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転生したら枝豆娘だった件 ~促成栽培と大豆加工スキルで、白米のある異世界生活を目指します~  作者: 五平


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第9話 軍隊を救った枝豆携帯食

伝令の案内で街道を外れ、森の中を半刻ほど進むと、木々の向こうに東部領軍の野営地が見えてきた。


数十張りの天幕。


柵の内側へ並べられた荷車。


中央には大きな炊事場もある。


軍の野営地としては整っている。


だが、妙に静かだった。


兵士たちは武器の手入れをしているものの、動きに力がない。


焚き火のそばへ集まる者もいるが、鍋からは湯気すら上がっていなかった。


「百二十人ほどだな」


ガルドが野営地を見渡して言った。


「私たちの荷物だけでは、全員分はありませんね」


「一食を少しずつなら、何とかなるかもしれない」


セインが荷車の木箱を確認する。


私たちは一か月分の保存食を持ってきた。


しかし、それは三人分だ。


百二十人へ配れば、一食でほとんど消える。


伝令が隊長を呼びに走っている間、私は炊事場を覗いた。


空の袋。


底が見える塩壺。


わずかに残った雑穀。


完全に食料が尽きたわけではない。


だが、配給を減らして数日を耐えたことは、兵士たちの顔を見れば分かった。


やがて、初老の将校が現れた。


肩には隊長を示す徽章が付いている。


「伝令から聞いた。携帯食を持っているそうだな」


隊長の視線が、私の頭で止まる。


「その前に聞きたい。君は人間か?」


「頭から枝豆が生えているだけの人間です」


「それを人間と呼んでよいかは、あとで考えよう」


判断を保留された。


私は荷車から堅焼き大豆パンを取り出した。


「これは大豆から作った保存食です。そのままでは硬いので、湯か汁へ浸して食べます」


続いて、乾燥味噌玉と大豆ミートを並べる。


「味噌玉は湯へ入れるだけ。大豆ミートは水で戻して煮込めます」


「肉ではないのか?」


「大豆です」


「パンも?」


「大豆です」


「汁も?」


「大豆です」


隊長はしばらく黙った。


「君たちは、大豆しか持っていないのか?」


「塩もあります」


「そういう意味ではない」


まずは試食することになった。


炊事係が大鍋へ湯を沸かし、乾燥味噌玉を入れる。


味噌が溶け、細かく刻んだ乾燥野菜が浮かび上がった。


水で戻した大豆ミートも加える。


堅焼き大豆パンは小さく割り、器へ入れてから汁を注いだ。


隊長が一口食べる。


硬かった大豆パンが汁を吸い、柔らかくなっている。


大豆ミートには味噌の塩気が染み込んでいた。


「……悪くない」


「保存食としては、かなり優秀です」


「腹にはたまるのか?」


「豆なので。ただし、空腹だからといって一気に食べさせないでください」


配給を減らされていた兵士へ、いきなり大量の食物を与えるのは危険だ。


まずは薄めの味噌汁。


大豆パンと大豆ミートは少量ずつ。


残っている雑穀も混ぜたほうがいい。


私が説明すると、隊長はすぐに炊事係を呼んだ。


「君の言うとおりに作らせよう」


「でも、私たちの食料だけでは百二十人分を何日も支えられません」


「補給隊が到着するのは、早くても二日後だ」


崩れた橋の仮修復が進んでいるらしい。


必要なのは、軍を永遠に養う食料ではない。


今日の夕食。


明日の三食。


そして、明後日の朝。


補給が再開するまでの、わずかな時間をつなぐ食料だ。


私は野営地の周囲を見た。


水はある。


炊事場もある。


薪も積まれている。


兵士という労働力もいる。


足りないのは、原料だけだった。


「畑に使える場所はありますか?」


「畑?」


隊長が眉をひそめる。


「何をするつもりだ」


「大豆を増やします」


ガルドが横から口を挟む。


「見たほうが早い。こいつに土を貸してやれ」


野営地の端に、馬をつなぐために草を刈った空き地があった。


私は土を手に取り、状態を確かめる。


表面は硬い。


踏み固められている。


しかも、この土地で大量の枝豆を一気に育てれば、土の養分を消耗する。


無計画に使うわけにはいかない。


「全員分を一度に作るのは無理です」


隊長の表情が曇った。


私は続ける。


「でも、足りない二日分を補う程度ならできます。兵士の皆さんにも働いてもらいますけど」


「何をすればいい?」


「土を掘り返してください。灰と馬糞、それから落ち葉も集めて」


隊長の号令が飛んだ。


疲れていた兵士たちが、半信半疑のまま空き地へ集まる。


鍬やシャベルで土を起こす者。


焚き火の灰を運ぶ者。


馬房から堆肥を集める者。


私は区画を小さく分け、頭からもぎ取った種豆を埋めていった。


「全部の土地を使わないのか?」


兵士の一人が尋ねる。


「土地を使い潰したら、食料を作る場所がなくなるでしょう」


《促成栽培》は万能ではない。


作物が必要とする水や養分まで、完全に無から作ることはできない。


私は土へ両手を置いた。


「《促成栽培》」


緑色の光が、細い筋となって畑へ広がる。


土が盛り上がる。


芽が出る。


茎が伸び、葉が開く。


数秒で終わったわけではない。


途中で何度も水をまき、成長が止まった区画へ堆肥を追加する。


兵士たちも、最初は驚いて見ているだけだった。


だが、私が叫ぶとすぐに動き始めた。


「そっちは水が足りません!」


「灰を入れすぎないで!」


「実が膨らんだ株から収穫してください!」


半刻ほどかけて、空き地の一角が枝豆畑へ変わった。


私の頭は重い。


脚にも力が入らない。


それでも、収穫できるだけの量は確保した。


「これを今夜の食事にします」


兵士たちが枝豆を莢ごと収穫する。


一部は塩ゆで。


一部はさらに成熟させ、柔らかく煮る。


乾燥大豆パンを新しく作る時間はない。


そこで煮豆を潰し、残っていた雑穀と混ぜて団子にした。


大豆ミートも、持参した分だけを細かく刻み、大鍋へ入れる。


全員へ大量に肉の代用品を配るのではない。


少量でも食感と旨味を加え、食事らしくするためだ。


日が傾く頃、野営地の大鍋から味噌の香りが立ち始めた。


兵士たちは列を作り、器を受け取る。


薄めの味噌汁。


雑穀入りの大豆団子。


塩ゆで枝豆を数莢。


一人分は多くない。


それでも、朝からほとんど食べていなかった兵士たちにとっては、温かい食事だった。


「……旨い」


最初の兵士が呟いた。


その言葉をきっかけに、あちこちから器をすする音が聞こえ始める。


派手な歓声はなかった。


皆、黙って食べている。


温かい汁を飲み、大豆団子を少しずつ噛み、最後に枝豆を莢から押し出す。


食事とは、こういうものなのかもしれない。


命を劇的に変えるのではない。


今日を終え、明日まで進む力を少しだけ戻す。


隊長が私の隣へ立った。


「軍を救った、と言うには質素な食事だな」


「二日をつないだだけです」


「兵站とは、そういうものだ」


隊長は食事をする兵士たちを見渡した。


「明日まで持たせる。次は補給隊が来るまで持たせる。その積み重ねで、軍は動く」


私は畑を見た。


一部の区画は、急速な成長で土の色が薄くなっている。


同じ場所でもう一度育てるのは難しい。


明日は別の区画を使い、今日の残渣を堆肥へ回す必要がある。


《促成栽培》があっても、食料は勝手に湧いてこない。


土。


水。


火。


道具。


人手。


加工。


保存。


それらがそろって、ようやく一食になる。


「君の食料を、正式に軍へ納めてもらうことはできるか?」


隊長が尋ねた。


「私たちは白米を探す途中なんです」


「ハクマイ?」


「東の湿地にあるかもしれない、白い主食です」


隊長は理解できないという顔をしたが、深く追及はしなかった。


代わりに、一通の書状を差し出す。


「東方の街へ着いたら、領軍の補給担当へこれを見せろ。通行と物資調達で便宜を図ってもらえる」


「いいんですか?」


「軍を二日救う食料には、それだけの価値がある」


私は書状を受け取った。


白米を探すために作った携帯食が、軍隊の兵站を支えた。


だが、私一人の力で軍を養ったわけではない。


種を植えた者。


水を運んだ者。


火を焚いた者。


大鍋をかき混ぜた者。


食料は、全員で作った。


翌朝。


野営地には、再び鍬を持つ兵士たちが集まっていた。


「今日は、どこに豆を植える?」


その言葉を聞き、私は少しだけ嫌な予感を覚えた。


この軍隊、大豆栽培を覚える気だ。


白米を探す旅の途中で、私はどうやら東部領軍へ、最初の軍用大豆畑を残すことになったらしい。


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