シリーズ気まぐれ読書感想文⑥ 安部公房「友達」は昭和版「世にも奇妙な物語」
初出:令和8年10月5日
気まぐれで新潮文庫の安部公房「友達・棒になった男」を読んでみた。
高校生時代、自分が好きな作家は安部公房だと言うと友人から「『友達』を読んだことないの?」と言われた。安部の代表作でもないだろうし、戯曲とのことでこれまで敬遠していた。
今回読んだ新潮文庫は三作の戯曲が収録されているが、どれもハズレ感が強い。強いて言えば表題作「友達」が当たりをニアミスした感じか。
安部公房は小説は面白いが戯曲は「どれい狩り」ぐらいしか面白い作品はないというのが小生の意見だ。この意見は今回の文庫本読了後も変わっていない。
1.ネタバレあらすじ
①友達
冒頭、ミュージカルのように歌で始まる。歌の歌詞は安部公房自身が作詞。
独身でアパート一人暮らしの若い男の部屋へ見ず知らずの家族が入って来る。家族は両親と三男三女の子供に祖父の九人家族。「孤独はよくない」と九人家族は自分たちが男と同居することを提案。
男は警察に不法侵入だと電話する。
アパートの管理人と警官がやって来るが、男の主張を聴かない。暴力をふるわれたなら警察沙汰だが、そうでほないようだし、不法侵入と主張するが、この大家族と自分が無関係であることを証明できなければ不法侵入は成立しないと警官は言う。アパートの管理人も家賃を払いに来るのはこの男だが、大家族の誰かの金かもしれないと警官に言い、男の主張は通らない。警官たちは去っていく。
男は会社員で課長代理だが、九人家族は男の財布を母に預けるよう命ずる。この家族はすべての財産を母が一括管理する規則になっていたからだ。
九人家族はその夜、ハンモックで男の部屋に泊る。
後日、男は公園で婚約者とデートするが、九人家族の妨害(次女が男と付き合ってるふりをして見せるなど)で婚約者は男との婚約を破棄する。
男はアパートを脱出しようとして九家族に捕らえられる。そして檻に入れられ毒入りの食糧を食べされられ死んでしまう。
九人家族はまた別の人を探そうということになり、男の部屋を出て行く。
②棒になった男
第一幕 鞄
二人の女性がテーブルに座って話し合っている。一人は大きい鞄を持っている。これは彼女の夫から預かった鞄だが中に何が入っているのか知らない。
鞄は様々な音を立てる。動物の音だったり、人の声だったりする。鞄は鍵がかかってるので開けられないが、ヘアピンを鍵穴に挿し込んでみる。
女たちの会話に応じて鞄はしゃべる。最後に鍵が開くが女たちは鞄を開けずにその場を去る。
第二幕 時の崖
登場人物はボクサー一人の一人芝居。
ボクサーの台詞の他、ときどきナレーションが入る。
ボクサーはシャドーボクシングをしながら、愚痴を言い、最後にノックアウトされる。
第三幕 棒になった男
デパートの屋上から棒が降って来る。
下にいた男女のホームレスがそれを拾うと男女の地獄の死者をそれを渡すよう指示する。
ホームレスは渡さない。そこで地獄の死者は1000円で棒を買い取る。
実は息子とデパートに買い物に来ていた父親が突然、棒になったのだ。人間は死ぬとみんな棒になるという設定か。
棒も台詞があり、ときどきしゃべる。
最後に地獄の死者が客席に向かって、あなたたちも棒になると言い、幕が下りる。
③榎本武揚
榎本武明が戦後の日本にタイムリープしてマスコミからインタヴューを受けている。
また榎本自身も自分の死後の日本についてマスコミに質問する。
函館戦争で明治政府に負けた後、榎本は牢屋に入るが、そのうちに明治政府の閣僚に登用される。
だから裏切り者として後世では評判が悪い。
ただしGHQは榎本は危険人物ではないとのことで、明治の元勲のうち、榎本の銅像だけは破壊されなかったとのこと。
気がつくと今のは夢で榎本武明は牢獄で仲間たちとともにいる。
新入りの囚人として新選組の浅井十三郎が入って来る。
二人は仲が悪く、口論になる。
牢番がいなくなると榎本たちは爆薬の設計図などを出し、作戦会議をする。ここを脱獄して再びテロ活動するつもりだった。
また選挙で新しいリーダーを決めることになる。選ばれたのは浅井だった。
すると牢番が入って来て、全員蝦夷地に派遣され開拓に労働をすることになったと告げられる。
2.感想
「友達」は今の時代の人が観たらフジテレビの「世にも奇妙な物語」を思い浮かべるだろうか。
主人公の男が最後、処刑されるのでなく、十人家族になって別の一人暮らしの男を見つけて彼の部屋に侵入するというオチはどうだろう。九人家族ももともとこんなふうにして増えていったというのは。
「棒になった男」は内容よりフォーマットが面白い。
二人芝居、一人芝居といった形式が面白い。また第三幕で客席に呼びかけるのも面白い。
ただし現代人から見れば、どれも中身は陳腐だ。
「榎本武揚」は歴史をよく知らないので楽しめなかった。
ただし沖縄出身の安部公房にとり、日本であって日本でない国の話には関心があるのではないかと邪推した。
箱誰戦争は明治政府と蝦夷共和国の戦争だ。榎本が勝っていれば北海道は日本ではない独立国だった。
沖縄も明治以前は琉球王国。戦後は最初は米国領だったが、1972年の沖縄返還で日本になった。
本土の日本文学とはテイストが違う非日本学。これが安部文学の個性にも魅力にもなっているのかもしれない。
(つづく)




