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29話




 森に入ってすぐに島全体に魔力を広げ状況を確認する。


「島の中心に高濃度の魔力反応がありますが危険な感じはしないので、とりあえず置いておきましょう。兄様、少し進んだ所に契約獣の反応があります」


「高濃度の魔力反応ってのが気になるが、今はどうしようもねぇか。進むぞ」


「はい」


 奥に進むにつれて空気が少しずつ変わるのがわかる。私の肩に乗っているイーリスも警戒し始めている。しかも、どういう訳か足元がかなりぬかるんでいる。


『レイラ!』


 イーリスからの念話で警戒を強めると、すぐ近くにモンスターの気配がする。


 ──これは……。


「兄様、足元!」


 その瞬間、地面から木の根の様なものが飛び出してきて兄様の足に巻き付いた。


「チッ!」


 兄様はすかさず剣を抜き、足に巻き付いた木の根を断ち切った。周囲を再び警戒すると、見つけた。一体だけ周りの木とは違う気配を。


「いた」


 私は水魔法を正面の左から三番目の木に放った。すると、木の枝が魔法を弾いた。


「トレントか」


「足止め担当でしょう。兄様、足元だけではなく空中も気をつけてください。私が制圧しますので、注意を引いてください」


「おう」


 兄様がトレントに向かって駆けて行く。すぐさま無数の木の枝が襲いかかる。しかし、兄様相手にはあまり意味をなさない。なんと言っても剣術実技一位だから!


 兄様が作ってくれた道を一気に駆け、トレントに近づく。もちろん、簡単には近づかせてくれない。無数の木の枝が今度は私に襲いかかる。


「シロハナ」


 名前を呼ばれたシロハナは私の前に飛び出し一気に巨大化し、無数の枝を受け止めた。その隙に接近しトレントに触れ、それと同時に魔力を流し込むとトレントの動きが止まる。


「少しの間、おやすみなさい」


「何したんだ?」


「大量の魔力を流し込み、活動を停止させました。お互い怪我もないようですし、他はまだトレントで足止めされてる様です」


 森からは、本来なら聞こえてこない音が聞こえてくる。あちこちから悲鳴や戦闘音が響いている。トレントが上手い具合に他の参加者を足止めしている様だ。


「さて、進みましょう」


 そう呟き再び森の奥へ向かって歩き出す。



◇◇◇



「おかしいですね。何も聞こえないし霧がだんだん濃くなっています。兄様、視界に頼り過ぎると危険です」


「だな。でもどうする?」


「ここは、サクッといっちゃいましょう」


 目を閉じ気配に集中する。島のモンスターじゃない、さっきのトレントでもない、けれど遠くに居る契約獣でもない、そんな気配……。


「見つけた。ウィンド」


 私は見つけた気配を中心にして風魔法で霧を払う。霧が晴れるとそこには半透明で神秘的な存在がいた。淡い光を纏い、こちらをじっと見つめている。


「あれは……鹿?」


「珍しいモンスターですよ。幻鹿(ミストディア)です。私も初めて遭いましたよ」



◇◇◇



 島の入口。そこでは水晶から投影された映像を見て驚きを隠せない教師と学園に雇われたテイマーが居た。


「幻鹿の本体を見つけるとは……」


「ちょっと待て、それは流石に──」


「「「は? 触れた……?」」」



◇◇◇



 テイマーたちの驚きはティアには届かない。目の前の幻鹿から敵意は感じない。そっと近づき手を伸ばす。


「戦う必要はない……よね?」


 幻鹿は伸ばした手を拒むことなく受け入れた。水のように冷たいかと思えばそうではなく、とても心地よい温かさ。そして、私に近づき一度だけ擦り寄り去って行った。



◇◇◇



「あれは、幻鹿が心を許した者にする行動だ。つまり懐いている」


「ありえないだろうが」


 テイマーたちの悔しそうな、羨ましそうな呟きは静かに消えていく──。



◇◇◇



 幻鹿が去り、霧が晴れた森を進んでいくと小さな湖があった。しかし、ひどく不自然だ。


「変だな。モンスターの気配がほとんど──」


 兄様が言葉を続けようとした時、ゴポっと大きな音がして現れたのは、岩山を背負っている様な甲羅を持つ巨大な亀だった。


「でかっ」


「素晴らしい甲羅ですね。流石は玄甲亀(げんこうき)。兄様ここは無理をするところではありませんね」


「戦えって言われても無理だろ……」


 玄甲亀は動かない。なのに動けない、普通なら。


「通してもらいましょう」


 そう言って私は玄甲亀に近づき視線を合わせる。すると、私の瞳に金の粒が輝く──月の威圧。クレセンティアに伝わり、特別な瞳を持つ者だけが使える技。殺すためではない、敵対でもない。けれど圧倒的な格をわからせるもの。


 玄甲亀は一瞬の動揺を見せたが、すぐさま落ち着きを取り戻し見つめ返してくる。そして、しばしの時を経て玄甲亀は湖へと戻っていった。


 ティアたちが去った後、水面から顔を出した玄甲亀はティアの後ろ姿を見つめていた。


 ──あれは、懐かしき月の光。小さい、しかし強く温かい。かつて、夜を照らしていた輝きにそっくりだ。世界を動かせるほど大きくなるだろう。



◇◇◇



「古代種が、退いた? あの令嬢は何をした」


「威圧……でしょうね」


「あれが、威圧、だと?」


「まったく、とんでもない生徒を受け持ったもんだ」


 ティアの担任であるエレメンスは、呆れたように、しかし、少し楽しそうに呟いた。


「彼女は普通の枠に収まらない。けれど、ただの天才の枠にも収まらない。世界という枠でも収まるか……。もしかしたら、神さえも動かしてしまう存在かもしれませんね」





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