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テディベアは夜笑う  作者: 鞠目
第四章
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24/30

崩れる姉妹関係

「テリー……そのテリーってテディベアがこの家にいた証拠というか思い出みたいなのってないの?」

「証拠?」

「そう、テリーが着てた服とか、置いていったものとか」

 いつになく真剣な表情の詩織。冗談みたいな話なのに、私を茶化す様子もなく、正直少しびっくりした。

「テリーが残していったもの……あ、ボタン!」

 忘れてた。

 テリーはいつもジャケットを着ていた。ダブルボタンのジャケットについていたボタン。それがほつれて落ちていたことがあった。

「落ちてた? あ、ええで。それあげるわ。おれのお気に入りやねんけど、特別やで」

 そう言ってこげ茶の木のボタンを一つくれた。艶々とした光沢感が綺麗で、私はアクセサリー入れのすみっこにボタンをしまった。

 テリーのボタンを詩織に渡すと、お礼を言う詩織の顔に笑みが浮かぶ。そして五秒ほど経った時、その笑みは見たことがないほど嫌らしいものになった。


 みーつけた。


 詩織の声。

 詩織の口は動いてなかった。なのに頭の中に探し物を見つけた子どものような声が頭に響く。

 子どもと言っても無邪気な子どもじゃない。標的を見つけた意地悪な女の子のような空気を詩織から感じて、私はちょっと不安になった。

「そうだ! 紗織さ、今度の土日買い物に行こうよ。見たい服があるの」

「また? こないだも行ったところなのに?」

「いいじゃん、行こうよ。SNSで紗織に着てほしいワンピースを見つけたんだよね」

 詩織が家に来てから、私はほとんどの土日を買い物にばかり連れ回される。

 詩織は自分の服はほとんど買わない。私の服ばかり買って、私に着せて、気が済むとフリマサイトで売って、また新しいのを買う。服に興味がない私にとってそれほど楽しい時間ではないけれど、詩織に頼まれるとどうも断れない。

「買い物もいいけど、たまには実家に顔出さない?」

「実家?」

「そう。詩織、うちに来てから一度も帰ってないでしょ? 私もだけど」

 詩織が来てもう半年以上経つ。その間、私はなにかと都合がつけられず実家に帰れていない。そのせいでぬいぐるみたちに会えていないからストレスもたまるばかり。破壊衝動に駆られることも増えてきている。

「実家はまた今度でいいじゃん。いつでも行けるんだから。それよりも買い物に行こうよ。ね!」

「……わかった。でも来週は実家に行くからね」

 詩織の勢いに押し切られる。いつもそうだ。実家にまた帰れない。

 本当は嫌。なのに、どうしてだろう。詩織に言われるといつも拒否できない。


 テリーが出ていき、間を置かずにやってきた詩織。そういえば詩織が来る前に私はアンティークショップで着せ替え人形を買った。

 たまたま入った駅前の小さなお店。ショーウィンドウに飾られていた片手サイズのお人形。買ったはずなのに最近見ていない。どこにしまったっけ?

「ねえ、話は変わるんだけど……」

 詩織に見てないか聞こうとした。

「なに? どうかした?」

「……ううん。なんでもない」

 聞かなかった。

 聞いたところで詩織は知らないだろう。詩織の目を見た途端そう思い、すっと熱が引くように聞く気が失せた。


「売った? 私が?」

 テリーと思われる男性と遭遇してから半月ほどが経ち、久しぶりに実家に帰った私は自分の目を疑った。私の部屋にいたぬいぐるみたちが一つ残らずいなくなっていたんだ。

 リビングまで走って行き、母に私のぬいぐるみたちをどうしたのか聞いた。

 返事を聞いた時、最初聞き間違いだと思った。だって母の口から出た言葉がとてもじゃないけど信じられなかったから。

「だから何度もそう言ってるでしょう。紗織が自分でやってたじゃないの」

「そんなの絶対にありえない! 私がぬいぐるみを手放すわけがないじゃん」

「そんなこと言われても困るわよ。お母さんもお父さんもびっくりしたんだから」

「お父さんは? お父さんはどこ?」

「歯医者よ。帰ってくるのはあと一時間後ぐらいかしら」

「そんな……今すぐ話が聞きたかったのに。でも、私がいない間に私のものを勝手に処分するとかおかしくない?」

「だから、勝手になんか捨ててないってば」

「どういうことよ?」

「何度も同じことを言わせないでよ。紗織が週末に帰ってきてはフリマサイトで売ってたじゃない」

 呆れ顔の母。聞かなくてもわかる。「あんた、なに忘れてんの?」と、顔に出ている。それが余計に腹立たしい。

 私が家族であるぬいぐるみを自ら売るなんてありえない。こんなばればれな嘘をつくなんてどういうつもりなんだろう。

 でも、もし母が嘘をついてなかったら? 母の顔に嘘をついているような雰囲気はない。これが嘘じゃなかったら……。

 私は半年以上実家に帰ってきていなかった。なのに母が言う通り、私が自分でフリマサイトで販売しているとすると、考えられる可能性は……。

「それ、私じゃなくて詩織じゃないの?」

 双子とはいえ母親が自分の子どもを間違える。いくつになってもちょっと嫌な感じだ。それに詩織が私に隠れてそんなことするなんて考えるのもすごく嫌だ。

 母の顔を見る。

 否定してほしい。でも、してほしくない。時間の流れが恐ろしくゆっくりに感じる。


「詩織って誰?」



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