13. 下働きの侍女たちと挨拶をするお姫様
※ バークリー家の侍女となったアンヌ(デイジー姫)。
さあ、どんな生活が待っているのでしょう。
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侍女頭のいかつい顔のマリラは、アンヌ(デイジー姫)では、大奥様付の侍女見習いは、とても務まらないと判断しました。
その結果、まずはハウスメイドからさせようと決めました。
つまり屋敷の掃除一般をする侍女で、はっきりいって下働きでした。
本来、下働きの侍女は平民出身者が多く、貴族令嬢はしません。
子爵令嬢のアンヌにしたら、部屋掃除などけしからんと怒るでしょうが、そもそもデイジー姫は侍女に階級があることすら知りません。
もちろんこれは、大奥様の了解を得てでした。
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広大な貴族屋敷で働く侍女ともなれば仕事は分担制です。
一番位が高いのはレディースメイドといい、主(奥様)の身の回り全般する侍女で、侍女の中でもっとも憧れる職業でした。
その他、針仕事が得意ならナプキンやテーブルクロス、子供服やドレスや寝具のレースなどを専門に繕うお針子メイドがいます。
ここまでが花形侍女といってもいい。
侍女になりたい女の子たちにとっても人気がありました。
その他洗濯、掃除、水汲み、厨房の皿みがきなど。多岐にわたって雑務をこなす侍女は下働きとされ、なかなか過酷な労働でした。
バークリー屋敷には侍女は2ダースほどいるので、とっても大所帯ですが、その大勢の侍女たちを一手に取り仕切っているのがマリラです。
そう、アンヌが“カバ”に似ていると思った、いかつい顔の侍女頭は凄い人でした。
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「アンヌ、今日からはこの子らと組んで屋敷の掃除をするように!」
といかつい顔を、更にいかつくしてマリラはいいました。
「ミーアとリン、前へ!」と自分の後ろの侍女たちを呼びます。
「「はい、マリラ様」」
呼ばれた凹凸の少女たちがアンヌの前へスッと立ちました。
二人はアンヌとお揃いの、若草色の侍女服を着ていました。
侍女見習いや下働きの侍女は、ワンピースは若草色のようです。
「アンヌ、今日からはこの二人と一緒に、本邸の部屋の掃除をしなさい」
とマリラはミーアとリンを紹介しました。
「仕事で分からないことは、二人に何でも聞くように。年は若いがミーアたちは、二年以上同じ仕事をしています。既にベテランといってもいい子たちです。アンヌも根をあげないで仕事に励みなさい!」
「はいっ……マリラ様!」とアンヌは条件反射のように答えました。
とにかくアンヌはマリラの顔が恐ろしくて、それだけでビクつくのです。
アンヌにしてみれば、まったく笑わないマリラの大きな口はどこまでも開き、自分の小さい頭なんか、ガブリと呑みこまれる!と想像しました。
それでも──。
「ミーアよ、よろしくね。アンヌって素敵なお名前ね!」
とミーアはアンヌに向かって笑顔満開でいいました。
「私はリン……です。よろしく……です」
とリンはたどたどしい話し方で挨拶をしてくれました。
「あ、初めまして、デイ……あ、アンヌですわ。よろしく……」
といいながらもアンヌは、二人の印象が珍しくて、目をぱちくりさせました。
それもそのはず、ミーアとリンは異国人だったからです。
アンヌよりずっと背の高いミーアは、王国とは別の南方大陸の生まれでした。
年は十六。肌は濃い褐色で、髪も黒いちじれっ毛、大きなこげ茶の眼をしていました。つまり黒人です。
もうひとりの小柄なリンも十六歳です。
彼女は言葉もたどたどしい東洋人でした。
肌は陶器みたいに色白で綺麗な風貌でしたが、凹凸がない平面顔で直毛のおさげです。
リンはひと目で東洋の血の少女だと、アンヌはわかりました。
後で知りましたが、リンは王国人の父と母が東洋人のハーフだそうです。
──まあ、二人共。なんて個性的な顔をしているのかしら?
私、異国の女の子って初めてみたわ、とアンヌは思いました。
デイジー姫時代、異国の大人は王宮の交流晩餐会で何度か挨拶をしたことはありますが、少女の異国人は初めてでした。
そんなデイジー姫、いやアンヌは失礼にもジロジロと二人の顔を眺めてしまいました。
一方、ミーアとリンはアンヌの顔を見て、どこかで見たことのある、誰かに良く似ているなあと思いました。
でもそれが誰なのか、二人はどうしても思い出せませんでした。
なおかつミーアとリンは、アンヌにジロジロ見られても悪い気分にはなりませんでした。
なぜなら『こんなに愛らしい、それも子爵令嬢が私たちと下働きをするなんて……』と内心、同情していたのです。
実は、ミーアとリンは新しく屋敷に来たアンヌが由緒ある子爵令嬢で、それもお城に住む王女様の侍女見習いだという噂を聞いていたからです。
まさかその女の子が、自分達と同じ下働きをするとは思いもよりませんでした。
それにアンヌを間近で見ると、とっても可愛くて二人は見惚れてしまったのです。
確かにアンヌはやせ細ったとはいえ、メイドキャップを被った姿が良く似合い、可憐で妖精みたいに見えました。
お城では殆ど食べなかったアンヌでしたが、ここ数日屋敷ではお腹が空くのか、三度三度食事をきちんと食べていました。
そのせいか、顔色も良くなり、少しふっくらと太ったので、元の愛らしいデイジー姫に近づいてきました。
とはいえ、なれない侍女と偽り、それも下働きなどデイジー姫いや、アンヌは大丈夫なのでしょうか。




