第6話 「終わりがある放課後」
「……遅い」
放課後の教室。
時計を見る。
いつもなら、とっくに来てる時間。
「……」
なんか、嫌な予感がする。
「おい悠斗」
桐谷が声をかけてくる。
「今日はあいつ来てねーの?」
「……わかんね」
「珍しいな」
「……ああ」
それから30分。
来ない。
「……帰るか」
立ち上がる。
でも、足が止まる。
「……いや」
カバンを持ち直す。
「探すか」
廊下。
校庭。
昇降口。
どこにもいない。
「……なんだよ」
スマホを取り出す。
メッセージ。
既読、つかない。
電話。
「……出ろよ」
コール音だけが続く。
出ない。
「……はあ」
外に出る。
夕焼け。
いつもの時間。
なのに――
あいつがいないだけで、全部違って見える。
「……」
ふと思い出す。
「……あの丘」
走る。
息が切れる。
でも止まらない。
丘の上。
風が強い。
そして――
「……陽菜!」
いた。
ベンチに座っている。
「……悠斗」
振り返る。
笑う。
でも――
その笑顔、明らかに弱い。
「なんで連絡出ねえんだよ!」
「ごめん」
「ごめんじゃねえだろ!」
「……うん」
怒りたいのに。
怒れない。
「……何してんだよ」
「ちょっと、ここ来たくて」
「一人でかよ」
「……うん」
近づく。
その瞬間、気づく。
「……おい」
「なに?」
「お前……」
息が荒い。
顔色、悪い。
「大丈夫か?」
「……大丈夫」
明らかに大丈夫じゃない。
「座れよ」
隣に座る。
「……」
「……」
沈黙。
風の音だけ。
「ねえ悠斗」
「……なんだよ」
「怒ってる?」
「……ちょっとな」
「そっか」
小さく笑う。
「……もう、隠せないや」
ぽつりと呟く。
「は?」
「ちゃんと、言うね」
「……」
嫌な予感。
心臓が、嫌な音を立てる。
「私さ」
少し息を整える。
「病気なの」
「……は?」
「ちょっと珍しいやつで」
笑う。
でも、その笑いは弱い。
「治らないんだって」
頭が真っ白になる。
「……は?」
もう一度聞き返す。
理解したくない。
「だからさ」
「……嘘だろ」
「嘘じゃない」
即答。
「……なんで」
声が震える。
「なんで言わなかったんだよ」
「言えなかった」
「なんでだよ!」
「だって――」
声が少しだけ大きくなる。
「普通に過ごしたかったの!」
「……っ」
「かわいそうって思われたくなかった!」
「……」
「特別扱いされたくなかった!」
息が乱れる。
「……だから」
少し落ち着く。
「普通の女の子みたいに」
「……」
「放課後、過ごしたかった」
言葉が出ない。
何も言えない。
「ねえ悠斗」
「……なんだよ」
「楽しかったよ」
笑う。
「ほんとに」
「……やめろ」
「え?」
「そういう言い方やめろよ」
終わるみたいな言い方。
「まだ終わってねえだろ」
「……」
「これからもあるだろ」
「……」
陽菜が目を逸らす。
「……あと、少しなの」
小さな声。
「え?」
「時間」
止まる。
世界が止まる。
「文化祭まで、って決めてたの」
「……なんで」
「一番楽しい思い出にしたかったから」
「……」
「ねえ悠斗」
「……」
「私ね」
涙がこぼれる。
「怖いの」
その瞬間。
体が勝手に動いていた。
「……バカ」
抱き寄せる。
「……っ」
「一人で抱えんなよ」
「……でも」
「でもじゃねえ」
「俺いるだろ」
「……」
「約束したろ」
声が震える。
「前向くって」
「……無理だよ」
小さく言う。
「こんなの」
「じゃあ俺がやる」
「え?」
「一緒に前向く」
沈黙。
風が吹く。
「……ずるいよ」
陽菜が泣きながら笑う。
「そんなこと言われたら」
強く抱きしめる。
「……っ」
初めて。
ちゃんと。
触れた。
「まだ終わらせねえ」
「……悠斗」
「放課後、全部使い切るんだろ」
「……」
「最後まで付き合えよ」
陽菜が、ゆっくりうなずく。
「……うん」
涙を流しながら笑う。
この日、すべてを知った。
楽しいだけじゃない現実。
終わりがある時間。
それでも――
それでも一緒にいたいと、心から思った。
そして、物語は加速する。
残された時間は、もう多くない。




