サバイバル3
11
「断る」
「そこを、そこをなんとかお願いできやせんか?」
伸び放題の髭をやかましく主張させて、男は尚も食い下がる。
いい加減にしてほしい。何度同じやりとりをしただろうか。
数日前に見た、見覚えのある御者も髭に続いて捲し立ててくる。
「あんたみたいな男じゃないと出来ねぇことなんだ! 俺達はあんたに惚れちまった!」
勝手に懐かれてしまっても困る。
大体なんで俺が山賊の頭目などやる必要があるというのだ。
目の前にいる男は三人。数日前に荷馬車で子供達を運んでいた奴らだ。
元々両サイドを護衛していた内の一人、髭面がガルド。左サイド担当だった、頭に巻いた赤いバンダナがトレードマークのレック。そして御者だった小柄な男がボルト、それぞれそんな名前らしい。
なにやら、こいつらは元々リーダーだった大男のラットが死んでしまい、金になるはずだった子供達を解放してしまったせいで路頭に迷っているそうだ。
そこで俺に白羽の矢が立った。
新たな寄生先を見つけて、好き勝手してやろうという浅はかな魂胆だろう。
そもそも大の大人が揃いも揃って、俺のような子供に山賊の頭を張らせようとするなんて、どういう感性をしているんだ。
「俺達はなんでもする! 死ねと言われりゃ……それは出来ねぇが、それ以外のことならなんでもやる! どんなことをやるかにもよるが」
そこは死ぬべきだろう。なんでも、といいつつ仕事を選ぶ気満々じゃないか。
「死活問題なんですよ。俺達三人共ラットの兄貴に頼りっきりだったもんで。」
「知るか。勝手にしろ」
「あなたにも責任があると思いますよ。あーあ、兄貴が居なくなって寂しいなぁ」
赤いバンダナがわざとらしく、無責任に揺れる。
なんだこいつは。一丁前に泣き落としなんて使いやがって。
「わかったよ。ただし、条件がある」
「おっ、なんでもしやすぜ、親分」
「誰が親分だ。殺すぞ」
折れたわけではない。実際伸び悩んでいた。
このまま今の生活を続けていても何も変わらない。
頭打ちだ。どんな生活であっても慣れてしまえば案外どうとでもなるもので、既に俺にとっては日常へと変化していた。
だから、こいつらを利用しようと思う。
人を動かす術を学び、統率力を高め、肉体面ではない部分を強化する。
使えるものはなんでも使う。それがこいつらの利用価値だ。
「人道に背くことは一切行わないと誓え」
「は? どういうことで? 殺しも盗みもしないとなると何で食っていきゃいいんで?」
「そうじゃない。殺しも盗みもする。だが、盗むために意味のない殺しをするなと言っている」
三馬鹿は口をぽかんと開けたまま、こちらを見つめている。
なるほど。人を使うというのはこういうことか。
自らの思考を余すことなく伝え、寸分の狂いもなく、行動を抑制し、手足として扱う。
例え理解力に乏しい者であっても例外ではない。
情報伝達が上手くいかないだけで目的は変わり、組織は崩壊する。
「俺達が狙うのは悪党のみだ。そいつらからならいくら盗んだっていい。最悪殺してしまえ」
「おいおい、そりゃまるで……」
ボルトの表情は読めない。
こちらを眺め、片方の眉だけを軽く上げた。口元は笑っているようにも見えるのに、瞳の奥には明確な驚きと、微かな嘲りか賞賛か判別しがたい光が見える。
「それ正義の味方じゃないですか! 山賊とは?」
バンダナが正義の色に揺れる。
「でも、なんだかかっこいい気がしてきやした。悪党である俺達が悪党を狩る。正義の悪党ってことで」
好奇心に目を輝かせたガルドの一言をきっかけに、彼らは180度、一気に視点を変え始める。
浮き足立った三人の姿は、まるで子供のように無邪気で、それでいて荒くれ者らしい荒々しさを残した、奇妙に活き活きとした光景だった。
要するに俺達がこれからしようとしていることは義賊だ。
入念な下調べを行い、汚職や悪事を働く貴族達から奪い取り、余剰分を持たざる者達に分け与える。
「おっしゃぁ! やることが決まったなら俺達の団の名前を早速決めようぜ! これからデカくなる団だ。一丁かっこいい名前を頼むぜ、大将!」
「ホーリーナイト」
「は?」
しまった。さすがにやりすぎたか?
勢いにのって、どうせなら趣味に振り切ってやろうと考えた名前だがダサかったか?
しばらく山籠りしかしていなかったので、一般的なセンスの良し悪しがまるでわからない。
「……ホーリーナイト! かっこよすぎますよ! 悪党を狩る正義の悪党が聖なる騎士!」
「皮肉が効いていて最高に活かしてやすぜ、親分」
「俺たちゃこれからホーリーナイトだ!」
「あんまり連呼するな。これは俺達の魂の名前だ」
何度も大きな声で言われると、少し恥ずかしくなってきた。
ともあれ、こいつらが単純な性格で良かった。
人を扱うという点においては、これほどやりやすい存在はない。
義賊・ホーリーナイト誕生の瞬間だった。




