表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら枝豆娘だった件 ~促成栽培と大豆加工スキルで、白米のある異世界生活を目指します~  作者: 五平


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/24

第10話 歩く兵站庫

東部領軍の野営地を出発してから、三日が過ぎた。


私たちは再び、東へ延びる街道を歩いていた。


先頭は斥候のセイン。


中央に私と荷車。


最後尾をガルドが守っている。


白米探索隊としての隊列も、だいぶ形になってきた。


ただし、一つだけ問題がある。


「なあ、エダ」


荷車を引くガルドが、額の汗を拭いながら振り返った。


「何ですか?」


「この荷車、出発したときより重くなってないか?」


私は荷台を確認した。


旅立つときから積んでいた大豆パン、乾燥味噌玉、大豆ミート。


そこへ東部領軍から礼として渡された干し肉、薬草、傷薬、予備の鉄鍋、毛布が追加されている。


さらに、兵士たちが作った軍用大豆団子まで一箱積まれていた。


「人助けをした結果、旅の装備が充実したのよ」


「荷物が増えた結果、俺の仕事も増えてるぞ」


「筋力訓練だと思えば得でしょう?」


「お前は何も引いてないだろ」


「私は頭に食料を載せています」


「三莢だけじゃねえか」


言われてみれば、そのとおりだった。


仕方なく荷車の後ろへ回り、両手で押す。


あまり役に立っている気はしないが、参加することが大切である。


昼を過ぎた頃、街道の先に木製の柵が見えた。


その向こうには、何本もの煙突と、屋根の低い建物が並んでいる。


「宿場町だ」


偵察を終えたセインが、街道脇の木から飛び降りた。


「東へ向かう商隊が、あそこで護衛と物資を整えている。湿地方面へ行く者もいるはずだ」


「やっと町ね!」


大豆村を出てから、軍の野営地以外ではまともな建物を見ていない。


塩。


道具。


食材。


それに米の情報。


人が集まる場所なら、手に入るものも多いはずだ。


私は疲れを忘れ、荷車を押す手に力を込めた。


宿場町の入り口には、二人の衛兵が立っていた。


剣を下げ、通行人と荷物を確認している。


私たちの順番になると、一人の衛兵がガルドとセインを見た。


次に荷車を見る。


最後に、私の頭を見た。


「……その子供は?」


「エダです」


ガルドが答えた。


「名前を聞いているんじゃない。頭の植物は何だ」


「枝豆です」


私が答えると、衛兵は眉間を押さえた。


「エダという子供の頭に、エダマメが生えているのか?」


「説明すると、そうなります」


「どうしてそうなった」


「私にも分かりません」


正直に答えたのに、衛兵の疑いは深まった。


もう一人の衛兵が荷車を調べ始める。


木箱の蓋を開け、大豆パンを一枚取り出した。


「これは何だ?」


「パンです」


衛兵は大豆パンを指で叩いた。


こん、と音がした。


「石では?」


「食べられます」


「本当に?」


「湯へ浸せば」


「そのままでは食べられないのか」


「食べられますけど、歯の安全は保証しません」


衛兵は大豆パンを静かに箱へ戻した。


大豆ミートを見せても疑われ、乾燥味噌玉を説明しても薬物ではないかと警戒された。


このままでは町へ入るだけで日が暮れそうだ。


私は東部領軍の隊長から預かった書状を取り出した。


「これを見てください」


封蝋を確認した衛兵の表情が変わった。


書状へ目を通す。


何度か私と文面を見比べたあと、姿勢を正した。


「東部領軍への食料支援者、エダ殿?」


「はい」


「百二十人の部隊へ、二日分の補給を行ったとある」


「皆さんにも手伝ってもらいましたけど」


衛兵は、もう一度私の頭を見た。


先ほどまでの不審な植物を見る目ではない。


理解できない危険物を見る目になった。


あまり改善していない。


「補給担当官への紹介状も兼ねている。町への入場を許可する」


「ありがとうございます」


「ただし、頭から何かを勝手に増やさないように」


「枝豆なら大丈夫ですか?」


「駄目だ」


町中での促成栽培は禁止された。


宿場町の中央広場には、多くの荷馬車が並んでいた。


小麦粉の袋。


干し肉の樽。


武器や防具。


布。


薬草。


東へ向かう商隊が、出発前の準備をしているらしい。


だが、広場の一角だけ妙に騒がしかった。


「だから、これでは足りん!」


大声を上げていたのは、赤い帽子をかぶった商人だった。


彼の前には、破れた穀物袋が積まれている。


袋の中身は水を吸い、黒く変色していた。


「昨夜の雨で倉庫の屋根が抜けたんだ! 腐った粉を持っていくわけにはいかん!」


「代わりの小麦は?」


護衛らしい女性が尋ねる。


「町中から集めても半分だ。次の宿場まで五日。護衛と御者を合わせて三十人いるんだぞ」


どうやら、東方へ向かう商隊らしい。


出発直前に保存食を失った。


買い直そうにも、町に十分な在庫がない。


白米探索隊にとっては、湿地へ近づく絶好の同行相手だ。


私は商人へ近づいた。


「食料が必要なんですか?」


赤帽子の商人は、私を見下ろした。


視線が頭で止まる。


「……何の子供だ?」


「枝豆娘です」


「何だ、それは」


説明しても長くなるので、荷車から大豆パンを取り出した。


「五日分の携帯食なら用意できます」


商人は、茶色い円盤を見て顔をしかめた。


「これを食えと?」


「硬いので、汁へ浸してください」


「見た目が石だぞ」


「町の衛兵にも同じことを言われました」


まずは試食させたほうが早い。


広場の炊事場を借り、鉄鍋へ水を張る。


乾燥味噌玉を入れ、大豆ミートを戻す。


大豆パンは小さく割って器へ入れた。


そこへ温かい味噌汁を注ぐ。


硬かったパンが汁を吸い、少しずつ柔らかくなる。


赤帽子の商人は、恐る恐る一口食べた。


「……肉が入っている」


「大豆です」


「このパンは?」


「大豆です」


「汁の味付けは?」


「大豆です」


商人の手が止まった。


「全部、同じものなのか?」


「元は同じです」


「これだけ違う食べ物になるのか……」


味見していた護衛たちも、次々に器へ手を伸ばした。


大豆パンは見た目こそ悪い。


だが、汁へ浸せば食べやすく、腹にもたまる。


大豆ミートが入っているため、豆だけを煮たものより満足感もある。


「五日分を、本当に用意できるのか?」


商人が尋ねた。


「今ある保存食だけでは足りません。でも、原料を増やせる土地があれば」


「町の外に休耕地がある」


「水は?」


「井戸がある」


「人手は?」


商人は自分の商隊を振り返った。


御者。


護衛。


荷運び人。


出発できずに暇を持て余している者が三十人近くいる。


「十分ですね」


町の外にある休耕地を借り、全員で土を起こした。


大豆村や領軍の畑と違い、この土地は長い間使われていなかったらしい。


雑草は多いが、土の状態は悪くない。


私は頭から種豆を取り、等間隔に植えていく。


「《促成栽培》」


緑色の光が畑へ広がった。


芽が出る。


茎が伸びる。


葉が開く。


初めて見る者たちが、次々に驚きの声を上げた。


だが、今回は領軍のときのように、限界まで成長させない。


途中で止める。


水をまく。


土の様子を確認する。


そして、必要な分だけ実をつけさせる。


「一瞬で全部作らないのか?」


赤帽子の商人が尋ねる。


「土地を壊したら、次に使う人が困るでしょう」


「魔法なら、何でも無限に作れるものだと思っていた」


「私のスキルは、成長を早めるだけです。水も養分も人手も必要です」


収穫後は、商隊の者たちへ作業を分担した。


大豆を成熟させる者。


煮る者。


潰す者。


大豆パンを薄く延ばす者。


大豆ミートへ味噌で下味をつける者。


乾燥させる者。


私一人では、三十人分を五日分も作れない。


だが、三十人が作れば話は別だ。


夕方には、広場へ大豆パンが並び始めた。


大豆ミートは一食分ずつ乾燥させ、袋へ詰める。


乾燥味噌玉も、湯へ一つ落とせば数人分になる大きさで作った。


赤帽子の商人が、積み上げられた保存食を数える。


「これなら予定どおり出発できる」


「全部を食べ切らないでくださいね。次の宿場で普通の食料も補充してください」


「なぜだ? これだけあれば十分だろう」


「毎日三食、全部大豆にすると心が負けます」


「作った本人が言うのか」


そこは重要だった。


大豆食品は優秀だ。


だが、優秀だからといって、食生活のすべてを大豆で埋めてよいわけではない。


赤帽子の商人は代金として銀貨を差し出した。


私は受け取ろうとして、手を止める。


今まで枝豆や味噌は、道具や塩と交換してきた。


銀貨の価値がまだ分からない。


「お金ではなく、東方の湿地まで同行させてください」


「それだけでいいのか?」


「湿地にある、穂をつける草を探しています」


商人は少し考え、頷いた。


「我々の商隊は、湿地の手前にある東方都市まで行く。そこまでなら同行を認めよう」


これで、道案内と人数の多い護衛が手に入った。


「それと」


商人は荷車の中を見た。


「食料以外には、何が作れる?」


「大豆油があります。調理にも灯火にも使えます」


「ほかには?」


「油を使えば石鹸も作れます。搾ったあとの豆かすは、飼料や肥料になります」


「馬の餌にもなるのか?」


「量を調整すれば」


商人は黙った。


食料。


調味料。


油。


灯火。


石鹸。


飼料。


肥料。


私が一緒にいれば、旅に必要な物資の多くを大豆から補える。


「なるほど」


赤帽子の商人が、小さく笑った。


「君は食料を持ち歩いているのではないな」


「頭には持っていますけど」


「必要な場所で、補給そのものを作れる」


彼は商隊の者たちへ向き直った。


「明朝、出発する! 食料不足は解決した!」


歓声が上がった。


その中で、誰かが私を指さして言った。


「歩く兵站庫だな!」


すぐに別の者が訂正する。


「畑も作るんだから、歩く兵站基地だろ!」


「人を建物みたいに呼ばないでください!」


抗議したが、誰も聞いていなかった。


こうして私たち白米探索隊は、東方へ向かう商隊へ加わった。


白米を探しているだけなのに、なぜか旅を進めるたびに、大豆の軍事的価値ばかりが証明されていく。


私は商隊の荷車へ積まれた大量の大豆パンを見た。


「白米を探す旅なのに……」


また大豆が増えた。


頭の房が、風に揺れていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ