表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら枝豆娘だった件 ~促成栽培と大豆加工スキルで、白米のある異世界生活を目指します~  作者: 五平


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/23

第4話 味噌を仕込む枝豆娘

翌朝。


二人の冒険者は、私の拠点まで一緒に戻ってきてくれた。


正確には、私が本当に寝床を持っているのか確認しに来たらしい。


「……これが寝床か?」


大柄な冒険者が、枝と葉で作った小屋を見上げる。


「一応、屋根はあります」


「半分くらい空が見えてるぞ」


「星を眺められる設計です」


「雨が降ったらどうするんだ?」


「そのとき考えます」


二人は顔を見合わせた。


どうやら、かなり哀れなものを見る目をしている。


だが、昨夜の枝豆防壁は立派に役目を果たしていた。


角狼に折られた部分こそあるものの、絡み合った茎の大半は残っている。


冒険者たちは、その強度を確かめるように枝豆の垣根を押した。


「下手な柵より頑丈だな」


「しかも実が食えるのか」


「塩ゆでにすれば」


そこは重要なので、訂正しておく。


別れ際、二人は約束どおり、携帯用の小さな鉄鍋を置いていった。


さらに岩塩をひとつかみと、火打ち石まで渡してくれる。


「本当に、もらっていいんですか?」


「昨日のエダマメ代だ」


大柄な男が答える。


「街で売れば、鍋一つくらいすぐ買えるぞ」


「枝豆が?」


「酒場の主人なら欲しがるだろうな」


思いがけず、枝豆に商品価値があることが判明した。


今の私にとって、鍋は金貨より価値がある。


塩も火もある。


水は小川から汲める。


これでようやく、自分だけの温かい食事が作れる。


二人が街へ向かうのを見送ったあと、私は川辺へ石を集めた。


平らな石を三方向へ積み上げ、その中央へ薪を並べる。


何度か失敗しながら火打ち石を打ち合わせると、乾いた草から細い煙が上がった。


息を吹きかける。


火が大きくなる。


その上へ鉄鍋を置く。


「石竈、完成」


拠点の設備が一つ増えた。


昨日まで葉の下で震えていたとは思えない進歩である。


まずは枝豆を茹でた。


塩を少しだけ振り、朝食にする。


おいしい。


だが、昨日と同じものだ。


同じものを食べ続けていれば、いずれ飽きる。


私の頭から生える食材が枝豆だけである以上、加工方法を増やさなければならない。


そこで気になるのが、もう一つの固有スキルだった。


「《大豆進化》」


言葉にした瞬間、視界へ半透明の文字が浮かぶ。


《対象となる枝豆を選択してください》


私は収穫したばかりの莢を一つ手に取った。


《進化可能段階》


《未成熟大豆》


《完熟大豆》


《乾燥大豆》


「やっぱり枝豆は、大豆の途中なんだ」


枝豆と大豆は、別の植物ではない。


未成熟なうちに収穫したものが枝豆。


完熟させ、乾燥させたものが大豆だ。


私が《完熟大豆》を選択すると、手の中の莢がゆっくりと色を変えた。


鮮やかな緑色が薄れ、黄色くなり、最後には乾いた茶色へ変わる。


莢を割る。


中から現れたのは、硬く丸い大豆だった。


「本当に大豆になった……」


これなら豆乳も豆腐も油も作れる。


そして、味噌も。


味噌。


その言葉を思い浮かべた瞬間、急に口の中が塩辛いものを求め始めた。


前世では、冷蔵庫の中に必ず入っていた。


湯へ溶かせば味噌汁になる。


肉へ塗って焼いてもいい。


野菜につけてもいい。


何より、大豆から作れる。


「塩ゆでの次は、味噌しかない」


私は大豆を鍋へ入れ、水に浸した。


本来なら、長い時間をかけて吸水させなければならない。


そこで《大豆進化》を使う。


《吸水状態を促進します》


硬かった大豆が水を吸い、みるみる膨らんでいく。


便利だ。


ただし、頭の奥が少し重くなった。


《促成栽培》と同じく、使えば魔力を消費するらしい。


膨らんだ大豆を火にかける。


柔らかくなるまで煮込み、平らな石の上で木の棒を使って潰した。


すり鉢もすりこぎもない。


手も腕も疲れる。


魔法があっても、調理器具までは生えてこないのだ。


どうにか大豆をペースト状にし、岩塩を混ぜる。


そこまで作って、私は手を止めた。


「……麹がない」


味噌は、大豆と塩を混ぜるだけではできない。


発酵させるための麹が必要だ。


一般的な味噌には米麹を使うものが多い。


だが、この世界で米を見たことはない。


そもそも、米が存在するのかすら分からない。


「味噌を作る前に、米探し?」


あまりに遠い。


今の私は森の中に小屋を作ったばかりだ。


米が見つかるまで味噌汁を我慢するなど耐えられない。


だが、そこで別の記憶がよみがえった。


前世で暮らしていた地方では、豆味噌が身近だった。


米麹ではなく、大豆そのものへ麹菌をつけて作る、色の濃い味噌。


「そうだ。豆麹なら、大豆だけで作れる」


問題は麹菌である。


試しに、潰していない大豆へ触れながら《大豆進化》を発動する。


視界に新しい表示が現れた。


《加工段階が追加されました》


《煮大豆》


《豆麹》


《発酵大豆》


「豆麹がある!」


迷わず選択する。


だが、すぐに警告が表示された。


《周辺環境から発酵に適した微生物相を選択します》


《実行には継続的な魔力供給が必要です》


無から麹菌を作るわけではないらしい。


空気や土の中に存在する微生物から、目的に適したものだけを選び、大豆の表面で増やす。


それが《大豆進化》の加工機能なのだろう。


「やってみるしかない」


私は煮た大豆の一部を葉の上へ広げ、両手をかざした。


淡い緑色の光が、大豆を包み込む。


最初は何も起こらない。


やがて表面に、白っぽいものが広がり始めた。


腐敗しているようにも見える。


だが、嫌な臭いはしない。


むしろ、どこか甘く香ばしい匂いが漂っている。


《豆麹への加工が完了しました》


「できた……」


完成した豆麹を、潰した大豆と塩へ混ぜる。


本来なら、ここから長い熟成期間が必要になる。


私は再び手をかざした。


《派生機能》


《発酵誘導を開始します》


緑色の光が、味噌の原料へゆっくりと染み込んでいく。


促成栽培のような激しい変化ではない。


香りが少しずつ変化する。


青臭い煮豆の匂いが消え、代わりに濃厚で複雑な香りが立ち上り始めた。


しかし、途中で急激に身体が重くなった。


「うっ……」


魔力が足りない。


畑を育て、枝豆を大豆へ進化させ、吸水を促進し、豆麹まで作った。


さすがに使いすぎたらしい。


《発酵進行度三十二パーセント》


「中途半端!」


完全な味噌にはなっていない。


色もまだ薄い。


香りも、前世で食べていた赤味噌ほど強くない。


それでも、指先へ少し取って舐めてみる。


塩辛い。


豆の甘みがある。


そして、わずかだが発酵した旨味も感じられた。


「若い味噌だ」


完成品には遠い。


だが、食べられないわけではない。


私は鍋へ水を入れ、火にかけた。


沸騰する直前で火を弱め、若い味噌を溶かす。


具もない。


だしもない。


ただ湯へ味噌を溶かしただけだ。


それでも、立ち上る香りは懐かしかった。


木の器もないので、鍋が少し冷めるのを待ち、端から直接飲む。


「熱っ」


舌をやけどしかけた。


もう一度、今度は慎重に口へ運ぶ。


塩気。


大豆の旨味。


身体の内側へ染み込む温かさ。


前世で飲んでいた味噌汁には及ばない。


だしも、豆腐も、わかめもない。


それでも、異世界へ来て初めて口にした、故郷の味だった。


「……味噌汁だ」


正確には、味噌を溶かした湯である。


だが今は、それで十分だった。


その日の夕方。


昨日の二人の冒険者が、再び拠点へ戻ってきた。


忘れ物でもしたのかと思ったが、大柄な男は空の袋を持っている。


「街へ戻る途中で、仲間と会ってな」


「エダマメを食わせたら、もっと欲しいと言い出した」


どうやら枝豆を買いに来たらしい。


二人は、石竈から漂う匂いに気づいた。


「昨日とは違う匂いだな」


「また何か作ったのか?」


私は鍋を持ち上げた。


「味噌汁です」


「ミソシル?」


「大豆を発酵させた調味料を、湯に溶かしたものです」


二人は鍋の中を覗き込む。


濁った茶色の液体。


見た目だけなら、あまり食欲をそそらない。


「薬か?」


「料理です」


「本当に?」


「たぶん」


「また、たぶんか」


それでも匂いには勝てなかったらしい。


二人は持参していた木の器へ少量ずつ入れ、警戒しながら口をつけた。


最初は無言だった。


やがて、大柄な男がもう一口飲む。


「塩辛いが、悪くない」


細身の男も頷いた。


「干し肉を入れたら、もっと旨くなりそうだ」


その言葉に、私は手を打った。


「それです!」


二人から干し肉と乾燥野菜を少し分けてもらい、鍋へ加える。


再び煮込むと、肉と野菜の旨味が湯へ溶け出した。


そこへ若い味噌を加える。


今度は、先ほどよりも明らかに味噌汁らしい。


三人で鍋を囲み、温かい汁を飲む。


枝豆を売るつもりで来たはずの二人は、いつの間にか味噌汁をおかわりしていた。


「これ、街で売れるぞ」


大柄な男が言った。


「保存も利くんだろ?」


「ちゃんと発酵させれば、かなり長持ちします」


「兵士の携帯食にも使えそうだな」


私は鍋の中へ視線を落とした。


まだ未完成の若い味噌。


それでも、枝豆とは別の価値が生まれている。


この拠点で作れるものは、塩ゆで枝豆だけではない。


大豆まで成熟させれば、加工できるものは一気に増える。


豆乳。


豆腐。


醤油。


納豆。


油。


そして味噌。


「大豆って、何にでもなるんだな」


冒険者が感心したように呟く。


私は胸を張った。


「枝豆は、まだ未成熟な大豆ですから」


その夜。


冒険者たちが眠ったあとも、私は石竈の隣に置いた小さな味噌玉を眺めていた。


魔力で一気に完成させるには、今の私では力が足りない。


ならば、普通に発酵させればいい。


発酵させる場所。


保存する容器。


一定の温度。


もっと大量の塩も必要だ。


寝床を作るだけでは足りない。


ここには、加工を続けられる設備が必要になる。


「次は、発酵小屋かな」


森の小さな拠点は、ただ生き残るための寝床から、大豆を加工するための工房へ変わり始めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ