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テディベアは夜笑う  作者: 鞠目
第四章

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別れ。それから再会

 テリーは聞き上手だった。

 今となってはあの日テリーになにを話したか覚えていない。でも、初対面にもかかわらず、私の言葉をちゃんと受け止めてくれたことはよく覚えている。

 大好きなぬいぐるみが私の話を聞いてくれる。そして、ちゃんとリアクションもしてくれる。これは私にとってすごいことだった。

 子どもの頃から夢見ていた。でも、現実ではあり得ないと諦めていたことが実現した。そのことが嬉しくて私は口が止まらなかった。

 話しても話しても話し足りなくて、テリーがずっと家にいてくれたらいいのにな、なんて思った。そしたら気がつけばテリーがうちに住む流れになっていた。

 どういう経緯でそんな話になったのかは思い出せない。けど、テリーが住んでくれると決まった時、泣くほど喜んだ記憶は残っている。

 テリーとの暮らしは楽しかった。

 一緒に暮らしてからもテリーには本当にたくさんの話を聞いてもらった。

 仕事の愚痴、食べて美味しくなかったコンビニスイーツの感想、傘を持たずに出かけたら雨に降られたみたいな他愛のない話……テリーはどんな内容でもちゃんと耳を傾けてくれた。

 たまに困ったこともあった。

 テリーに関西のノリ的なものを求められることだ。

 例えばテリーと食に関する話をした時。

「テリーって私が作った料理をなんでも食べてくれるね」

「そら、出されたものはちゃんと食べなあかんやろ」

「まあ、そうかもしれないけど、そもそも食べたものをちゃんと消化できるの?」

「そらテディベアでも食べ物ぐらい消化できるで。クマやからな」

「クマって……好きな食べ物とかあるの?」

「好きな食べ物なあ……水と太陽光やな」

「はあ……」

「あと霞や」

「霞……」

「いや、そこは『植物かよ!』とか、「 『霞って仙人か!』みたいになにかしらつっこんでくれんと」

「あ、つっこみ待ちだったの?」

「……やめてくれ、そんなこと自分で言わさんとって。こんなん、おれがただのいたいやつみたいやないか」

「あ、ごめん」

「頼むでほんま」

 みたいなことがあった。

 お笑いに明るくないから、つっこみを求められているのかどうかの判断が難しい。それに、ボケてるのかなと思っても、リアクションの正解がわからずつっこんであげることは一度もできなかった。

 テリーはいつも家にいた。私の留守中に出かけることもあったみたいだけど、どうやって外出していたのか詳しくはわからない。

「テリーは出かける時ってどうやって移動するの?」

 一度聞いたことがある。

 家の中をぽてぽてと歩くテリー。テディベアが街中をうろちょろしていたら絶対に騒がれるはずだ。でも、そんな騒ぎは聞いたことがない。

 目立たないように移動しているのか、それともなにかすごい手段を使っているのかもしれない。かなり粘って聞いたけど、テリーはにやりとしながら「それは企業秘密やな」と言うだけで教えてくれなかった。

 男性と結婚したいとは思わない。でも、テリーが人間なら結婚したいと思ったかもしれない。そんな妄想を抱きながら、この生活がずっと続いたらいいのに、そう思っていた。

 しかし、テリーとの暮らしは突然終わった。


「そろそろ行くわ」

 春は出会いの季節と言うが、それは万人に当てはまるわけじゃないらしい。

 今年の春、暖かくなってきたなと思った日曜日、突然別れを切り出された。

「え? 行くってどこへ?」

「ここじゃないどこか」

「夢を追いかける乙女にでもなったの?」

「お! それやんか! できるやん紗織!」

「え? なにが?」

「自覚ないんかい! まあええわ、ちょっとそろそろ違うところ行こかな思ってん」

「だからどうして急に」

「特に理由はないけど、強いて言うなら方向性の違いやな」

「なにそれ、バンドの解散理由みたいじゃないの」

「自分できるやないかっ!」

「だからなにがっ!」

「なんで無自覚やねん! でも、もうええわほんま。ここでの生活も楽しいねんけど、緩やかいうか、もうちょい刺激が欲しいってゆうか……とりあえずちょっと違う感じのところ行こかな思ってん」

「意味わかんない」

「まあそう言うなや。でも、おれがおらんでも大丈夫やろ」

「大丈夫ってなにが?」

「紗織、やばい目をすることもなくなったし」

「それは……」

「大丈夫や」

 反論しようとした。でも、できなかった。いつのまにかテリーが私の目の前まで歩いてきて、目を見た途端頭の中がぼんやりとしていた。

 その後のことはよくわからない。記憶が曖昧なんだ。

 気が付けば私は近所の公園のバザーに出ていて、そしてそこでテリーは私の前から消えた。これまでバザーになんて出たことなかったのに、どうして出店したのかは覚えていない。

 テリーに関して気になることが二つある。

 一つ目は、今はっきりとテリーと過ごした記憶を思い出せるのに、今日まで私はすっかり忘れていたこと。

 ここ数年の記憶がないわけじゃない。仕事もしてたし、歳もとった。でも、テリーと過ごした記憶だけが抜け落ちていた。

 もう一つは、私は今日突然テリーとの記憶を思い出したこと。

 今日、仕事で向かった先で男性と出会った。取引のある旅館に宿泊サイトのデザイン変更の提案に行った帰りだった。

 破壊衝動の発散として、踏切の手前に供えられていた花束を蹴り、ちょっとやり過ぎたかなあと思っていた。誰にも迷惑をかけてないし大丈夫だろう、そんなことを考えていると目の前で男性がボタンを落とした。

 拾ってあげよう、なんて思う前に体が動いた。そして拾ったくるみボタンには見覚えがあった。

「落としましたよ」

 また頭よりも先に口が動く。

「ああ、すみません。ありがとうございます」

 声をかけてすぐボタンを落とした男性は気づいてくれた。

 どこかで聞いたことのある声。でも、会ったことのないイケメンだったので知り合いとは思わなかった。

 俳優みたいにかっこいい人だなあと思いながらボタンを渡す。その瞬間指が男性の手に触れた。そしたら頭の中に電流が流れるような衝撃を感じた。

「あれ、もしかして……テリー?」

 テリー。

 私の家にいたあのテディベア。喋るテディベアとの記憶が一気に蘇る。また、同時に理由はわからないけど、目の前のかっこいい男性を見て「この人はテリーだ」と思った。

「え? ……いや、人違いやと思いますよ」

 絶対にテリーだ。

 根拠はない。けど、私は確信した。

 久しぶりに会ったテディベアはイケメンになっていた。普通ありえないことだけど、しゃべって動くテディベアがいるぐらいだからそんなこともあるだろう。

 想定外の再会に、私の心はかき乱され、感情がめちゃくちゃになった。


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ツッコミの才能あるやんけ!w
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