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転生したら枝豆娘だった件 ~促成栽培と大豆加工スキルで、白米のある異世界生活を目指します~  作者: 五平


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第23話 小さな水田の第一歩

発酵小屋の器に並べた種籾から、小さな白い根が伸びていた。


ほんの数ミリ。


大豆村の誰も見たことがないほど、頼りない芽だった。


それでも、村人たちは器の周囲へ集まり、宝石でも見るような目で覗き込んでいる。


「本当に生きてるぞ」


「これが、あの白い飯になるのか?」


「今はまだ種よ」


私は器を両手で抱え、人垣から守った。


興味を持ってくれるのはうれしい。


だが、十人以上に囲まれて息を吹きかけられれば、種籾のほうが緊張で枯れそうだった。


「触らないでね。落とすのも駄目。食べるのはもっと駄目よ」


「一粒くらいなら」


「駄目です」


以前、持ち帰った種籾を宴へ使おうとした村人が、そっと手を引っ込めた。


「芽が出たなら、すぐ畑へ植えるのか?」


別の村人が尋ねる。


「畑じゃなくて、水田を作ります」


私が答えると、皆の視線がガルドへ集まった。


ガルドは無言で空を見上げた。


「どうして俺を見る」


「力仕事だからじゃない?」


「帰ってきたばかりだぞ」


「白米のためです」


「その言葉を出せば、俺が何でも掘ると思うなよ」


そう言いながら、彼はすでに鍬を担いでいた。


大豆村の近くには、小川から水を引きやすい低地がある。


雨のあとには水がたまり、大豆畑には向かないため、これまで使われていなかった場所だ。


私たちはそこへ向かい、まず三か所へ小さな穴を掘った。


「すぐ水田を作らないのか?」


村の若者が尋ねる。


「水を入れても、全部地面へ染み込んだら意味がないでしょう」


掘った穴へ、それぞれ水を入れる。


一つ目は、あっという間に水位が下がった。


砂が多い。


ここへ水田を作れば、川から水を入れ続けなければならない。


二つ目は小川に近い。


水持ちは悪くないが、雨で川が増水すれば水田ごと流されそうだった。


三つ目は、少し離れた窪地。


表面の黒い土を除くと、その下から粘り気のある土が現れた。


握ると形が崩れにくい。


水を入れても、すぐには減らなかった。


「ここね」


私は地面へ棒を立てた。


「ただし、最初から大きな水田は作りません」


「村全員が食べるんじゃなかったのか?」


「それは、ちゃんと育つと分かってから」


持ち帰った種籾は貴重だ。


この土地で育つ保証はない。


水温が合わないかもしれない。


季節が遅すぎるかもしれない。


病気や虫に弱い可能性もある。


いきなり広い水田を作って全滅すれば、労働も種籾も失う。


まずは、小さな試験区画。


大人が三歩ずつ歩けば端へ届く程度で十分だった。


村人たちと雑草を刈り、根を取り除く。


ガルドが表面の土を掘り返す。


セインは長い板へ水を少し載せ、地面の傾きを調べていた。


「東側が高い」


「分かるの?」


私が尋ねる。


「板の上の水が西へ寄っている」


水田は平らでなければならない。


少し傾くだけで、一方は深い水になり、反対側は土が乾く。


高い場所を削る。


低い場所へ土を移す。


また水を載せて確かめる。


単に穴を掘るより、ずっと面倒だった。


「水田って四角い池じゃないのね」


村の子供が言った。


「私も旅に出る前は、だいたい同じ認識だったわ」


白米を食べるまでに、知らない作業が多すぎる。


区画の周囲へ土を積み、畦を作る。


大豆の収穫後に残していた太い茎を短く切り、土の中へ横向きに埋めた。


枝豆の根を生きたまま水田の底へ伸ばすと、水や養分を奪う可能性がある。


だが、乾燥させた茎なら、畦が崩れるのを抑える芯材として使える。


「米糠も使うのか?」


ガルドが発酵小屋から持ってきた小袋を指した。


精米したときに出た、薄茶色の粉だ。


「使いません」


「昨日、大事に取っておくと言ってただろ」


「大事だから地面には塗らないの」


米糠は食べられる部分を含んでいる。


肥料や発酵にも使えるだろう。


だが、水田へ大量に混ぜれば腐り、虫や獣を呼ぶかもしれない。


少量しかないものを、正体の分からない防水材として使う必要はなかった。


「水を止めるのは、土そのものです」


小川から少量の水を引き込む。


水田予定地へ薄く水が広がった。


私たちは鍬で土を砕き、水と混ぜる。


最後は長靴のまま中へ入り、何度も踏み固めた。


ぐちゃ。


べちゃ。


泥が足首へまとわりつく。


「東の湿地から帰ってきたのに、また泥か」


ガルドが嫌そうな顔をする。


「今度は泥蟹が出ないだけ楽でしょう?」


「そのうち、この水田にも連れてくるとか言わないだろうな」


「食用としてなら少し……」


「やめろ」


泥を練り、平らにならす。


粘土質の土が隙間を埋め、柔らかな層を作る。


これが、前世で聞いたことのある代かきに近い作業なのだと思う。


正しい道具も方法も分からない。


旧農場で見た水田跡を思い出しながら、手探りで形を作る。


昼を過ぎた頃、ようやく小さな区画ができた。


水を浅く張る。


村人たちが歓声を上げた。


その直後。


畦の一角から、水が細く漏れ始めた。


「水が逃げてるぞ!」


「そこ、踏まないで!」


私たちは慌てて漏水箇所を確認した。


畦の下に、取り除き切れなかった太い根が残っている。


その隙間を水が通っていた。


根を抜く。


粘土を詰める。


足で踏み固める。


だが、今度はその横から水が漏れる。


「水って、隙間を見つけるのが上手すぎない?」


「水だからな」


セインが冷静に答える。


一度水を止めても、別の場所から漏れる。


東の農場で水路を直した経験がなければ、私は途中で諦めていたかもしれない。


夕方までかけ、ようやく水位の低下が目立たなくなった。


完全に止まってはいない。


だが、朝晩に少量の水を足せば維持できる程度にはなった。


「できた……」


私は泥だらけのまま、畦へ座った。


目の前にあるのは、大人が数人入ればいっぱいになるほどの小さな水田。


村全体を養うには、あまりにも小さい。


それでも、大豆村に初めて作られた水田だった。


「種を植えるぞ!」


村人の一人が発芽試験の器を持ってきた。


「待って」


私は止めた。


「いきなり全部、水の中へ植えません」


「水田を作ったのに?」


「発芽したばかりの種は弱いの。深い水へ入れたら、流されたり腐ったりするかもしれない」


前世の水田では、苗を別の場所で育て、ある程度大きくなってから田植えをする。


そこまでは覚えている。


ならば、今必要なのは本田より苗床だ。


水田の端に、水が直接たまらない少し高い場所を作る。


泥を湿らせる程度に水を含ませ、その上へ発芽した種籾を並べる。


十粒だけでは比較できないため、追加で発芽させていた二十粒も持ってきた。


全部を同じ条件にはしない。


湿った苗床へ十五粒。


水を薄く張った場所へ十粒。


残りの五粒は、乾燥しない程度の普通の土へ植える。


どの条件でよく育つかを見るためだ。


「《促成栽培》は?」


子供が尋ねる。


「今回は使いません」


「使ったほうが早いのに」


「私がいなくても育つ方法を見つける必要があるでしょう?」


魔法で成長させれば、すぐに結果は見える。


だが、それでは土と水が稲に合っているのか分からない。


毎年、私一人が村中の稲を育てるわけにもいかない。


大豆と同じだ。


本当の農業にするなら、普通に育つ仕組みが必要だった。


種籾を植え終える。


鳥に食べられないよう、細い枝と糸で簡単な覆いを作る。


子供たちには、勝手に触らないよう念を押した。


「いつ米になるの?」


「ずっと先よ」


「明日じゃないの?」


「明日は、まだ芽です」


「《促成栽培》を使えば?」


「使いません」


同じ会話を三度繰り返した。


翌朝。


私は日の出と同時に水田へ向かった。


水位は、昨日より少し下がっている。


だが、空にはなっていない。


畦も崩れていない。


「水、残ってる……」


第一段階は成功だ。


それから毎日、水位と苗床を確認した。


水を入れすぎない。


土を乾かさない。


鳥と虫を追い払う。


三日目。


薄く水を張った場所では、二粒が泥へ沈み、芽の成長が止まっていた。


普通の土へ植えた種は、表面が乾きかけている。


最も元気だったのは、湿らせた苗床の種籾だった。


白い根の反対側から、小さな緑色の芽が伸びている。


「出た……!」


私は顔を近づけた。


細い。


頼りない。


枝豆の芽と比べても、驚くほど小さい。


それでも、間違いなく緑色だった。


村の子供たちが駆け寄ってくる。


「米になった?」


「まだ苗の赤ちゃんよ」


「いつ食べられる?」


「だから、ずっと先!」


だが、私も同じ気持ちだった。


早く育ってほしい。


穂をつけてほしい。


村全員で、白いご飯を食べたい。


そのために、今は焦らない。


芽が自分の力で伸びるのを待つ。


水田を作るとは、水を張って種を沈めることではなかった。


土地を選び。


高さをそろえ。


土を練り。


畦を作り。


水を調整し。


苗を育てる。


白米一杯の向こうに、また新しい工程が並んでいる。


私は最初に芽を出した苗の横へ、小さな目印の棒を立てた。


大豆中心だった村に生まれた、最初の稲の苗。


まだ水田へ植え替えることさえできない。


それでも、この小さな緑色の一本が、大豆村の新しい主食へ続く確かな第一歩だった。


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