第5話 「笑顔の奥にあるもの」
「おはよー!」
「……朝から元気すぎだろ」
教室に入った瞬間、陽菜の声。
「いいでしょ別に!」
「眠いんだよこっちは」
「じゃあ起こしてあげようか?」
「やめろ」
「えー!」
机に突っ伏す。
「ほら起きて!」
「うるせえ……」
「ねえねえ」
「なんだよ」
「今日も放課後、空いてるよね?」
「……空いてる」
「よし!」
嬉しそうに笑う。
「どこ行くんだよ」
「それはねー……秘密!」
「またかよ」
放課後。
「今日はちょっと遠出します!」
「だからどこだよ」
「いいからついてきて!」
また手を引かれる。
「引っ張るなって」
「いいじゃん!」
電車に乗る。
「お前、意外と行動力あるな」
「でしょ?」
「どこまで行く気だ」
「もうすぐ!」
降りた先は――
小さな丘のある公園だった。
「……ここ?」
「うん!」
息を弾ませながら笑う。
「ちょっと登るよ!」
「マジかよ……」
丘の上。
景色が広がる。
街が見渡せる。
「……すげえな」
思わず言う。
「でしょ?」
陽菜が隣に立つ。
「ここ、好きなんだ」
「よく来るのか?」
「うん……まあね」
少しだけ曖昧な返事。
ベンチに座る。
風が気持ちいい。
「ねえ悠斗」
「ん?」
「私さ」
少しだけ声が静かになる。
「こういう時間、大事にしたいの」
「……知ってる」
「うん」
笑う。
でも今日は、どこか違う。
「もしさ」
「ん?」
「突然、会えなくなったらどうする?」
「……またそれかよ」
「いいから答えて」
真剣な目。
「……探す」
「え?」
「探すに決まってるだろ」
「……」
驚いた顔。
「そんな簡単にいなくなるなよ」
「……そっか」
小さく笑う。
「ねえ悠斗」
「なんだよ」
「約束して」
「は?」
「どんなことがあっても」
声が震える。
「ちゃんと前、向いてね」
「……なんだよそれ」
「いいから」
真剣すぎる。
「……わかったよ」
「ほんと?」
「ああ」
「約束だよ」
「……約束」
そのあと。
少しだけ沈黙。
「……なあ」
「ん?」
「お前さ」
「なに?」
「なんか隠してるだろ」
「……っ」
一瞬だけ、表情が止まる。
「別に?」
笑う。
でも――
明らかに不自然。
「いや絶対あるだろ」
「ないってば!」
「あるだろ」
「ない!」
強く否定。
でもその声、少し震えてる。
「……言いたくないならいいけど」
「……」
「無理に聞かねえよ」
「……ごめん」
小さく呟く。
「謝んなよ」
「……うん」
帰り道。
いつもより静か。
「ねえ悠斗」
「ん?」
「今日さ」
「……うん」
「来てくれて、ありがとう」
「……急だな」
「言いたくなったの」
「そうかよ」
分かれ道。
「じゃあね」
「おう」
「明日も来てくれる?」
「……行くよ」
「……よかった」
安心したように笑う。
その時。
ふと気づく。
「……おい」
「ん?」
「顔色悪くね?」
「え?」
「いや、なんか……」
「大丈夫大丈夫!」
すぐに笑う。
「ちょっと疲れてるだけ!」
「……ほんとか?」
「ほんと!」
無理してるの、わかる。
でも――
それ以上踏み込めなかった。
その夜。
ベッドの上。
天井を見ながら思う。
「……なんなんだよ」
あいつの言葉。
態度。
全部が引っかかる。
「……突然会えなくなる、か」
そんなの、あるわけない。
そう思いたいのに。
なぜか――
嫌な予感が消えなかった。
一方その頃。
陽菜は、一人で空を見上げていた。
「……約束、しちゃったな」
小さく呟く。
「ずるいよ、悠斗」
少しだけ、目に涙を浮かべる。
「そんなこと言われたら……」
この時、運命は静かに動き始めていた。
楽しかった放課後は、
少しずつ終わりに近づいている。




