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幼少期8

8


 次から次へと疑問が湧いてくるものの、答えが出ることは決してなかった。

 わからないことだらけだ。

 何をするべきなのか。どうすればこのモヤモヤとした気持ちが晴れるのか。

 でも、不思議と消え去りたいという気持ちだけは影に潜んでしまった。

 女王に抱き締められたときに『生きていてもいい』そう言われた気がして、希望すらどこかに感じている。

 そんな不確かな事ばかりの中で、たった一つ確かなことがあった。

 冷めきった心の中に生まれた何か。

 わからないことはいくら考えてもわからないものだから、この暖かい何かに従い、育て上げていくことで自分自身を見失わずにいられる気がする。

 迷わずにいられる気がする。

 だから目標を一つに絞り、それだけに専念する。

 専念、といえば聞こえはいいが、要はそれだけを頼りに何も考えないということだ。

 なぜ、どうしてはもうやめよう。

 そうしないと、また辛いことばかり思い出してしまうから。


 とはいったものの、何をするべきなのか決めあぐねていた。

 女王と会ったときに生まれた気持ちであるならば、側にいることでなくならないのではないのだろうか?

 近くにいられる存在。例えば侍従。

 ダメだ。近しい存在ではあるが仕事が多く、側にいられる機会は意外と少ない。

 厩舎係、料理人、庭師。

 ダメだ、ダメだ。侍従より遠くなっているじゃないか。

 それに料理の才能や草木を育てたことがあったか?

 料理は何度か母の手伝いをした記憶があるが、包丁は禁止された。

 上手くやっていたはずなのになぜだろう?

 母が包丁を受け取ると、食材をあっという間に切ってしまう手際の良さに目を輝かせた。

 小気味いい、リズミカルな音が脳内に呼び起こされ、苦しくなる前に慌てて思考を切り替える。 

 もっと踏み込み易く、僕にも才能があって、最短距離で近道が出来るような、例えば


 ━━騎士。


 それも存在するだけで人々に希望を与え、圧倒的な力で襲い来る敵を薙ぎ払い、最も王に信頼されるような英雄。まるで


 ━━━━父のような。


 手配書に描かれた冷たい表情の父の顔が脳裏に浮かぶ。

 クソっ、なんであいつが浮かんでくるんだ!

 あいつは英雄でもなんでもない。ただの裏切り者じゃないか。

 家族も守れず、母さんを殺した犯罪者だ。

 思い出すな。気分が沈んでしまう。

 そうやって、いくら記憶に蓋をしても、どうしたって思い出してしまう。

 じゃあどうすればいい?

 忘れることはできない。消すこともできない。

 

 じゃあ上書きするしかないじゃないか。


 人々の記憶の中で英雄という単語を聞けば、誰でもライオネルを思い出すだろう。

 何より僕自身がそうだ。

 だから超える。父を超える騎士になって過去にする。

 その認識を変えてやる。誰も名前を口にしなくなるぐらい。

 裏切り者の子、化け物、そんな呼ばせ方は二度とさせないように。

 僕が英雄ラインハルトとして、お前達の英雄になってやる。

 母さんが愛してくれた僕を貶させない。そうすることで父さんの罪も……

 やめよう。それを考えるのは無しだ。

 これはあくまで自分と母さんの名誉のためで、あいつは関係ない。

 

 今のままでは到底英雄になどなれない。

 少なくとも薬屋の店主なんかに負けるようじゃ、使い捨ての兵士にすらなれやしない。

 もっと強くならなければ。

 強靭な肉体。折れない精神。

 どちらも手に入れるためには並大抵の努力ではいけない。

 自らを死地に追いやり、死に物狂いで鍛え上げる覚悟が必要だ。

 幸いにもこの血は戦うことに適しており、既に一度死んだ身だ。

 なら恐れることなど何もない。

 もう失わないように、ただひたすら限界を究め続ければいいだけだ。


 ゴミ山の寝床から勢いをつけて飛び起きる。

 もう人々は目の前のことに夢中でこちらに関心が向くことはない。

 外へ向かう足を止めて、振り返り少し目を細める。

 次にここに戻ってくるのは騎士になるときだ。

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