さて……どうするかな。
シェフレラが持っているペンダントをリオントが指し「それはおふくろの物だ」と言うことはできる。
母の気配をたどって追っている、と昨日から話していたし、シェフレラが疑うことはないだろう。
しかし、それを言うと、シェフレラは間違いなくパニックになる。
目の前に持ち主の息子がいて、明らかに自分より魔法の腕は上。持ち逃げなど、まずできない。
持ち主がわかっているのだから、本来なら返すべき。
だが、今は人の命がかかっている。このペンダントがなければ、人質となっている少年がどうなるかわからない。
あたし、どうしたらいいのーっ! となるのは、目に見えた。
リオントには、会ったこともない少年の命を助ける義理はない。だが、見殺しはさすがに気持ちのいいものではないし、ここまで一緒に来たシェフレラを置いて帰るのも気が引ける。
それに、クロスカスという魔法使いのことも、少々気になった。
クロスカスの求めるペンダントは、状況からしてこれだと思われる。だが、これがリオントの母の物だということは、間違いないのだ。
それなのに、自分の物だと主張しているらしい。どういう経緯で、そんなことになったのか。人質をとってまでこれに固執する理由は、何なのだろう。
一応、何となくの予測はできるが、人間はあれこれとこちらが想像もしないことを考えたりするもの。
なぜ、自分の物だと言っているのか。これをどうしたいのか、聞いてみたい。
ペンダントはここにある。シェフレラが持ってどう動こうが、もう見逃すことはない。彼女がリオントを出し抜くなど、ありえないから。
だったら、シェフレラと一緒に行ってその魔法使いに会い、この一件が片付いたら本当のことを言って、持ち帰ればいいだけ。
全てが終われば、シェフレラも止めようとはしないはずだ。彼女がこれを求めるのは、あくまでも人質と交換するためだから。
もし、クロスカスの要求するペンダントがこれでなければ、それはそれで問題なく持ち帰れる。
シェフレラの方の件については、そのまま協力を続けても構わない。もう少し詳しい形状を聞けば、見付かるのにそう時間はかからないはず。
リオントがそんなことをつらつら考えていると、シェフレラの方から同行を依頼してきた。
こちらから切り出して断られたら、後をつければいい。そんなことも思ったりしたが、その必要はなさそうだ。
彼女の実力を思えば、そう言い出すだろう、とは予想できた。
捜し物をする手伝いをしてくれるそうなので(もう見付かっているが)後でもめる要素もない。
「ここで放り出すのも……」などとそれらしいことを言って、リオントはシェフレラの依頼を受けた。
☆☆☆
シェフレラはディーシャの街へ向け、伝達の鳥を飛ばした。ラメルボの店を襲った盗賊のガロップ及びその手下が、ノーダイルの森にいることを知らせたのだ。
魔物が多くいるので、きっと魔法使い数人を伴って役人達がここへ来るだろう。後はそれぞれの管轄が動いてくれるはずだ。
知らせる魔法が終わると、シェフレラとリオントはジラーグの森へ向かうべく、その場を離れる。
ガロップ達から少し離れた所まで来ると、リオントは魔獣の馬を再び呼び出した。
「あれ、いやがるんじゃなかったの?」
魔除け効果で嫌がるから、と途中で別れたはずなのに。たてがみを赤く燃やす馬は、さっきと同じようにすぐ現れてくれた。
シェフレラはてっきり、森を出てから呼び出すんだと思っていたのだ。
「これからは、離れる一方だからな。それに、急いだ方がいいだろ?」
それについては、シェフレラも大賛成だ。
クロスカスのそばへ向かうのは抵抗があるものの、いやなことはさっさと終わらせてしまうに限る。
街からこの森へ来た時のように、森の中を一気に駆け抜けることはさすがに無理がある。
それでも、かなりの速度で魔獣はふたりを乗せて走った。普通の馬なら、こうはいかない。
「リオントって、クールな感じに見えるけど、頼まれたら断れないタイプ?」
「は? シェフレラが死にそうな顔をして、頼み込んで来るからだろ」
「死にそうなって……そこまで悲壮な顔はしてないと思うけど。でも、お母さんの捜し物だって、頼まれたからリオントはこうして捜し回っているんでしょ」
「それくらいの時間はあるからな」
リオントの後ろで彼にしがみつくように乗っているため、どんな表情をしているのかシェフレラには見えない。案外、照れていたりするのだろうか。
「ふふ、そっか。……でも、ありがとう」
「ん?」
「リオントが一緒に来てくれて、本当に助かってるの。魔法使いの友達や先輩に相談して、自分で何とかするべきなんだろうけど、すごく焦っちゃって……。目の前に起きたことを、とにかく自分の中で処理するだけで精一杯。ほとんど考えなしで、今までずっと動いてたから」
「そうだろうな」
「もう。リオントって、時々さらっときついこと言うわね」
でも、事実だから。そう言われても、仕方がない。
一旦立ち止まって考えれば、何か別の方法もあったはずなのに、そのまま突っ走って来た。
それでも、自分がその時にできることはしてきたつもりだ。反省はしても、後悔はしていない。
少なくとも、シェフレラが「ペンダントを買い戻す」と言ったことで、ターミスはその場ですぐ殺されずに済んだ。
盗賊の逃げた方向がわかってリオントと追うことになった時も、誰かに相談する時間があったとは思えない。
早くしなければ、さらに遠くへ逃げられる、もしくは売られてしまう可能性があったから、行動を起こす必要があった。
リオントの存在も大きいが、動いたからこそ何とかなっている部分もある……ように思う。いいように考えすぎだろうか。
急に目の前が明るくなった。ノーダイルの森を出たようだ。とりあえず、魔物に襲われる恐怖からは一旦解放された。
もっとも、魔獣の足が速すぎて、魔物がいても手を出せなかっただろう。
「飛ばすぞ」
「う、うん」
シェフレラが返事するかしないかのうちに、来る時よりもさらにすごい勢いで景色が流れ出した。
こんなに速いのにやはり振動はあまりなく、風もそんなに強くない。
だが、慣れない速度でシェフレラは目が回りそうだ。ひたすらリオントにしがみつく。
魔獣を呼び出せるようになったら、この速さも当たり前になるのかしら。……慣れるまで時間がかかりそう。それとも、自分が手綱を握れば、平気なのかしら。
ふと気配が変わった気がして、シェフレラはまた知らないうちに閉じていた目をゆっくりと開いた。
再び、森の中に来ている。リオントが方向を間違ったりしていなければ、ここはジラーグの森のはずだ。
地図を頭に思い浮かべれば、ノーダイルの森からジラーグの森までは直線距離にしても馬で半日以上はかかる距離。恐らく、ディーシャの街とガルビートの村の間にあるカーミンの森は、通っていない。
なのに、カップ一杯のお茶を飲み干すよりも速い時間で着いてしまった。
魔獣というのは、どれだけすごいのだろう。そして、それを操るリオントは。
「その魔法使いがどの辺りにいるってことは、知ってるのか?」
「え? ……ううん、森の名前を言ってただけ」
リオントに尋ねられ、シェフレラは言葉に詰まった。





