第1話 「放課後、強制イベント発生」
「まずはコンビニ!」
「いやだからなんでだよ!」
「いいからいいから!」
ぐいぐい腕を引っ張られる。
「離せって!人見てる!」
「いいじゃん減るもんじゃないし!」
「メンタル強すぎだろ!」
廊下を抜けて、昇降口を出る。
夕焼け。
オレンジ色の光が街を染めてる。
なんか――
「……まぶし」
「え?なに?」
「いや、なんでもない」
「ふーん」
陽菜は気にした様子もなく笑う。
そのまま歩き出す。
隣を。
当たり前みたいに。
コンビニに入る。
ウィーン、って自動ドアの音。
「うわー!最高!」
「何がだよ」
「放課後のコンビニってさ、なんか特別感ない?」
「ない」
「あるの!」
「押し付けるな」
陽菜はカゴを取ると、迷いなく突っ込んでいく。
ポテチ。チョコ。グミ。アイス。
「入れすぎだろ!」
「これは必要経費!」
「どこの会社だよ」
「放課後株式会社!」
「絶対潰れる」
「ひどい!」
笑いながらまたお菓子を入れる。
「お前ほんとよく食うな」
「食べるの好きだもん」
「太るぞ」
ピタッ。
動きが止まる。
「……それ、言う?」
ゆっくり振り返る。
目が据わってる。
「……すみませんでした」
即謝罪。
「よろしい」
満足げにうなずく。
なんだこの上下関係。
会計を済ませて外に出る。
袋パンパン。
「持てよ少しは」
「えーやだ重いもん」
「自分で買ったんだろ!」
「悠斗優しいから持ってくれるって信じてる!」
「勝手に期待すんな!」
「ほらほら!」
押し付けられる。
「……チッ」
「舌打ちした!」
「したよ!」
「感じ悪ーい!」
ケラケラ笑う。
ほんと楽しそうだな、こいつ。
近くの公園に入る。
ベンチに座る。
「はい、開封の儀!」
「なんだよそれ」
「こういうのは雰囲気が大事なの!」
袋をガサガサ開ける。
「はいこれ」
ポテチを差し出される。
「……サンキュ」
「どういたしまして!」
無駄に元気。
しばらく無言で食べる。
風が吹く。
木が揺れる音。
遠くで子どもが遊んでる声。
「ねえ悠斗」
「ん?」
「楽しい?」
「……普通」
「なにそれ!」
「いや普通だろ!」
「普通じゃダメ!」
「なんでだよ!」
「“楽しい”って言ってよ!」
「強制すんな!」
「言って!」
「言わねえ!」
「言って!」
「……楽しい」
「小さい!」
「うるせえな!」
陽菜が満足そうに笑う。
「よし合格!」
「なんの試験だよ」
「悠斗がちゃんと楽しめるかテスト!」
「勝手に受験させんな!」
少し沈黙。
でもさっきの無言とは違う。
なんか、嫌じゃない。
「ねえさ」
陽菜が空を見上げる。
「将来、何したい?」
「またそれかよ」
「いいじゃん教えてよ」
「別に。考えてない」
「えーつまんない」
「うるせえな」
「夢ないの?」
「ない」
「ほんとに?」
「……ない」
即答。
そのはずなのに。
なぜか、少しだけ胸が引っかかる。
「私はね」
陽菜がぽつりと呟く。
「いっぱい思い出作りたい」
「急だな」
「いいでしょ別に」
「まあいいけど」
袋をいじりながら続ける。
「なんでもいいの。特別じゃなくていい」
「……」
「こうやって、お菓子食べて笑うとか」
「……それだけ?」
「それがいいの」
少しだけ、声が弱くなる。
「だってさ」
風が吹く。
髪が揺れる。
「時間って、すぐ終わっちゃうから」
「……」
その言い方。
なんか、引っかかる。
「お前さ」
「ん?」
「たまに変なこと言うよな」
「えーそう?」
「今のとか」
「どこが?」
「いや……」
言葉が出ない。
なんとなく、踏み込んじゃいけない気がして。
「まあいいや」
「なにそれー!」
またいつものテンションに戻る。
「ねえ、明日も来てくれる?」
「は?」
「放課後!」
当然みたいに言う。
「毎日やるのかよ」
「やるの!」
「めんどくさ……」
「えー来ないの?」
またその顔。
じっと見てくるやつ。
「……来るよ」
気づいたら言ってた。
「やった!」
満面の笑み。
ほんと――
ズルい。
帰り道。
並んで歩く。
「ねえ悠斗」
「なんだよ」
「今日、楽しかった?」
「……まあな」
「やった」
嬉しそうに笑う。
「明日はもっと楽しくするね!」
「ハードル上げんな」
「任せなさい!」
胸を張る。
ちょっとバカっぽい。
でも――
そのバカっぽさが、なんか心地いい。
「じゃあここでバイバイだね」
分かれ道。
「おう」
「ちゃんと来てね明日!」
「はいはい」
「絶対だよ!」
「わかってるって」
「約束ね!」
「……約束」
なんでだろう。
その言葉、ちょっとだけ重く感じた。
陽菜が手を振る。
遠ざかる。
その背中を見ながら。
ふと思う。
「……また明日か」
今までなら、どうでもよかった言葉。
でも今は。
少しだけ――
楽しみになってる。
この時は、まだ知らなかった。
この“約束”が、
どれだけ大切で、どれだけ苦しいものになるのか。
そして――
この放課後が、
いつか終わることを。




