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どうでもいい話 脱力エッセー  作者: カキヒト・シラズ


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シリーズ気まぐれ読書感想文④ 僧正殺人事件 vs アクロイド殺し vs そして誰もいなくなった <ネタバレミステリー三昧>

初出:令和8年9月9日



 以下の文面には有名ミステリー作品のネタバレが多数ありますので、読む場合は自己責任でお願いします。

********************


 さて、ヴァン・ダイン「僧正殺人事件」、アガサ・クリスティー「アクロイド殺し」「そして誰もいなくなった」を立て続けに読んだ。

 学生時代、本格ミステリーオタクを自認していた小生も、気づけば有名な古典をのきなみ読んでいなかった。「そして誰もいなくなった」などは映画でストーリーを知っているので、知っているつもりでいた。


 最近、アマプラで「十角館の殺人」を観たのが本格ミステリー熱が高まった直接の原因だと思う。

 原作の綾辻行人の小説は、90年代の文庫新刊時に読んでいる。

 ミステリーには映画やドラマのような動画でこそ表現できるトリックもあれば、小説のような活字メディアでこそ表現できるトリックもある。綾辻自身がテレビで語っていたが、小説という形式を利用したトリックに興味があるとのこと。「十角館の殺人」も活字ならでは表現できるトリックを使っている。

 ところがこの配信ドラマでは、「活字でしか無理と思われるトリック」を映像で見事に表現してしまっている。

 具体的には二人の人物が同一人物だったというオチなのだが、小説なら名前を変えれば別人だと読者はすぐ騙されてしまうところ、映像表現ではどうか。

 同じ俳優が二人を演じているものの視聴者には最後まで別人だと思わせる。一人の俳優が髪型や服装をかえ、片やオールバックで革ジャンのイケメン、片やぼさぼさ頭のオタクなのだ。演じた俳優がもっと有名人なら両者が同一人物であることがバレたかもしれないが。

 この配信ドラマが凄いのはここであり、これは原作者でなく映画製作者側の功績ではある。


 それはともかく、ヴァン・ダイン「僧正殺人事件」であるが、アニメ「パタリロ」のクックロビン音頭の元ネタがこの小説だったことに気づいた。

 「誰が殺したクックロビン」が登場するのだ。さらに言えばこれはもともとマザーグースの歌詞で、マザーグースの歌詞の通りに見立て連続殺人が起きるというストーリーだ。

 見立て連続殺人といえば、やはりマザーグースを使った「そして誰もいなくなった」も有名だろう。

 日本では横溝正史「獄門島」が松尾芭蕉の俳句で三つの見立て殺人が起きる。横溝は「僧正殺人事件」や「そして誰もいなくなった」をパクったのだろう。

 小生がお気に入りの小説ではウンベルト・エーコ「薔薇の名前」がある。これは新約聖書のヨハネの黙示録を使った見立て連続殺人が起きる。

 ヴァン・ダインのライバル?、エラリー・クイーンとくらべると、ミステリーの元祖、エドガー・アラン・ポーから引き継いだ衒学的貴族趣味、高踏にして高尚といった趣があり、これはエーコ「薔薇の名前」にも受け継がれている。そこへ行くとエラリーが描く謎解きオンリーのパズル小説は”薄っぺらさ”が目につく。

 ただし今回読んでみると、本作に登場する数学の蘊蓄は退屈で無駄だったような気がしないでもない(登場人物が軒並み数学者だ)。


 ヴァン・ダインはこれまで「グリーン家殺人事件」だけしか読んでない。

 この小説でも二人の少女(名前は失念、AとBにする)が出てくる。クライマックスシーンで車で犯人を追いかけたところ、少女Aが犯人かと思いきや、犯人は少女Bの方だったというオチだったと記憶している。

 本作では数学者の親子(ただし子供は養子)が出てきて、息子の方が犯人かと思いきや、実は父の方が犯人だった。このどんでん返しも「グリーン家」に似ている。

 さらにラストがとんでもない。犯人の父がワイングラスに毒を入れて息子を殺そうとしたところ、名探偵ファイロ・ヴァンスがグラスを入れ替え、犯人が飲んで死んでしまうのだ。

 探偵が犯人を毒殺するというラストはエラリー・クイーン「Yの悲劇」も然り。

 ちなみにアニメ「名探偵コナン」はのきなみ登場人物の名前が著名なミステリー作家名や探偵名だったりするが、ヒロイン役「灰原哀」はファイロ・ヴァンスから来ていると小生は”推理”した。


 「アクロイド殺し」だが、速読のため、細かいストーリーはよくわからなかった。

 アクロイドという地主が殺害されたが、放蕩息子が犯人ではないかといったミスリードがなされる。だが名探偵ポアロが最後に登場人物を集めて「この中に犯人がいます」と言ってから、息子が犯人でないことがわかる。

 この小説の最大のトリックは一人称小説の語り手の「私」が犯人というオチのようだ。

 今どき「私」犯人ミステリーは珍しくないかもしれないが、その元祖だがらエラいのだろう。

 ちなみに「アクロイド殺し」の犯人が語り手の「私」なら、中井英夫「虚無への供物」は読者である「あなた」が犯人という、ぶっ飛んだオチだ。


 「そして誰もいなくなった」は孤島に閉じ込められた10人の男女が一人ずつ殺されていくという話。生き残っている誰かが犯人か。それとも別の殺人鬼が島に潜んでいるのか。

 映画では最後に主人公の女性とイケメンの彼氏が二人だけ生き残り、犯人の判事が服毒自殺してめでたし、めでたし、というパターンが多い。この他、主人公が首を吊り、島には誰もいなくなったというラストのドラマもある。

 原作小説では、女性主人公が首を吊った後、後日談がある。実は犯人の判事が事件の真相を書いてビンに入れて海に流し、自殺する。それを拾った船長が警察に届け出るという話。

 冒頭で紹介した「十角館の殺人」だが、ドラマでは犯人が自供した手記をビンに入れて海に流したところ、子供がビンを拾うというラストだ。これに対し、綾辻行人の原作小説では探偵役の島田潔がラストにこのビンを拾ったのではないかと記憶している。

 この結末は「そして誰もいなくなった」のパクリか、はたまた綾辻のアガサへのオマージュか。


 学生時代、アガサ・クリスティーは「ABC殺人事件」しか読んだことがなかった。ところが最近この作品のトリックをパクった日本のミステリードラマを見て腹が立った。

 いずれにせよ、後進のクリエイターたちにパクられるからこそ、アガサは巨匠なのかもしれないが。


(つづく)


 

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