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テディベアは夜笑う  作者: 鞠目
第四章
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28/30

その頃の隼人

「ただいまー。隼人どないしたん? めっちゃ疲れた顔してるやん」

 夕方から一時間越えの死闘を繰り広げ、疲れ切って床にぶっ倒れているとテリーが帰ってきた。

「テリー! ちょ、どこ行っててん。珍しく家におらんなー思ったらなかなか帰ってこんし」

「ちょっと野暮用でな」

「野暮用てこっちはめっちゃ大変やってんぞ!」

「ごめんて。でも、なんとかなったんやろ?」

「なんとかなったんかなぁ……」

「なにそれ、自信ない感じ?」

「そらな。だって一匹見たら百いると思えっていうやん」

「え? なんの話しとん?」

「なにって、Gやけど」

「Gて?」

「名前を言ってはいけないあの黒光に決まってるやんけ」

「ごめん、思ってた話と違うわ。詳しく頼む」

 なに言ってんだこいつ。

 わからないけど、話を聞いて欲しかったのでぶつけることにした。


 バイトを終えて家に帰る。

 ドアを開けると、すぐに死骸が目に入った。冬の寒さにやられたであろう、G、いや黒光の死骸が。

 こいつは外部から侵入しそのまま力尽きたのかもしれない。しかし、家にいたが外に出ようとして事切れた可能性もある。それなら大問題だ。だってこいつ以外の生存者が家の中にいる可能性が出てくるからだ。

「出てこいこの野郎! 今なら手加減してやる。出てくるなら今のうちだぞ!」

 家の中に向かって叫ぶ。

 自分でも思う。意味不明なこと言ってるなって。

 虫相手に脅し文句。しかも、手加減ってなんだ。新聞紙を丸めながら自分の発言に呆れてしまう。でも、そんなことはどうだっていい。今は目の前の問題に集中だ。

 台所の電気をつける。

 視界の隅を黒い塊が高速移動する。

「逃すか!」

 おれは黒光に向かって一足飛びで距離を詰め、新聞を叩きつける。しかし、黒光はそれを華麗にかわす。

「こいつ、できる」

 ただの黒光ではなかった。おれの攻撃を紙一重でかわすだけでなく、おれに対して挑発さえしてくる。

『殺せるもんなら殺してみろ』

 そんな言葉が聞こえてきたような気さえした。これまで仕留めてきた黒光とは明らかに違う。

 おれは気を引き締め直した。

 その時だ。凄まじい勢いで細いなにかが首をかすめた。

「危ねえっ!」

 寸でのところで体を捻り直撃を免れる。首に手を当てると薄っすらと赤い血が付いた。この黒光、飛び道具まで使うのか。

「お前、卑怯やぞ!」

 体格差を考えると卑怯ではないのかもしれない。でも、やっぱり飛び道具は反則だろ。

 おれに怒鳴られた黒光は後ろ足で立ち上がると、前足を顔の前で振った。まるで『おれじゃない』とでも言いたそうな雰囲気だった。

「もしかして、お前じゃないのか?」

 黒光に向かって確認しようとしたら、黒光の反応を見る前に首に向かって二撃目がきた。おれはそれを即座に新聞紙で弾く。軌道の逸れた細いなにかが壁に刺さる。飛んでいたのはつるっとした見た目のベージュ色の棒だった。

 ベージュの棒は小刻みに揺れて自ら壁から抜けようとしている。硬そうな見た目。新聞紙では部が悪そうだ。

 おれは台所の引き出しからフライパンを取り出す。右手にフライパンを構えると、壁から抜けた棒がまた飛んできた。

 黒光の能力とかではない気がする。それならこいつはただの部外者だ。そう考えるとすごく腹が立った。

「邪魔じゃボケが」

 飛んできた棒をおれは床に向かって叩きつけた。

 床に刺さる棒。

 おれは間髪入れずにブライパンで横から殴った。すると、棒が乾いた音ともに折れた。おれはとどめを刺すために、折れた部分を上からぶっ叩いた。

 手応えがあった。

 硬いものを押しつぶしたようなしっかりとした手応えが。そっとフライパンを除ける。そしたら床に穴が空いているのに、棒の残骸はなかった。

 なんで? とは思ったけど、それよりも大事なことがあった。

「すまん、待たせた。続きしよか」

 おれは黒光に言った。黒光は鼻で笑うとすぐに後ろ足で立ってやれやれとジェスチャーをした。そしてその後すぐにおれに向かってファイティングポーズをとった。

「いくぞおらぁぁぉ!!」

 おれはフライパン片手に飛びかかった。


「で、激闘の末なんとか窓を開けた時にフライパンで叩き出すことができてん」

「え? 叩き潰さんかったん?」

 呆れるテリー。おれにはどうして呆れられているのかがわからない。

「そんなことできるわけないやろ。黒光とはいえ本気で戦った相手やからな」

「そういうもんか?」

「そらそやろ。少しでも寒さを凌げるように、カイロも三つ黒光をぶっ飛ばした方向に投げたで」

「優しすぎるやろ」

「そうか?」

「逃すだけじゃなくてカイロまであげるとか聞いたことないわ」

「そう言われるとそんな気もするな……」

「てか、首を狙ってきた棒やっけ? ようフライパンで仕留められたな」

「そういやあれなんやったんやろ。邪魔やったから本気で潰したった」

「そこは容赦ないんやな……やっぱり片腕で挑むとか甘すぎんねん」

「なんの話それ?」

「いや、こっちの話や」

 テリーはそう言うとおれを見てけらけらと笑った。おれがその後なにを聞いても教えてくれなかったので、なにがそんなに面白いのかはわからなかった。

「隼人、腹減らん? ラーメンでも食べに行こうや」

「それええな。今からなにか作る元気もないし食べに行こ」

 正直なところテリーが笑った理由は気になる。でも、テリーが満足そうな顔をしていたので、それならいいかとも思った。

「なんか無性に豚骨ラーメンが食べたい気分やわ。早よ行こ」

「豚骨はあり。すぐ準備するわ」

 おれはラーメンを食べに行くために急いで身支度を始めた。


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