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転生したら枝豆娘だった件 ~促成栽培と大豆加工スキルで、白米のある異世界生活を目指します~  作者: 五平


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第2話 最初の枝豆畑

水の流れる音を頼りに森を進むと、木々の間から細い小川が現れた。


透き通った水が、丸い石の間を縫うように流れている。


「水……!」


私は川辺へ駆け寄り、両手ですくった水を口へ運んだ。


冷たい。


喉を通った水が、乾ききった身体へ染み込んでいく。


本当なら煮沸したほうがいい。

前世の知識では、その程度のことは分かっている。


だが、火も鍋もない。


飲まずに干からびるか、腹を壊す危険を承知で飲むか。


異世界生活の最初の選択としては、あまりにも地味だった。


「まあ、今すぐ死ぬよりはいいか」


何度か水を飲み、ようやく一息つく。


しかし、安心している暇はなかった。


木々の向こうへ傾き始めた太陽が、森の中へ長い影を落としている。


日が沈めば、気温も下がる。


それ以上に問題なのは、先ほどから聞こえている獣の鳴き声だった。


最初は遠かった。


だが、少しずつ近づいている。


「水場には、動物も集まるよね……」


私は川辺を見回した。


水はある。


平らな土地もある。


拠点を作る場所としては悪くない。


ただし、今のままでは私自身が、水を飲みに来た魔物へ提供される軽食になってしまう。


頭に枝豆まで添えられているので、見た目だけなら完成度も高い。


「よし。まずは寝床。それから防壁」


近くに落ちていた枝を集め、太い木の幹へ斜めに立てかける。


その上から葉のついた枝を重ねた。


前世で家を建てた経験などない。


キャンプですら、会社の親睦行事で一度参加した程度だ。そのときもテントは同僚に任せ、私は肉を焼いていただけだった。


当然、完成したものは小屋とは呼べなかった。


大きな葉を載せた枝の山である。


試しに中へ入ろうとした瞬間、支えにしていた枝が外れた。


ばさばさと葉が落ち、頭の枝豆に引っかかった。


「痛っ……!」


私は葉の山から這い出した。


頭の房を確認する。


枝豆は無事だった。


喜ぶべきなのかは分からない。


二度目は、地面へ枝を深く突き刺した。


横木を組み、細い蔓で縛る。


強く引っ張ると蔓が切れたので、何本か束ねて使った。


今度は慎重に葉を重ねる。


見栄えは悪い。


隙間も多い。


それでも、雨露くらいは防げそうだった。


「住居、完成……ということにしよう」


問題は外側だ。


私は頭から枝豆の莢を一つもぎ取った。


ぷつり、と軽い痛みが走る。


だが、もぎ取った場所には、すぐに小さな芽が形成され始めた。


頭の枝豆は補充される。


便利ではあるが、鏡で確認するのが怖い。


莢から取り出した豆を、寝床の周囲へ等間隔に埋める。


「《促成栽培》」


指先から緑色の光が流れ出し、土へ吸い込まれた。


地面が小さく震える。


埋めた豆から一斉に芽が伸び、茎が太くなり、葉が開いていく。


だが、昼間に育てた株とは少し違った。


私が「壁になれ」と意識したためか、枝豆の茎は横へ枝分かれし、隣の株と絡み合いながら密集していく。


やがて寝床の周囲に、私の胸ほどの高さの緑色の垣根が完成した。


「おお……枝豆要塞」


見た目は畑である。


しかし、葉の内側には太い茎が何重にも重なっていた。


手で押してみても、簡単には倒れない。


これなら小さな獣くらいは防げるだろう。


もう少し広げようとして、再びスキルを使う。


その瞬間、身体から力が抜けた。


「うわっ……」


膝をつく。


頭の奥が重い。


どうやら《促成栽培》は、いくらでも使えるわけではないらしい。


周囲を見ると、急成長させた株の近くだけ土の色が薄くなっていた。


植物を育てれば、土地の養分を使う。


魔法だからといって、完全に無から生まれているわけではない。


「畑を増やしすぎたら、土地が死ぬのか」


便利な能力だが、使い方を間違えれば、自分で自分の拠点を荒れ地に変えてしまう。


とりあえず、今夜を越すための防壁はできた。


それ以上は明日考えよう。


私は寝床の中へ入り、川の水で空腹をごまかした。


手元には、いくらでも枝豆がある。


だが、生では食べない。


莢を開いてみても、青臭い豆が並んでいるだけだ。


昼間なら勢いで口に入れていたかもしれない。


前世で何度も食べた枝豆だからこそ、茹でたものとの違いが分かってしまう。


「食料があるのに、調理できない……」


腹が鳴った。


頭の枝豆を塩ゆでにした自分を想像する。


非常に複雑な気分になった。


日が沈むと、森は急速に暗くなった。


枝豆の葉が風に揺れる音。


川の流れる音。


それ以外にも、草を踏み分ける何かの音が聞こえている。


私は息を潜めた。


がさり。


枝豆の垣根の向こうで、葉が大きく揺れた。


暗闇の中に、二つの赤い光が浮かぶ。


目だ。


低い唸り声とともに現れたのは、大型犬ほどもある灰色の獣だった。


狼に似ている。


ただし、額から短い角が生えている。


「やっぱり魔物いるじゃん……!」


角狼は、こちらへ向かって地面を蹴った。


私は寝床の奥へ身を縮める。


直後、激しい衝撃が枝豆の防壁を揺らした。


何本かの茎が折れる。


だが、絡み合った株全体は倒れない。


角狼が前脚を振り回すたび、枝豆の枝が脚へ絡みついた。


獣は苛立ったように吠え、さらに暴れる。


私は震える手を地面へ当てた。


新しい株を育てるほどの力は残っていない。


それでも、すでにある植物なら動かせるかもしれない。


「もう少しだけ……伸びろ!」


残った魔力を流し込む。


枝豆の茎から細い根が伸び、角狼の脚へ巻きついた。


獣は体勢を崩し、地面へ転がる。


しばらくもがいたあと、危険な獲物だと判断したらしい。


茎を引きちぎり、暗い森の奥へ逃げていった。


私は、その場へへたり込んだ。


「枝豆に……命を救われた……」


頭から生えていること以外は、かなり頼りになる植物だった。


今夜は何とか生き残れそうだ。


そう思ったときだった。


川の下流から、かすかな光が見えた。


橙色の光。


自然に生じたものではない。


炎だ。


目を凝らすと、木々の隙間から細い煙も上がっている。


誰かが火を使っている。


ということは、人がいる。


そして、人がいるなら――


「鍋もあるかもしれない」


恐怖で震えていた身体に、別の力が戻ってきた。


塩まで持っている可能性もある。


私は枝豆の防壁から顔を出し、遠くの炎を見つめた。


異世界での最初の夜。


私が発見したものは、町でも勇者でもなかった。


茹でた枝豆へ至る、最初の手掛かりだった。


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