11話 白薔薇姫への贈り物 〈マクシミリアンside〉
正午を過ぎた大通りは、いつもの賑わいを見せていた。美しい石畳の街並みには、あらゆる店が軒を連ねている。
(ええと、焼き菓子は……)
マクシミリアンの目に止まったのは、カフェを併設した可愛らしい菓子店だった。テラス席に座る令嬢たちが、マクシミリアンの姿に気付いてざわつき始めている。
(ここの焼き菓子は、令嬢たちに人気のようだ……オルテンシア嬢の口に合うかもしれない)
色めき立つ令嬢たちに視線を向けると、マクシミリアンはショーケースの前に立った。
「いらっしゃいませ。何にいたしましょう」
「焼き菓子をください。ええと――全部、ひとつずつください」
「えっ? あ……はい! すぐにお包みいたします」
一瞬ポカンとした店員たちは、慌てて焼き菓子を詰め始めた。
花型のジャムクッキーにチーズタルトにマドレーヌ――店員たちが数人がかりで焼き菓子を箱に詰めていく様子を、マクシミリアンはそわそわしながら眺めた。
(これで良し……次は、花束を忘れずに――)
「ありがとうございました!」
二年前にも訪れた生花店で白薔薇の花束を買うと、マクシミリアンは大通りを歩いた。リボンは、散々迷った挙げ句、翡翠色を選んだ。オルテンシアの瞳の色だ。
白薔薇の花束を抱いて大通りを進む彼の姿に、令嬢たちは皆振り返った。
あの花束は、いったい誰が受け取るのだろう――と。
「ベッツィ、こっちだよ」
「もう、歩くのが速いわ!」
「ごめんごめん」
マクシミリアンは、手を繋いで歩き始めた恋人たちとすれ違った。
(ベッツィ……愛称だろうか――)
『マクス様、こっちですわ』
ふと、オルテンシアに袖を引かれる想像をしてしまい、顔を赤くしたマクシミリアンは首を振った。
「早く、ウサギを探さなくては……」
辺りをキョロキョロと見回しながら、彼は大通りを歩き続ける。
(ウサギ……ウサギ…………見つけた!!)
マクシミリアンが立ち止まったのは、人形店の前だった。ショーウィンドウの中には、可愛らしい人形やぬいぐるみが幾つも飾られている。
「またのご来店をお待ちしております!」
(これで完璧だ。良いものが見つかって良かった)
マクシミリアンは、上機嫌に店を出た。
白薔薇の花束に、ピンク色のリボンが結ばれた焼き菓子の箱。――そして、大きなウサギのぬいぐるみを抱いて彼は庁舎へと戻った。
道中、自分がどれだけ注目を集めているのか、彼が気付くことはなかった。
「遅くなってすまない」
「「…………お疲れ様です!」」
(おい、嘘だろ……)
(あれを『白薔薇姫』に贈るつもりなのか!?)
マクシミリアンは大きなウサギのぬいぐるみを自身の椅子にそっと座らせて満足気に笑むと、空いた椅子を持ってきて執務に励んだ。
部下の騎士たちは、マクシミリアンの傍らに座る白ウサギを横目で見た。
肘掛け付きの立派な椅子に脱力したように座る大きな白ウサギ。傍らの上官の瞳とよく似た色のつぶらな目が、午後の光を弾いて鈍く煌めいている。
(クソッ……俺のことを見てやがるぜ……)
(あー! ウサギが気になって集中できねえ!)
「すみません、師団長……そのウサギ……その――師団長の方に、向けてもらって良いですか?」
「ああ」
マクシミリアンは、白ウサギを自分の方に向けると執務を再開した。
だが、師団長用の椅子を占領する巨大な白ウサギに、執務室を訪れる騎士たちは皆釘付けになった。
「あの、デカいウサギ――」
「しっ!!」
「どうした? 何かあったか?」
「何でもありません!!」
そうして、無事に夕刻になった――
「それでは、私は先に失礼させてもらう」
「「お疲れ様でした!!」」
((やっとウサギがいなくなった!!))
(オルテンシア嬢は、どんな顔をするだろうか……)
微笑みながら執務室を出たマクシミリアン。
大きな白ウサギを抱いて歩く彼を、騎士たちは皆ぎょっとした顔で見つめた。
『鉄壁のマクシミリアン』改め『白ウサギ団長』――密かにそう呼ばれるようになったことを、彼は知らない。
◇
夕日に照らされた王城。
日がな一日、魔石入れを縫って過ごしていたオルテンシアの元をマクシミリアンが訪れた。
「マクシミリアン様?」
扉を開けてすぐにオルテンシアの目に飛び込んできたのは、大きな白いウサギだった。
「オルテンシア嬢に……その……贈り物です」
「わたくしのために、買ってきてくださったのですか?」
はにかんで頷いたマクシミリアンに、オルテンシアは嬉しそうに笑った。
(マクシミリアン様、どんなお顔でこれを買われたのかしら……)
「青いお目々がとっても可愛いですわ……ありがとうございます」
(可愛いのは、オルテンシア嬢の方だ……喜んでもらえて良かった……)
ふわふわの白い毛並みを愛しげに抱き締めたオルテンシアに、マクシミリアンは表情を緩めた。
「白薔薇と、焼き菓子もあります。……それと、これも……」
マクシミリアンは淡く頬を染めて、青色の小箱をオルテンシアに差し出した。
「これは……」
「その――また、明日も来ます。オルテンシア嬢、良い夢を」
少し赤くなった顔を隠すように俯くと、マクシミリアンは背を向けた。
「マクシミリアン様……」
濃紺のマントを揺らしながら去っていくマクシミリアンを見送ると、オルテンシアは小箱をそっと開けた。
「紫陽花……?」
オルテンシアは、そっと青い宝石を手にした。
それは、彼女の名と同じ花の形をしていた。
(綺麗……マクシミリアン様の、瞳の色に似ているわ)
頬を染めたオルテンシアは翡翠色の瞳を嬉しそうに細めると、大切そうにネックレスを握り締めた。
彼女の心を、柔らかな温もりが包みこむようだった――
【あとがき裏話】
アレクシス「マクス、お帰り。ちゃんとネックレスと花束は贈ったのか」
マクシミリアン「はい。焼き菓子とウサギのぬいぐるみも贈りましたよ」(ドヤ顔)
アレクシス「ウサギのぬいぐるみ?」
マクシミリアン「このくらいのウサギです」
ルシアン(爆笑)
マクシミリアン「何故笑うんだ」




