14. 下働きの侍女たちと掃除をするお姫様
※ さあアンヌに扮したデイジー姫の新しい一日が始まります。
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ミーアたちが案じた通り、屋敷の部屋掃除は過酷なものでした。
翌日もコケッコーと鶏が鳴くと、アンヌはミーアたちに起こされて顔を洗い、朝食をとるとすぐさま、お昼の鐘が鳴るまでずっと部屋を掃除します。
あ、アンヌは他の侍女たちとは違い、個室を与えられました。
さすがに子爵令嬢とあって、平民の侍女たちとは同じ扱いはしませんでした。
当時は侍女でも貴族出身者と、平民出身者との階級差は厳しく分かれていました。
「さあ、今日からこれが仕事道具よ。重いけどしっかり持ってね」
とアンヌはリーダー格のミーアに、掃除道具を一揃い与えられました。
アンヌはモップを片手で持ち、肩には箒と塵取り、雑巾や洗剤などを入れた大きな麻袋を担いで、二階の客間から順番に一室一室を三人で掃除していきます。
その他、ハウスメイドはもう一組いて、毎日二組で手分けして、客間の東側と西側に分かれて順に掃除をしました。もちろんお客人がいる部屋は掃除はしません。
必ず扉には掃除をするひし形の印を執事がつけていました。
なにせとてつもなく広いお屋敷です。
客間だけでも十部屋以上ありました。
ようやく三人は午前中に二階の客間が終わると、昼食後は子爵家の部屋も順に掃除をしていきます。
家族の掃除をする部屋は客間ほどは少ないので日替わりの当番制でした。
偶数日はミーアとリン、アンヌの組がします。
また、大奥様の部屋とその弟である当主ロイド・バークリー様の奥様の部屋と子供部屋はそれぞれお付の侍女や乳母がするので、ハウスメイドたちが主にするのは男性部屋でした。
まず、屋敷の主であるロイド子爵様の部屋から順番にします。
ご嫡男のアラミス様、次男のオルド様、三男のダルタニアン様です。
後は、書斎室や応接間、食堂、浴室などです。
大広間は男性の従者たちがしていました。
各部屋は日によって掃除をする日がだいたい決まっていました。
ロイド子爵様は既に近衛騎士団、王都東地区の団長をアラミス様に譲られて騎士団総長という責任者になっておりました。
お二人共、日中は殆ど屋敷にはおりません。
次男のオルド様もアラミス様の下で働いています。
三男のダルタニアン様は、まだ騎士団見習いなので、訓練の無い日は家にいる時もあり二人の兄君たちよりはお暇のようだと、ミーアはアンヌに教えました。
今日は訓練日とのことで、ダルタニアン様の部屋も掃除をする日でした。
ようやくアンヌたち三人は最後の部屋、ダルタニアン様の部屋にやってきました。
これまで部屋の掃除を一度も城ではしたことがないアンヌ(デイジー姫)はヘトヘトになり、腰が痛くてたまりません。
もう入った途端、肩にかけてる麻袋をポンと床に落としました。
「はああ、もう無理だわ~!」
とアンヌは悲鳴をあげました。
そのまま、目の前にあったダルタニアンの書斎用のフカフカの肘掛椅子に、腰をドカッと下ろしてしまいました。
「まあ駄目よアンヌ。ダルタニアン様の椅子に座ってはいけないわ!」
ミーアが直ぐに注意しました。
「だって、もうクタクタなんですもの!」
とアンヌは備え付けのクッションまで手に抱きかかえます。
「まあ、この椅子の座り心地ったら、なんて気持ちがいいのかしら!」
と細い両足をぶらぶらさせました。
「だ、駄目……ですよ。アンヌちゃん、お行儀が悪いですよ!」
とリンも、たどたどしくアンヌを窘めます。
とはいえミーアとリンはアンヌに注意をしても、その口元はとっても優しげでした。
それもそのはず、たった半日の間に三人はすっかり仲良しになってしまったのです。
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最初、ミーアとリンは子爵令嬢のアンヌが、いくら侍女頭のマリラに命じられたとはいえ、自分たちを平民の下働きだと知り、見下すだろうと予想していました。
しかし、アンヌはミーアたちが指示したやり方通り、黙々と真面目に掃除をしたので、二人はその姿にびっくりしました。
それだけ平民出身で異国人のミーアたちは、貴族のアンヌとの身分差を意識していました。
これまでとかく貴族出身の侍女たちは、エリート意識があり、平民の自分たちをぞんざいに扱ってたのです。
──なのに何故?
でもそうですよね。アンヌは貴族どころか王族の姫君です。
この辺りは、本当に不思議です。
それでもミーアは掃除のやり方をアンヌに教えた時、アンヌは「ええ」「わかったわ」と返事は年下の少女にしては生意気だなと少し思いましたが、アンヌが真面目に一部屋一部屋、掃除する姿勢は見習いの女の子そのものでした。
おまけにアンヌには、隠しきれない上品な仕草や容姿の可愛らしさもあり、ミーアとリンは直ぐにアンヌを気に入りました。
一方、アンヌはアンヌで、最初ミーアとリンを見た時、異国人の容姿に驚きはしましたが、笑顔でにこやかに接してくれる二人に安心感を持ちました。
背の高いミーアは黒人ですが近くで見ると、とても目鼻立ちが整ってましたし、小柄の東洋人のリンは少し発音がおかしくても、逆に大人しめのリンのイメージにぴったりでした。
もともと本来アンヌ(デイジー姫)は城にいた時も、けっして侍女たちに傲慢な態度はとっていませんでした。
おかしくなったのは、大人たちが集った初めて参加した舞踏会からでした。
それまでのアンヌ、いやデイジー姫は誰からも愛される少しお転婆だけど、天真爛漫の姫君だったのです。おまけに半分は依怙地になって反発してたけど、半分はお城から逃れたいという演技でもありました。
また、アンヌは姫君なので部屋の掃除などしたことがありません。
それが逆に子爵家の部屋を掃除をするのが新鮮で面白かったのです。
それでも重い机やがっちりした椅子を移動させたり、だだ広い床を磨くのは重労働ですが、ミーアとリンも一緒でしたから、気持ちはそれほど大変ではありませんでした。
なによりもアンヌは、あのいかつい侍女頭のカバ似のマリラに比べたら、年の近いミーアとリンの方が何十倍もマシだと思いました。
いかつい顔のマリラが側にくるだけで、アンヌは、あの大きな口に呑みこまれてしまう恐ろしさがありました。
──本当にあんな侍女頭は王宮にだっていやしないわ!
とアンヌは心底マリラを恐れていたので、彼女の命令は絶対服従と決めたのです。
「へえ、アンヌちゃんはもうお掃除の根をあげたのかな?」
と、突然、男性の声が聴こえました。
アンヌが振り向くと、そこにはダルタニアンが立っていました。
ダルタニアンはくつろいで座っていたアンヌを見て、ニヤニヤしていました。




