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To be continued  作者: 綾瀬大和
国際線編
33/50

第33話空が結ぶ希望

第33話「空が結ぶ希望」


2021年3月14日、午前8時。

羽田空港の第1オフィスビル、乗員待機室。


JAL国際運航部の部屋に、緊迫した空気が流れていた。

ミャンマー中部で、マグニチュード7.9の巨大地震が発生。主要都市であるマンダレーでは建物の倒壊、空港の滑走路破損、通信の途絶、さらに多くの日本人ビジネスマンや邦人が孤立しているとの速報が入った。


桐谷隼人の携帯が鳴る。


「……はい、桐谷です」


「今回、緊急人道支援便を飛ばします。運航機材はB787-9、目的地はヤンゴン。キャプテン、お願いします」


声の主は、国際線の運航管理者だった。

桐谷は即答した。


「了解しました。乗ります」


**


数時間後、羽田のスポット。

白と赤のツートンに染まったB787-9が、緊急出動の準備を進めていた。

貨物室には、支援物資の詰まったパレットが次々と積まれ、座席にはJICA、国際赤十字、外務省スタッフ、報道陣、そして医療関係者たちの姿があった。


副操縦士席には、以前から共に飛んでいた城之内が座る。


「……国際線の意味って、こういうときに真価を問われるのかもしれませんね」


「そうだな。空は繋がってる。だから俺たちは飛ぶんだ」


**


【JAL Emergency Flight 801 – Tokyo Haneda → Yangon】


離陸は午後2時。

管制から優先離陸の許可を得た機体は、南へ向けて静かに滑走を始めた。


「スラスト・セット……V1、ローテート」


震えるような責任とともに、空へ。

機体はミャンマーの空を目指して、太平洋上を南西へ進んでいった。


**


機内は静かだった。

医療スタッフは酸素マスクのチェックを繰り返し、報道陣は沈痛な面持ちで筆を進める。


桐谷は、静かに窓の外を見つめていた。


(この空の向こうで、どれだけの人が助けを待ってるだろう)


「キャプテン、目的地空域に到達。現地気象は晴天、ただし滑走路は一部ひび割れの報告」


「了解。アプローチ開始」


**


ヤンゴン国際空港。


夕方、地平線の向こうにうっすらと煙の立ち上る都市が見え始めた。

数日前まであったはずの高層ビルが、影も形もない。


「アプローチング・ミニマム……滑走路確認」


「ランディング」


**


タッチダウンと同時に、空港内にいたスタッフたちが機体に向かって駆け寄った。

荷物ドアが開き、支援物資とスタッフが次々と降機していく。


地面にひざまずいて泣き出す現地の子どもたち。

それを抱きしめる赤十字の看護師。

その光景を見て、桐谷は唇を噛み締めた。


「……俺たちが飛んできた意味が、ここにあるんだな」


**


その夜、現地の臨時滞在施設。

桐谷はノートを開いて、ある言葉を記していた。


「空は、人と人を結ぶだけじゃない。

希望と、未来と、生きる力を運んでいる。」

ふと、その文字を見つめていた医師が、ぽつりとつぶやいた。


「あなたが今日ここに来たことで、少なくとも300人以上が生き延びましたよ。ありがとう」


**


翌朝、引き返す便のコックピット。

桐谷は静かにエンジンを始動させた。


「フライトプラン確認。帰りの空も、全力で飛ぶ」


「Yes, Captain」


**


そして再び、日本の空へ。


B787の翼には、遠くミャンマーの人々の想いと、未来への希望が乗っていた。

ヤンゴン国際空港。

復路のフライト準備が静かに進められていた。積載されるのは、現地で救助された日本人13名、そして国際支援スタッフ数十名。彼らを日本へ安全に送り届ける、それが桐谷たちの任務だった。


ブリーフィングルーム。

副操縦士・城之内が現地のMETARを読み上げる。


「現地時間18時45分、滑走路の補修が一部完了。ただしタキシング中の突き上げに注意。羽田方面の気象は、夜間やや風が強いものの良好。成田・中部ともに代替空港として問題なし」


桐谷はうなずき、ホワイトボードのルート図を見ながらつぶやいた。


「……よし、夜の大気は安定している。無理せず、確実に帰ろう」


「帰る場所があるって、当たり前じゃないですもんね」


城之内の言葉に、桐谷は微笑んだ。


「その通り。俺たちの役目は“無事に帰す”こと。それに尽きる」


**


【JAL Emergency Flight 802 – Yangon → Tokyo Haneda】

21時10分。

B787-9は長い誘導路を進み、破損の補修された滑走路に進入した。

外は夜。機体は静かにその巨体を前へ滑らせる。


「スラスト・セット……V1、ローテート……ポジティブ・クライム、ギアアップ」


静かな夜のヤンゴンを離れ、日本への空路が始まった。


**


巡航中。

機内では落ち着いた雰囲気が流れていた。客席では、疲れた表情ながら安堵に包まれた人々が座っていた。


そのうちのひとり、50代の建設会社社員が桐谷に話しかけてきた。


「キャプテン、俺たちを助けてくれて……ありがとう。本当に」


「こちらこそ、無事で何よりです。日本まで、あと少しです」


男の目が潤んだ。


「……地震のとき、もうダメだと思ってた。でも、空港で“JALが来てくれる”って聞いて……信じようって思ったんです。日本の空が迎えに来るって」


桐谷は、しばし言葉を探し、真っ直ぐに応えた。


「日本の空は、いつでも誰かの“帰り道”でありたい。僕たちはそれを守りたいんです」


**


【到着 – 羽田空港】

翌朝6時12分。

滑走路34Lへアプローチ。


「アプローチング・ミニマム……滑走路確認」


「ランディング」


機体はしっとりと東京の滑走路を捉えた。

その瞬間、コックピット内に広がる達成感と静寂。

“飛びきった”という確信。


機内で、自然と拍手が起きた。


**


JAL羽田オペレーションセンター。

着陸から30分後。全員の下機を確認し、桐谷はようやく座席に腰を落とした。

窓の外では、朝焼けが滑走路を赤く染めていた。


そこに、見慣れた姿がやってきた。


「お疲れさま。桐谷」


佐久間キャプテンだった。


「よくやったな。あんな現地入りは簡単なもんじゃない。命を背負って、飛び続ける。……お前は、もう立派な国際線の“顔”だ」


その言葉に、桐谷はかすかに目を伏せた。

数年前、訓練初日のフライトで自信を失ったあの日のことが思い出された。


「……今の自分なら、空に顔向けできます。

怖くても、飛ぶ理由があるから」


「うん。これからも、その理由を忘れるな」


**


帰路の社員バスの中。

小机アンナからメッセージが届いていた。


「おかえり。すごい任務だったね。今日、お疲れさま会しよう? 家であったかいスープ作るね」

画面を見て、桐谷は笑った。


空の向こうで誰かを救い、

空の下で誰かが待っている――。


これが、彼が選んだ「空を生きる」という道だった。


ヤンゴン国際空港。

復路のフライト準備が静かに進められていた。積載されるのは、現地で救助された日本人13名、そして国際支援スタッフ数十名。彼らを日本へ安全に送り届ける、それが桐谷たちの任務だった。


ブリーフィングルーム。

副操縦士・城之内が現地のMETARを読み上げる。


「現地時間18時45分、滑走路の補修が一部完了。ただしタキシング中の突き上げに注意。羽田方面の気象は、夜間やや風が強いものの良好。成田・中部ともに代替空港として問題なし」


桐谷はうなずき、ホワイトボードのルート図を見ながらつぶやいた。


「……よし、夜の大気は安定している。無理せず、確実に帰ろう」


「帰る場所があるって、当たり前じゃないですもんね」


城之内の言葉に、桐谷は微笑んだ。


「その通り。俺たちの役目は“無事に帰す”こと。それに尽きる」


**


【JAL Emergency Flight 802 – Yangon → Tokyo Haneda】

21時10分。

B787-9は長い誘導路を進み、破損の補修された滑走路に進入した。

外は夜。機体は静かにその巨体を前へ滑らせる。


「スラスト・セット……V1、ローテート……ポジティブ・クライム、ギアアップ」


静かな夜のヤンゴンを離れ、日本への空路が始まった。


**


巡航中。

機内では落ち着いた雰囲気が流れていた。客席では、疲れた表情ながら安堵に包まれた人々が座っていた。


そのうちのひとり、50代の建設会社社員が桐谷に話しかけてきた。


「キャプテン、俺たちを助けてくれて……ありがとう。本当に」


「こちらこそ、無事で何よりです。日本まで、あと少しです」


男の目が潤んだ。


「……地震のとき、もうダメだと思ってた。でも、空港で“JALが来てくれる”って聞いて……信じようって思ったんです。日本の空が迎えに来るって」


桐谷は、しばし言葉を探し、真っ直ぐに応えた。


「日本の空は、いつでも誰かの“帰り道”でありたい。僕たちはそれを守りたいんです」


**


【到着 – 羽田空港】

翌朝6時12分。

滑走路34Lへアプローチ。


「アプローチング・ミニマム……滑走路確認」


「ランディング」


機体はしっとりと東京の滑走路を捉えた。

その瞬間、コックピット内に広がる達成感と静寂。

“飛びきった”という確信。


機内で、自然と拍手が起きた。


**


JAL羽田オペレーションセンター。

着陸から30分後。全員の下機を確認し、桐谷はようやく座席に腰を落とした。

窓の外では、朝焼けが滑走路を赤く染めていた。


そこに、見慣れた姿がやってきた。


「お疲れさま。桐谷」


佐久間キャプテンだった。


「よくやったな。あんな現地入りは簡単なもんじゃない。命を背負って、飛び続ける。……お前は、もう立派な国際線の“顔”だ」


その言葉に、桐谷はかすかに目を伏せた。

数年前、訓練初日のフライトで自信を失ったあの日のことが思い出された。


「……今の自分なら、空に顔向けできます。

怖くても、飛ぶ理由があるから」


「うん。これからも、その理由を忘れるな」


**


帰路の社員バスの中。

小机アンナからメッセージが届いていた。


「おかえり。すごい任務だったね。今日、お疲れさま会しよう? 家であったかいスープ作るね」

画面を見て、桐谷は笑った。


空の向こうで誰かを救い、

空の下で誰かが待っている――。


これが、彼が選んだ「空を生きる」という道だった。



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