34話
入学して早二ヶ月。
本格的な授業も始まり、私は今、魔法実技の授業に参加していた。
広い訓練場には生徒たちが整列し、担当教師であり、私たちのクラスの担任でもあるエレメンス先生が前に立っている。
「今日は基礎属性魔法の発動確認を行う。威力ではなくきちんと制御できているかを見るからな」
先生の合図の後、順番に一人ずつ魔法を発動していく。
火属性で小さな火球を出す者。水で水球を作る者。風でそよ風を起こす者と様々だ。
しかし、誰も彼も教本通りの魔法ばかり。
──ふむ。これが学園の基準なのかな?
「次、レイティアラ」
名前を呼ばれ前に出ると、周囲の視線が集まるのを感じる。
──まあ、初日の自己紹介で同じクラスの人は公爵家だと知ってるし。
「属性は?」
「全属性です」
「……そうか。じゃあ、好きな属性でやってみろ」
エレメンス先生は軽く流したが、周囲はざわついていた。
私は少し考え、二番目に得意な水属性を選び、手を前に出す。
「──水よ集いて、形を成せ。ウォーターボール」
詠唱と同時に、空気中の水分が一気に収束する。
次の瞬間、空中に現れたのは、拳大ではなく歪みのない巨大な水球。表面は鏡のように滑らかだ。
「……完璧だな」
「ありがとうございます。以上です」
「……ああ」
球体を作り出した時から、背後から感じる視線は明らかに変わっていた。
◇◇◇
授業が中盤に差し掛かった時、ガイが声を掛けてきた。
「すげぇな、お前」
「そうですか?」
「あの精度普通じゃねぇだろ」
──って言われても、普通がわからないんだよね。
「慣れですよ」
「慣れで済む話じゃねぇだろ」
ガイは呆れたように笑った。
「お前は剣も相当なのに魔法もあれとか。反則だろ」
「ガイさんも十分強いじゃないですか」
「俺はナメられないようにしてきただけだ」
「努力してきたって事でしょう? それはもう才能ですよ」
「……お前、やっぱ変だわ」
「よく言われます」
「ははっ」
ガイの側は不思議と心地良かった。
少し離れた場所から、こちらを見ている数人の令嬢たちに気づく。
目が合うと慌てて顔を逸らされた。
けれど、私はしっかりと見た。令嬢たちの顔に敵意が滲み出ていたのを。
──嫌な感じだけど。気にすることでもないか。
私はそのままガイとの会話に戻った。
◇◇◇
そして授業は終盤に差し掛かった。
「よし、次は応用だ。二人一組で簡単な模擬戦を行ってもらう。実戦を想定した模擬戦だが、威力は抑えろよ」
模擬戦と聞いて、生徒たちの空気が一気に変わる。
名前を呼ばれた者から順に模擬戦を行っていく。
「次。ガイ、レイティアラ」
「え?」
思わず声が出た。
周囲が一気にざわついたが、ガイは構わず肩を竦めながら前に出てくる。
「手加減すんなよ」
「もちろんです」
──ガイの魔法は見たことがない。
「始め!」
合図と同時にガイが踏み込んだ。
「──氷よ、纏え! フロストエンチャント」
詠唱の後、剣の刃に氷が纏い、淡く白い光を放つ。
──へぇ、短縮詠唱。しかも、氷属性……!
私は後方へ跳びながら魔力を練る。
「──水よ、穿て。ウォーターバレット」
こちらも短縮詠唱で水弾を生成し、連続で放つが、ガイは剣で弾き、氷を纏った斬撃を飛ばしてくる。
距離を取った瞬間、ガイが笑う。
「余裕そうじゃねぇか」
「そんな事ないですよ」
しかし、次の瞬間、ガイが一気に距離を詰めてくると、剣が振り下ろされる。
私は魔力の流れを止める。
その隙をガイは見逃さなかった。
──隙あり、と思ったかな?
「ウォーターシールド」
魔法名だけの詠唱。その瞬間、目の前に水の盾が展開される。
「なっ!?」
ガイの振り下ろした氷の刃は、水の防壁によって止められる。しかし、氷の刃によって水の壁は少しずつ凍り始める。
私は気にすることなく、そのまま魔力を流し込む。
「ウォーターバースト」
すると、至近距離で水が弾け。ガイの体が後方へ吹き飛んだ。
「ぐっ……!」
吹き飛びながらも、ガイは体勢を立て直す……しかし体勢を立て直した時、すでに勝負は決していた。
「まだ、やりますか?」
「……参った」
ガイは潔かった。
周囲がざわめき、エレメンス先生ですら目を見開いていた。
「今のは……短縮……いや略式詠唱か……?」
私は首を傾げる。
──短縮だの、略式だのなんで呼び方変えるかね。
「発動速度、制御、威力。どれも学生の水準を大きく超えている。正直、模範と言っていい」
エレメンス先生の評価に、周囲の空気が揺れる。
称賛と驚愕が混ざる中で別の感情も確かに生まれていた。
背後から突き刺さる視線。振り返らなくてもわかる。さっきの令嬢たちだ。
はっきりとした敵意。
「……またあの方、ガイ様と随分親しそうに」
「ええ……当然のように隣にいらっしゃる」
視線を向ければ、令嬢たちはすぐに口を閉ざし、優雅な笑みを作る。
けれど私は気にしないことにした。
それが、この先の騒動に繋がるとは、この時はまだ知らなかった。




