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転生したら枝豆娘だった件 ~促成栽培と大豆加工スキルで、白米のある異世界生活を目指します~  作者: 五平


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7/23

第7話 白米探索隊の結成

大豆村を出発する朝。

私は村の入り口に立ち、荷物をもう一度確認していた。

炒り豆。

堅焼き大豆パン。

乾燥味噌玉。

干した大豆ミート。

岩塩。

鉄鍋。

火打ち石。

水筒。

着替え。

そして、旅商人に描いてもらった東方までの簡単な地図。

「……多い」

必要だと思ったものを並べた結果、少女一人では背負えない量になってしまった。

一か月分の食料を乾燥させれば軽くなる。

だが、軽くなるのであって、重さが消えるわけではない。

そこで村の者たちが、小さな二輪車を作ってくれた。

木箱を載せられる荷車に、枝豆の蔓を編んだ牽引用の縄がついている。

「白米を探しに行くのか、行商に行くのか分からないな」

大柄な冒険者が、荷車を眺めて笑った。

「食料が尽きたら、白米を見つける前に終わるでしょう」

「確かに」

彼は荷車の縄を肩へ掛けた。

大剣を背負ったままでも、木箱を軽々と引いている。

「ところで」

私は彼を見上げた。

「何だ?」

「名前、何でしたっけ?」

男が足を止めた。

「今まで知らずに味噌汁を食わせてたのか?」

「聞く機会がなかったんです」

「ガルドだ」

「ガルドさん」

「呼び捨てでいい」

第3話から一緒に食事をしていたのに、ようやく名前を知った。

こちらも名乗ろうとして、私は口を閉じた。

前世の名前を使うべきか。

この世界で新しく名乗るべきか。

迷っていると、ガルドが言った。

「お前はエダマメでいいだろ」

「食材名じゃないですか」

「皆、そう呼んでるぞ」

大豆村では、すでに私はエダマメと呼ばれていたらしい。

本人の知らないところで名前が決まっていた。

「せめて、エダにしてください」

「分かった、エダ」

こうして私の異世界での名前は、エダになった。

安直だが、頭から枝豆が生えている以上、仕方がない。

「二人とも、俺を置いていくつもりか?」

背後から声がした。

振り返ると、細身の弓使いが立っていた。

最初に出会った二人組の、もう一人だ。

背中には弓と矢筒。

腰には短剣。

手には丸めた地図を持っている。

「来るんですか?」

「ガルドだけじゃ、道を間違える」

「お前よりは方向感覚がある」

「前に街道から半日ずれただろ」

「森が悪い」

弓使いはため息をつき、私へ向き直った。

「俺はセイン。東の街まで行ったことがある」

「助かります」

これで三人。

前衛のガルド。

斥候兼弓手のセイン。

そして食料担当の私。

「私は食料だけじゃなく、畑も作れます」

「旅先で畑を作る予定があるのか?」

「食料が尽きたときに」

「お前の場合、本当に街道を畑にしそうで怖いな」

発酵小屋の前には、村の者たちが集まっていた。

大豆村に残る者には、畑の管理方法をすでに伝えてある。

乾燥大豆を種として埋める。

水をやる。

同じ区画で育て続けない。

熟した枝豆は、次の種を残してから収穫する。

私の《促成栽培》がなくても、時間をかければ枝豆は育つ。

味噌も、発酵小屋の中で静かに熟成を続ける。

「畑を枯らさないでくださいね」

「分かってる」

「味噌を勝手に全部食べないでください」

「それは保証できねえな」

「帰ってきても味噌がなかったら、全員村から追い出します」

「村長みたいなことを言うな」

私は村長になった覚えはない。

だが、皆は楽しそうに笑っていた。

大豆村と書かれた看板の横を通り、私たちは東へ向かう街道へ足を踏み出した。

目的は、東の湿地にあるという穂のつく草。

それが本当に稲なら、種を持ち帰る。

そして水田を作り、白米を炊く。

味噌汁の隣へ、炊きたてのご飯を置く。

壮大な旅のように聞こえるが、欲しいものは朝食だった。

「エダ」

前を歩いていたセインが振り返る。

「何ですか?」

「その荷物、本当に全部食べ物なのか?」

「ほとんどは」

「武器は?」

私は頭の枝豆を指さした。

「これです」

「食べ物にしか見えない」

「私にもそう見えます」

その日の昼までは、旅は順調だった。

大豆村から離れるにつれ、森は少しずつ薄くなり、踏み固められた街道が現れた。

荷車も問題なく進む。

途中で一度休憩し、乾燥味噌玉を湯へ溶かした。

「旅先でも味噌汁が飲めるのはいいな」

ガルドが器を傾ける。

「これだけで護衛を引き受けた価値がある」

「白米が見つかったら、もっと良くなります」

「その白い粒が、本当に食えるならな」

「食べられるようにするんです」

稲だったとしても、収穫すればすぐ白米になるわけではない。

脱穀。

籾すり。

精米。

炊飯。

必要な工程はいくつもある。

だが、まずは実物を見なければ始まらない。

昼食を終え、再び歩き始めてから一刻ほど経った頃だった。

先頭を歩いていたセインが、突然片手を上げた。

私とガルドは、すぐに足を止める。

「どうしました?」

「煙の臭いがする」

セインは街道の先を見つめた。

「焚き火じゃない。荷物か、車輪が焼けた臭いだ」

ガルドが荷車の縄を外し、大剣へ手を掛ける。

私も周囲を見回した。

風に混じって、焦げ臭さが漂っている。

その奥には、獣の生臭い臭いもあった。

「ここで待っていろ」

セインが街道脇の茂みへ入る。

しばらくして戻ってきた彼は、低い声で告げた。

「荷馬車が襲われている。角狼が三頭。生存者もいる」

「三頭か」

ガルドが大剣を抜く。

私は荷車を街道脇へ移動させ、木箱の陰へ隠した。

「私はどうすれば?」

「ここで待て」

「植物で足止めできます」

「戦った経験は?」

「一度だけ。拠点の防壁を襲った角狼を追い払いました」

二人が同時に私を見た。

「先に言え」

「聞かれなかったので」

ガルドは少し考え、私へ言った。

「無理に前へ出るな。セインが一頭を射る。俺が残りを引き受ける。抜けてきた奴だけ止めろ」

「分かりました」

三人で茂みを進む。

少し開けた場所る。抜けてきたに、横倒しになった荷馬車があった。

片方の車輪が外れ、荷物が地面へ散乱している。

角の生えた黒い狼が三頭、荷馬車を囲んでいた。

荷台の下から、人の腕が見える。

誰かが隠れている。

一頭の角狼が荷台へ鼻先を突っ込み、引きずり出そうとしていた。

セインが弓を構える。

矢が放たれた。

一直線に飛んだ矢が、角狼の肩へ突き刺さる。

魔物が吠えた。

残る二頭がこちらを振り向く。

「来い!」

ガルドが茂みから飛び出した。

大剣を横へ振り、最初の一頭を弾き飛ばす。

もう一頭がガルドの横を抜けた。

狙いは、後方にいる私だ。

怖い。

脚が動かない。

第2話の夜、枝豆防壁の内側で震えていた感覚が戻ってくる。

だが、今は防壁がない。

ならば作ればいい。

私は頭から莢をもぎ取り、豆を地面へ投げた。

「《促成栽培》!」

緑色の光が土へ走る。

芽が伸びた。

茎が絡み合い、角狼の前脚へ巻きつく。

魔物が勢いのまま転倒した。

「今です!」

セインの二本目の矢が飛ぶ。

矢は角狼のすぐ前の地面へ突き刺さった。

驚いた魔物が身をよじる。

その間に、伸びた枝豆の蔓が後脚にも絡みついた。

完全に動きを止めたわけではない。

だが、それで十分だった。

ガルドが一頭を大剣の腹で打ち倒し、こちらへ駆け寄る。

蔓へ捕らわれた角狼は、仲間が倒されたのを見ると激しく暴れた。

茎を何本か引きちぎり、森の奥へ逃げていく。

矢を受けた最後の一頭も、セインが追撃すると姿を消した。

辺りが静かになった。

私はその場へ座り込んだ。

「怖っ……」

「よく止めた」

ガルドが大剣を下ろす。

「倒さなくても、足を止めれば役に立つ」

「枝豆なのに?」

「枝豆だからだろ」

褒められている気がしない。

私たちは横倒しになった荷馬車へ駆け寄った。

荷台の下には、商人らしい中年の男と、若い御者が隠れていた。

二人とも怪我をしているが、命に別状はなさそうだった。

「助かった……」

商人が震える声で言った。

「もう駄目かと思った」

私は荷車から乾燥味噌玉と鉄鍋を持ってきた。

怪我の治療はセインに任せ、湯を沸かす。

「今、温かいものを作ります」

「薬か?」

「味噌汁です」

「ミソシル?」

「大豆から作った補給食です」

ガルドが笑った。

「諦めろ。こいつは何をしても最後は大豆になる」

湯へ味噌玉を落とす。

乾燥野菜が広がり、味噌の香りが立ち上った。

襲撃を受けた街道の脇で、私たちは六人で鍋を囲んだ。

商人は味噌汁を一口飲むと、大きく息を吐いた。

「身体が戻ってくるようだ」

「塩分と温かさのおかげです」

「この食料を、君たちが作ったのか?」

「大豆村で作っています」

「大豆村?」

知らないのも当然だ。

数日前に誕生したばかりの村である。

商人は荷物の中から地図を取り出した。

東方の街道と、途中の宿場が詳しく記されている。

「助けてもらった礼だ。この地図を持っていってくれ」

私たちが持っていた簡易地図より、はるかに正確だった。

目的地である湿地へ通じる道も描かれている。

「ありがとうございます」

白米へ続く道が、少しだけ具体的になった。

私。

ガルド。

セイン。

三人だけの小さな一行。

戦う者。

道を見つける者。

食料と植物を扱う者。

初めて役割を分け、誰かを救い、同じ鍋を囲んだ。

この日、私たちはようやく、本当の意味で白米探索隊になった。


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