12.ペンダント発見
ガロップの持つ剣に、枝葉の間からわずかに差し込んだ光が当たって不気味に光る。
剣の切れ味がどうでも、この男に当てられるだけで十分ダメージになるだろう。
「とりあえず、コソ泥集団一組だけでも締め上げておくか」
えっ、ちょっとリオント!
こんな状況にも関わらず、リオントのそんな言葉にシェフレラは青くなる。ガロップの方は、怒りで顔が赤くなった。
絶対不利な状況でこんな強気発言をする相手に、心底腹を立てたようだ。怖がるそぶりをするなら、まだかわいげもあるのに。
「このガキ……寝言は寝てる時だけにしやがれっ」
ガロップが剣を振り上げて、リオントを襲う。手下は奴隷として売るつもりだったようだが、おかしらはそんな気持ちも消えたらしい。
もしくは、抵抗できないように痛めつけるつもりか。
身体が大きい割りに、動きは俊敏だ。
「ぐわっ」
野太い悲鳴が響く。リオントが腕を軽く一振りしただけで、ガロップの大きな身体が吹っ飛ばされたのだ。
近くの木に当たったのでそんなに遠くまでではないが、木がなければどこまで飛んだだろう。木が大きく揺れて、葉が何十枚も落ちてきた。
手下はもちろん、シェフレラも驚いて目を見開く。リオントが何をしたのか、わからない。
今の……魔法? あ、昨日、あたしを襲って来た魔物が飛ばされたのも、たぶん今の力だったんだわ。風のかたまりか、無属性の衝撃波みたいなものかしら。さっきの手下を倒したのも、この力?
倒れたガロップを見ても焦げたり斬られたりしていないようなので、言ってみれば見えない拳で殴られたようなものだろう。
ただ、シェフレラにも何の魔法かよくわからない。
「お、おかしら! このガキ、よくもっ」
一瞬、何が起きたか理解できなかった手下の盗賊達は、とにかくリオントによって自分達のリーダーが飛ばされたらしい、とようやくわかった。
魔除けがあるのだから、魔法は大して効果がないはずだ。それなら、何か別の手段で攻撃したのだろう。だが、二人同時にかかれば、同じようにはならない。
そう信じた盗賊達は、同時にリオントへ襲いかかった。しかし、同じように飛ばされて、地面を転がる。
あっという間に、盗賊達は全員が丸腰の青年に叩きのめされてしまったのだ。
「て、てめぇ……」
ガロップが、リオントを睨み付ける。どうやら、気絶するまでには至らなかったらしい。頑丈な男だ。
「勝ってみろと言ったから、勝ったぞ。始める前に、ちゃんと教えてやっただろう。今まで効果があっても完璧じゃない、と。お前達の持つものが、必ずしも最高じゃないんだ」
「こ、の……」
「だいたい、全員が魔除けを持っているなら、先に二人が倒された時に何か気付くべきじゃないか?」
「くそっ」
さすがてっぺんを張っていると言うべきか、手下が伸びているのにガロップは何とか身体を動かそうとする。
「そういう頑丈さを、もっと別のところで活かせたらよかったのに。残念だ」
しゅるしゅるという音がしてガロップが周りを見回すと、木のツルが伸びて来ている。
その存在に気付いた時には、拘束されていた。何だこれは、と思った次の瞬間には、手足がしっかり縛られていたのだ。もがいても切れそうにない。
手元にロープなどがなくても、これで十分だ。
え……何、この展開。さっきまで怖がってたのがうそみたい。こんな簡単にあしらえるなら、計画を立てるなんて必要ないじゃないの。だから立てなかった、とか?
「ずいぶん集めたもんだ」
テントの中を見て、リオントがつぶやく。
拘束されてもいないのに動けず、呆然と縛り上げられた盗賊達を見ていたシェフレラは、その声ではっとした。
「そ、そうよ。ペンダント!」
シェフレラは、急いでテントへ入る。
中には、人間の赤ん坊なら入れられそうな麻の袋がいくつもあった。まだ口が閉じているものもあれば、中身が出されているものなどがある。
ラメルボの店で商品を奪い、それらをある程度整理して売りさばく段取りをしていたところだったのだろう。
「赤……赤のペンダント……」
中身が広げられているものの中には、捜しているペンダントは見付からない。
「この辺りじゃないか」
積まれた麻袋の中から一つを取り出し、リオントは中を広げる。金貨や腕輪、指輪、ペンダントなど、色々出て来た。
これらは全て、ラメルボの店の商品だろうか。大して大きくない店だったのに、商品の数はかなり多い。よその分もありそうだ。
シェフレラはその中から、赤を目印に探っていく。
指輪やブローチなど、違う形の装飾品はあるのだが、ペンダントはなかなか見付からない。
「あ、赤い石のペンダント!」
いくつ目かの袋を探っていると、それらしいペンダントが出てきた。
濃く、鮮やかな赤い石。しずく形をした透明感のある赤い石には、金色のチェーンが付いている。
「……それか?」
「たぶん。あたしも実際に見たことがないから、何とも言えないけど。クロスカスはしずく形をした紅玉って言ってたから、これでほぼ間違いないと思うわ」
思っていたより、きれいな石だ。
ラメルボは、どれくらいの価格をこのペンダントに付けていたのか。高そうに見えるが、ターミスから買い取った時はきっと安い値段を提示したに違いない。
シェフレラの偏見だが、たぶん間違ってはいないはず。
「これでジラーグの森へ行けば、ターミスは解放されるわ」
街へ戻り、ラメルボと価格交渉をしている時間なんて、今はない。それはターミスを取り返してからだ。
端から見れば盗品の横領みたいな気もしたが、人命が最優先。自分の懐に入れるつもりはないのだし、事情を話せば役人も許してくれるだろう。
「あ、そうだ。リオントのお母さんのものはあった?」
ふとリオントの方を見ると、広げられた金貨や装飾品を前に考え込んでいる様子だ。
「リオント?」
「ん? ああ……。予想はしていたが、ちょっとややこしいことになっているようだ。シェフレラは急ぐんだろう?」
「うん、そうだけど。えっと……」
急ぐのは急ぐ。が、このままでは行けない。
「あの、リオント。あなたも大変かも知れないけど、その……一緒に来てもらえない?」
「一緒に?」
「だって、あたし一人じゃ、この森を無事に出ることさえも難しいもん。それに、ジラーグの森も魔物は多いし」
シェフレラの実力では、今来た道を一人で戻る、なんてことはまず不可能。
ガロップ達がどんな魔除けを持っているか知らないが、それを拝借すれば森を出ることはできる。ジラーグの森でも、それが効果を発揮してくれるだろう。
その問題はクリアできるとしても。ここノーダイルの森からクロスカスのいるジラーグの森までは、かなり距離がある。
ディーシャの街を通り過ぎ、ガルビートの村からさらに南へ行かなくてはならないのだ。盗賊の馬を使うのも手だが、それでもどう急いだって半日以上はかかってしまう。
リオントがさっき呼び出した、魔獣の馬の方が絶対に速い。少しでも時間短縮をしたいシェフレラには呼べない魔獣も、リオントがいれば乗せてくれる。
……いや、魔物や距離も、ほとんど言い訳。
本当の理由は、クロスカスだ。
魔物も移動も、盗賊のものを借りればどうにでもなるが、あの魔法使いを相手にするのはシェフレラ自身。
まず間違いないであろうこのペンダントがあれば、ターミスを拘束する必要はないから返してくれるだろう。
だが、一度風に飛ばされたシェフレラとしては、あの冷たい目をした魔法使いと一人で対峙することが怖い。
ガルビートの村にいた時は必死だったし、助けにはならなくても見知った村人達が周囲にいた。
でも、今度は完全に一人だ。しかも、誰の助けも得られない森の中。
怖いなんて言っていたら本当の一人前にはなれない、とわかっていても、怖いものは怖い。
「あたしの方が解決すれば、今度はあなたの捜し物を追う手伝いをするわ。だからお願いっ」
「……」
リオントは、頭を下げて頼み込むシェフレラをしばらく見ていた。
「わかった。ここで放り出すのも、気が引けるからな」
その言葉に、シェフレラの顔が輝いた。





