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To be continued  作者: 綾瀬大和
国際線編
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36/50

第36話風は再び吹く

第36話「風は再び吹く」


2021年4月中旬――

東京・桜新町の朝は、春の光とともに静かに始まった。


桐谷隼人は久々に着るJALの制服に腕を通していた。

事故からちょうど2週間、医療・心理両面の診断と社内の復帰判定を経て、ようやくこの日がやってきたのだ。


鏡に映る自分の姿は、どこか別人のようにも見えた。

あの事故を経験する前の“自信に満ちた表情”は影をひそめ、代わりに浮かんでいたのは――


「覚悟だな」


桐谷はネクタイを締めながら、小さくつぶやいた。


【羽田空港 第1ターミナル JALブリーフィングルーム】


「キャプテン桐谷、本日より復帰とのことで。よろしくお願いします」


「副操縦士の田嶋です。久しぶりにご一緒できて光栄です!」


若手の副操縦士と整備士たちが、桐谷の顔を見て安心したように笑う。


「ありがとう。今日はホノルル便だね。767時代によく飛んだ航路だけど…A350で行くのは初めてか」


「はい、A350-900での初ホノルル便です。乗客数は227名、貨物もフルです」


「了解、天候は?」


「ホノルルは快晴、到着予定時刻は現地時間の朝9時。ジェット気流はやや強めですが、巡航高度での乱気流は軽度の予報です」


桐谷は大きく頷き、マニュアルに目を落とす。


どんなに体が覚えていても、どんなに経験を積んでいても、一便ごとの命の重みは変わらない。


だから、心はいつでも“初フライト”でなければならない。


【羽田空港 第A滑走路】


「JAL878便、ホノルル行き、離陸許可」


「離陸許可、JAL878、ありがとうございます」


桐谷は穏やかに答え、操縦桿に手を添える。


「スラストセット」


「エアスピード・ライブ」


「V1……ローテート」


A350は滑らかに機首を上げ、春の東京湾を一望に見下ろしながら空へ舞い上がった。


その瞬間、胸の奥に何かが熱くこみ上げてきた。


あの事故以来、初めての本格的な“操縦”。

頭では何度もシミュレーションしてきたが、やはり本物の“空”は、違う。


「やっぱり……この感覚だ」


桐谷は、目を細めて微笑んだ。


【洋上巡航中】


「キャプテン、どうです? 久々のホノルル航路」


「風が懐かしいな。あの頃と変わらない」


副操縦士・田嶋の問いに、桐谷は静かに答えた。


コックピットには、ジェットエンジンの唸る音と、風が切り裂くわずかな気圧の揺れが響いている。


そのすべてが、桐谷には“生きている証”のように感じられた。


【ホノルル国際空港 着陸後】


「フライトお疲れさまでした、キャプテン!」


機内アナウンス後、乗客が一人また一人と降機していく。


その時――。


「キャプテン桐谷!」


聞き覚えのある声が、タラップの先から響いた。


そこには、柳瀬悠人の姿があった。

JALホノルル整備センターに一時出向していた彼が、作業着姿で立っていたのだ。


「え、お前……なんで」


「聞いたぞ、お前がこの便担当って。サプライズだよ」


「……まったく、バカかお前は」


「お前の復帰、ちゃんと迎えたかったんだよ。お前の“飛び”は、まだまだ必要なんだから」


整備センターのスタッフも拍手し始め、知らないCAや地上職員たちまでもが笑顔で集まってきた。


「おかえり、キャプテン桐谷」


そう言われた瞬間――


桐谷の目に、自然と涙が溢れていた。


「ありがとう……本当に」


その夜。

ホノルルのホテルで、窓越しに夜の海を見つめながら、桐谷はある手紙を書きはじめた。


それは――事故で亡くなったプライベート機のパイロットの家族宛てだった。


「あなたの大切な方の命を、私は奪ってしまいました。

でも、あの時、あの空で、私たちは互いに戦っていたのです。

私は、彼の分まで、この空を飛び続けます――」

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