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「君と過ごす、365回の放課後」  作者: 優貴(Yukky)


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第2話 「距離、ゼロセンチ未満」


「遅い!!」

放課後の教室に入った瞬間、叫ばれた。

「うわっ」

「5分遅刻!」

「まだチャイム鳴ってねえだろ」

「気持ち的には鳴ってるの!」

「知らねえよ!」

机にドン、と手をつく陽菜。

「待ったんだからね!」

「頼んでない」

「ひどい!」

頬を膨らませる。

「……来てやっただけありがたいと思え」

「えへへ、来てくれたんだ」

一瞬で機嫌が直る。

「ちょろ」

「うるさい!」

「で、今日は何するんだよ」

カバンを置きながら聞く。

「ふっふっふ」

嫌な笑い方。

「今日はね――」

ビシッと指を差される。

「“寄り道レベル2”!」

「レベル制なのかよ」

「昨日はコンビニだけだったでしょ?」

「まあな」

「今日はもっと遠くまで行きます!」

「どこまでだよ」

「秘密!」

「絶対ろくでもない」

「失礼な!」

校門を出る。

「で、どっちだよ」

「こっち!」

迷いなく歩く。

でも明らかに帰り道じゃない。

「なあ」

「なに?」

「逆方向じゃね?」

「うん!」

「うんじゃねえよ!」

「いいじゃん冒険ってことで!」

「高校生の冒険軽いな」

「軽くていいの!」

しばらく歩く。

住宅街を抜けて、少し静かな道に出る。

「……どこ向かってんだ」

「もうすぐ!」

「だからどこ――」

その時。

「着いたー!」

目の前に広がったのは、小さな河川敷。

夕方の風が気持ちいい。

「……ここ?」

「うん!」

走っていく陽菜。

「気持ちいいよー!」

「子どもかよ……」

でも、ちょっとだけ。

その景色は悪くない。

「ほら来て!」

手を振られる。

「はいはい」

ゆっくり近づく。

「ねえ」

「ん?」

「走ろ!」

「は?」

「競争!」

「なんでだよ」

「いいから!」

「やだよめんどく――」

「よーい、ドン!!」

「勝手に始めんな!!」

陽菜が走り出す。

「……はあ」

仕方なく追いかける。

「遅ーい!」

「うるせえ!」

「全然ダメじゃん!」

「お前が速いだけだ!」

息切れする。

「はぁ……はぁ……」

「体力なさすぎ!」

「うるせ……」

その瞬間。

足を滑らせた。

「うわっ――」

ぐらっと体が傾く。

転ぶ――

そう思った瞬間。

「――っと!」

ぐいっ。

腕を引かれる。

気づいたら――

めちゃくちゃ近い距離にいた。

「……っ」

顔、近い。

近すぎる。

息、かかる。

「大丈夫?」

真剣な顔。

さっきまでのふざけた感じじゃない。

「……あ、ああ」

心臓、うるさい。

ドクドク鳴ってる。

「よかった」

ほっとしたように笑う。

そのまま――

手、握ったまま。

「……離せよ」

「え?」

「手」

「あ、ごめん!」

パッと離す。

でもその瞬間。

少しだけ、寂しいと思った。

「……」

「……」

気まずい沈黙。

風の音だけが流れる。

「ねえ悠斗」

「な、なんだよ」

「今、ドキッとした?」

「してねえ」

「嘘だ!」

「してねえって」

「絶対した!」

「してない!」

「顔赤いよ?」

「うるせえ!」

笑われる。

「かわいい」

「やめろ」

「ふふ」

ほんと楽しそうに笑う。

くそ。

ペース狂う。

「ねえ」

また少しだけ真面目な声。

「もしさ」

「ん?」

「こういう時間、なくなったらどうする?」

「は?」

急に何言ってんだ。

「なくなるって何が」

「放課後とか」

「……別に、なくなんねえだろ」

「そっか」

少しだけ目を伏せる。

「なくならないよね」

その言い方。

なんか引っかかる。

でも――

「ほら!」

すぐに顔を上げる。

「まだ時間あるよ!」

「切り替え早いな」

「楽しまなきゃ損でしょ!」

帰り道。

さっきより、少し距離が近い。

肩が触れそうで触れない距離。

「ねえ悠斗」

「なんだよ」

「明日も来るよね?」

「……行くよ」

「ほんと?」

「約束だろ」

「……そっか」

小さく笑う。

でもその笑顔は、どこか安心したみたいで。

「ありがと」

「別に」

その日から。

少しずつ、確実に。

俺たちの距離は縮まっていった。

触れそうで触れない距離から――

触れてしまう距離へ。

でもまだ、この時は知らない。

この“近さ”が、

いつか一番苦しい“遠さ”になるなんて。

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