15. ダルタニアンの想い人を知ったお姫様
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「へえ、アンヌちゃんはもうお掃除の根をあげたのかな?」
ダルタニアンはくつろいで座っていたアンヌ(デイジー姫)を見て、ニヤニヤしながら三人に近づいてきました。
「「ダルタニアン様!」」
ミーアとリンはそろって驚きの声をあげました。
アンヌも飛び出すように椅子から立ち上がります。
ダルタニアンは以前とは違って、立派な騎士の制服を着ていました。
なかなかどうして──アンヌはダルタニアンの空色の騎士姿がよく似合ってるなと思いました。
その姿に見惚れたのか、アンヌは自分がクッションを抱きしめているのも忘れていました。
「ダルタニアン様、申し訳ありません。今日はお部屋にいらっしゃらないと印が付いて有りましたので……」
ミーアがすかさず深々と頭をさげました。
「いやいいんだよミーア。今日は兄さんたちに急きょ騎士会議が入って、俺みたいな見習いは自由訓練になったのさ。だからサボって帰ってきた」
とまあ、ぬけぬけとダルタニアンは、騎士訓練のサボりをアンヌたちに平然といいました。
「さ……左様で……ございましたか」
リンがあはは、と愛想笑いをしながら返事をします。
「うん、このまま着替えてすぐに庭園に行くから、今日は掃除はしなくていいよ」
「か、畏まりました」とミーアはダルタニアンにすぐお辞儀をすると、
「さあ、掃除はしないで片づけましょう」とリンとアンヌを促して、雑巾や洗剤などの掃除道具をそれぞれ袋につめ始めました。
そのまま三人が部屋を出ていこうとすると
「あ、アンヌちゃんはちょっと来て!」
とダルタニアンがアンヌを呼びとめます。
「はい、なんでしょう?」
アンヌは掃除道具の麻袋を担いだまま、ダルタニアンに近づきます。
「今、君がその袋に入れたクッションさ。それ、お気に入りだから返してよ」
「は?」
「だから、そのクッションだよ~!」
とダルタニアンは口を窄めていいました。
「アンヌちゃん、君はね。僕の肘掛椅子のクッションをその袋に入れちゃったでしょう?」
「え~っ?」
アンヌはハッとして慌てて袋の中を見ました。
中にはダルタニアンがいった通り、絹のフカフカの青緑色のビロードクッションが入っていました。
どうやらアンヌはダルタニアンが突然、部屋に入ってきたせいで、胸に抱いていたクッションを無意識に袋に詰め込んでしまったようです。
「ああ、私ったらなんてことを!」
アンヌはギョッとなって慌ててクッションをダルタニアンに返しました。
「違うんです、盗もうなんてめっそうもない! 私ったら無意識に貴方のクッションを入れてしまっただけなの、どうか許して!」
とアンヌは精一杯言い訳をしました。
しかもアンヌは侍女の言葉遣いまで忘れてしまいました。
これはいただけません。
既にバークリー家の侍女見習いとなった今では、ダルタニアンとアンヌの立場は入れ替わりました。
ダルタニアンはアンヌ(デイジー姫)の護衛ではなく、屋敷のお坊ちゃんであり、主従関係なのです。
それを忘れるほどアンヌは自分のしたことに驚愕してしまいました。
──まさか王女ともあろうものが、他人のモノを盗むなんて……
アンヌの顔は真っ青です。
「本当にごめんなさい、ごめんなさい!」とひたすらアンヌは頭を下げ続けました。
「ククク……アンヌちゃん大丈夫だよ。やだな、顔をあげてくれたまえよ!」
逆にダルタニアンはアンヌの卒倒した顔がよほど面白いのか、笑いをおさえるのに必死です。
「うんうん、このクッションはね~。俺の大切な人の手作りなんだ」
とダルタニアンはクッションを優しく触りながらボソッといいました。
「別に他のならあげてもいんだけどね~!」
「え?」
思わずアンヌはダルタニアンの顔を見つめます。
「あ、いそがなくちゃ……コディのお茶の時間に遅れてしまう!」
そういった途端、ダルタニアンは騎士の制服を慌ただしく脱ぎはじめました。
その時です。──ふわりとダルタニアンから草原の香りと汗の匂いがして、なにかアンヌは魔法をかけられたように、体が膠着してしまいました。
──手作りって……コディ?
もしかして、その青緑色のクッションを作ってくれた人が?
アンヌはふと、先日ダルタニアンが自分をおんぶしてくれた時に『天使』とか『眼に入れても痛くない可愛い娘』といった恋人の話を思いだしました。
「ねえ、アンヌちゃんさあ……」
「は?」
「俺、着替えたいんだ。悪いが早く出てってくれないかな?」
とダルタニアンは苦笑しながらいいました。
それでも黒曜石のようにキラキラした瞳のゆらめきは、心なしかイラついてるのが分かりました。
「あ、ごめんなさい!」
「分かればよろしい」
とダルタニアンは目線で扉を指さしました。
慌ててアンヌは一礼して、一目散に扉に向かって走りだします。
外扉では、ミーアとリンが心配してこちらをみていました。
扉を閉めた後、アンヌたち三人は大きく息を吐きました。
「あ~、びっくりした!」とミーア。
「ほんと……です。突然ダルタニアン様が……びっくりです」
とリンも額の汗をコキコキとハンケチで拭きながらいいました。
アンヌもさっきからドキドキしっぱなしです。
ドクンドクンと心臓の音が、けたたましく鳴り響いているのが、自分でもよく分かりました。
そんなアンヌをミーアとリンが心配そうに見つめています。
「アンヌ、大丈夫?」
「アンヌちゃん……」
「あ、平気よ。でも……」
アンヌはダルタニアンの言葉が気になって、つい二人に訊ねてしまいました。
「──ねえ、コディって知ってる?」
「コディ?」
ミーアが聞き返します。
「ええ、さっきダルタニアン、いえダルタニアン様がコディに会いに行くって……」
「ああ、コーデリアさん……ですね」リンがいいました。
「コーデリアさん?」
「ええ確か……庭師の……トムの奥さんですよ。ね、ミーアちゃん」
「ええ、コディならコーデリアさんだと思うわ」
とミーアも頷きました。
「ええ~! 奥方ですって?」
思わずアンヌは、はしばみ色の瞳を、これ以上ないくらい大きく広げました。
※ダルタニアンの想い人は人妻?
アンヌ(デイジー姫)はびっくりしましたね。
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