太医段衡
「ちっ。明日にならないと見られないなんて」杜尋雲は庭の椅子に腰掛け、貧乏揺すりをしていた。
太監から知らせを受けたばかりだった。不満が募る。
効率が悪すぎる。
そう思うにつれ、足の揺れは激しくなり、椅子の肘掛けをパタパタと小刻みに叩いた。
「主子……」若竹が小声で窘める。
杜尋雲は下を向き、遠慮なく大股を開いている自分の足元を見た。元の世界の実家なら、これこそが標準的な座り方だった。
内股を閉じようとしたが、考えてみればこれまでの人生、ずっと気ままに生きてきたのだ。この庭にいるのも自分の下人たちだけである。
「こほん」彼女は自分の股間あたりを指差した。「これ、何かの罪になる?」
若竹は青ざめて激しく首を横に振った。
「罪じゃないけど、ただお行儀が悪いだけ。でしょ?」
若竹は狂ったように頷いた。
杜尋雲は椅子の上でぐったりと脱力した。「なら、このままでいいわ」
「……」
聴蘭と素梅が怯えて若竹の袖を掴んだ。周囲の侍衛たちは、みな視線を宙に泳がせて見ないふりをしている。
「どうしたの? あなたたちがお仕置きでも受けるわけ?」
「主子、侍衛は男子なれば、じっと見つめることは許されませぬ」
「うわあ……」杜尋雲は、足を広げたせいで覗いてしまった自分の足首を見下ろした。
――今の自分は、皇帝の所有物なのだ。
「はいはい、わかったわ。大体の感覚は掴めた」そう口走ってから、この体の元の持ち主である蕭雁綾なら、絶対にこんな話し方はしないはずだと思い直した。
傍らの宮女たちは、ただ俯いて突っ立っている。
「ふぅ」
退屈だ。酒でも飲みながらスマホを弄りたい。
彼女は夕暮れの空を見つめた。「刺客騒ぎがなければ、普段のこの時間は何をして過ごしてたの?」
「主子、普段は他の貴人の方々と碁を打ったり、音曲を聴いたりしておいででした」
「はあ!?」杜尋雲など、駒の動かし方を知っている程度の腕前だ。「しょっちゅう打ってたの!?」
「ほぼ毎日、そのように」
えぇ……?
杜尋雲は目の前が真っ暗になる思いがした。それなら日向ぼっこでもしていたほうがずっとマシだ。
「葉子牌(トランプのようなカード遊び)や麻雀もございます」聴蘭が慌てて補足した。
麻雀なら少しは自信があるが、どうせこっちの世界ではルールが微妙に違うに決まっている。
「はぁ――」
若竹がそっと片膝をつき、杜尋雲の傍らで静かに口を開いた。「主子、どうぞ焦らず徐々に思い出してくださいませ。今は苛立ちを募らせるのが一番毒でございます」
はぁ、意見を言うだけで膝をつかなきゃならない世界か。杜尋雲は若竹を見やり、それから空を仰いだ。同僚たちと集まって上司の悪口を叩き合っていた頃を思い出すが、この世界でそんなことをしたら死罪になりかねない。
上司を「クソ野郎」と罵りもせずに働ける人間なんて、本当に存在するのだろうか?
「主子、お膳のお時間でございます」
杜尋雲がぼんやりしていると、若竹が手を差し出し、蕭貴人がそれに手を添えて部屋へ戻るのを支えようとした。だが雲を眺め飽きていた杜尋雲は、パッと勢いよく立ち上がった。「よし! ご飯だ!」
その場にいた者たちは全員ギョッとした。
食事を運んできた太監も含めて。
杜尋雲は自分の理念を貫くつもりだった。しっかり食べて、少しでも背を伸ばす。特に夜には塩味の乳茶が出る。元の世界では少数民族の郷土料理だったが、北方民族が支配するこの王朝では毎日の必需品らしい。重要なカルシウム源として、できる限り摂取しておかなければならない。
「ねえ、これ御膳房に伝えて。明日はもっと多めにしてって」
「ははっ、必ずやお言いつけを伝えまする」
「下がっていいわ」
宮女たちが食卓の脇に静かに控えている。杜尋雲は努めてタンパク質を多く口に運んだ。「砂糖漬けの果物とかは、もう要らないわ」
「畏まりました、主子」若竹が先頭に立って応じた。
聴蘭と素梅は思わず顔を見合わせた。
「主子、本日のお薬は少々特別でございます」若竹はその言葉を口にする前に一礼した。「太医自らがお届けに上がりますゆえ」
「へえ」杜尋雲は爪楊枝をシーシーと使った。「再検査ってわけね」
爪楊枝の持ち手に施された紅い彫刻を指先でつまんでみる。宮廷の爪楊枝はなんと凝っていることか……市場の経済原理など完全に無視し、使い捨てであることなど露ほども気にせず、まるごと工芸品に仕立て上げている。やはりこの時代は、自分のいた時間軸の清朝と同じく、極めて豪奢だ。
これが何年保つのかは知らないけれど……。
彼女がぼんやりと考えていると、外から太監の甲高い呼び声が響いた。
「太医のお目通りにございます。段衡太医」
「どうぞ、お入り」
杜尋雲は奇妙な抑揚で声を張り上げた。まだここの制度に馴染めていない。しかし、言動に気をつける決心は固めていた。ずっとおかしな振る舞いを続けていたら、精神病扱いされて薬を飲まされ続ける羽目になる。
木箱を提げた太医が部屋に入り、片膝をついた。
「段衡にございます。蕭貴人にご挨拶申し上げます」
「面を上げて」
杜尋雲は彼の官帽の横から覗くもみあげに目を留めた。彼もまた、剃髪はしていない。
それに、その帽子はドラマで見た明朝のものによく似ていた。
段衡は両手で薬椀を捧げ持った。見た目の色合いは、杜尋雲がこれまで飲んできたものと何ら変わりない。彼女はそれを受け取った。
「貴人、無礼をお許しください」
「え?」
彼は唐突に杜尋雲へ向けて灰のような粉を振り撒き、先ほど薬を取り出した箱から色とりどりの紙垂が結びつけられた一本の棒を引き抜いた。そして面を被って部屋の中で踊り始め、口の中で「ううううう」と呪文めいた文句をブツブツと唱え出した。その面に描かれた彩色は人狼に似ており、ひどく不気味だった。
杜尋雲は気まずそうに椀を抱えたまま、心の中で毒づいた。(あちゃあ、科学教育を受けてないとこうなっちゃうのね……)
段衡は棒を高く掲げ、色鮮やかな紙垂を杜尋雲――蕭雁綾の頭上へと垂らしながら、「あああああ」と声を張り上げる。
雷に打たれたような演技でもすべきなのか迷ったが、手元の煎じ薬を見やり、今飲んでおかないと後でまた変なものを撒き散らされて汚れるだけだと察し、一気に飲み干した。
「あああああ、おおおおおおお」
「だいぶ良くなったわ、ありがとう」杜尋雲は目を細めて言った。効果があるのかは分からないが、恐らくこうした儀式は最後までやり切らねばならないのだろう。
案の定、彼女の嫌いな幕が開いた。
太医は彼女の座る椅子の周りをぐるぐると踊り回り、両手を頭上高く掲げて激しく振り乱す。
色とりどりの吹き流しは脆い紙切れに過ぎない。
上下に激しく翻るうち、ちぎれて床に落ちていく。
しかし杜尋雲は咎める声を出す気にはなれなかった。この時代には「精神疾患」も、それに対応する精神神経系の薬という概念も存在しないのだ。これこそが、宮廷において最も有効だと信じられている治療法なのだろう。
杜尋雲は目を閉じ、彼が五、六周踊るのを待った。完全に物音が止んだのを見計らって、ようやく目を開ける。
面をつけた太医が、端座して平伏していた。
「楽にして」
彼は面を外し、丁寧に箱へ戻してから立ち上がった。
段衡は拱手して頭を下げた。「貴人の気血はすでに整いました。これよりは数日ほど静養なさり、決して心労を溜めぬようお過ごしください」
「わかったわ」
「他にご不快な点がなければ、これまでのお薬を再度服用される必要はございません。臣より本日の状況を太医院へ報告いたしておきます」
「ええ」
段衡は再び礼をとった。「それでは、臣はこれにて失礼いたします」
「下がっていいわよ」
「はっ」段衡は薬箱を片付け、腰を折ったまま後ずさりした。
「待ちなさい!」
彼は慌てて駆け戻り、再び膝をついた。
「段太医、あなたは心の病を専門に診ているの?」
段衡は床に伏したまま、わずかに身を震わせた。「そのように……お考えいただいて構いません。臣、臣とて……」
「ちゃんとした本物の医官でもある、そう言いたいわけね」
杜尋雲は、目の前で複雑な顔つきをする男をじっと観察した。彼は唇をきつく噛み締めている。
「明日の朝、ここへ来なさい」彼女は言った。「私と一緒に慎刑司へ行くのよ」
段衡は驚愕して顔を跳ね上げ、すぐに掟を思い出したように、先ほどよりも深く頭を垂れた。
杜尋雲は笑みを浮かべなかったが、何が起きているのかを確信していた。なぜなら、彼女自身もまた医師だったからだ。




