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どうでもいい話 脱力エッセー  作者: カキヒト・シラズ


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ライダーマン vs ファーストガンダム ビルディングスロマンの人気

初出:令和8年4月25日



 さて、「どうでもいい話」シリーズだが、今回は「ライダーマン」と「ファーストガンダム」についてビルディングスロマンの観点から述べてみたい。



1.ライダーマンはビルディングスロマン


 ライダーマンというのは70年代の特撮番組「仮面ライダーV3」に登場する脇役キャラだ。

 V3は仮面ライダーシリーズでも人気、あるいはテレビ視聴率が最も高かった作品の一つらしく、小生も子供の頃、よく見ていた。

 数年前、ライダーマンを演じていた俳優が40代くらいで急逝したので追悼の意味でネット動画でライダーマンが出てくるV3の回が話題になった。と言うかライダーマンの人気自体がなぜか急上昇した。

 ライダーマンは最弱の仮面ライダーという設定で、リアルタイムで観ていた少年時代の小生にはあまり思い入れはなかった。と言うか、あまり好きなキャラでなかった。

 ところが大人になった自分がネット動画でドラマを再確認してみると、ライダーマンは実に魅力あふれるキャラクターなのだ。大人から観たら人気ナンバーワンになりそうな仮面ライダーがライダーマンだ。


 ライダーマンのどこがいいのか。それはドラマのストーリーがライダーマンの成長物語、ビルディングスロマンになっているからだ。

 ライダーマンは戦闘能力が弱いだけでなく、人間的な心の弱さを持っている。悪の組織「デストロン」の首領に恩義があり、デストロン側につくか、正義の味方であるV3側につくか、常に思い悩む。

 こうした苦悩を経て、回を追うごとに一人前の仮面ライダーに成長していくのだ。


 70年代、「仮面ライダーV3」放送時とほぼ同じ頃、「どっこい大作」というテレビドラマがあった。こちらは子供向けというより家族みんなで見るためのファミリー向けドラマで、子供向け特撮ドラマにくらべ、やや大人向きのストーリーになっている。

 どっこい大作は、田舎から出てきた青年で、ラーメン屋でバイトしたり、清掃員になったり、職を転々とするフリーター。最初はうだつが上がらないが、主人公はめげずに努力を続け、最終回までには日本一のパン職人に成長。田舎の母親や妹を安心させ、錦を飾るというサクセスストーリー。

 当時、パン屋に行くと「どっこい大作」のポスターが貼ってあった。「日本一のパン屋を目指します」のキャッチコピー。パン業界とテレビ局が提携していたのだろうか。


 「どっこい大作」の視聴者は主人公のダメンズぶりを見て親近感を抱く。職場や学校で自分はあれぼどダメンズではないかもしれないがデフォルメすればあんな感じ。おれはどっこい大作だ。そう思ってドラマを見続けると最終回までには主人公はヒーローに成長している。それを見て視聴者はおれだってどっこい大作みたいにがんばればできるかもしれない、といった気持ちになる。だからビルディングスロマンは人気がある。


 ライダーマンもどっこい大作ほどではないが、ビルディングスロマンの片鱗を感じ取ることができ、子供はともかく大人が視聴すれば好印象を持たれやすいキラクターなのだ。



2.ファーストガンダムはビルディングスロマン


 数年前、NHKで「機動戦士ガンダム」シリーズの40周年記念番組?をやっていた。

 富野由悠季監督がインタヴューで「40年間、ガンダムシリーズが人々に愛され続けたことはありがたいが、それ以上に40年間、われわれスタッフがファーストガンダムを越えられなかったことへの忸怩たる思いの方が強い」というような内容を述べていた。

 ファーストガンダムはシリーズ第1作の「機動戦士ガンダム」を指す。小生は中高生時代、ほぼリアルタイムで同作品を観ていた。


 ところでファーストガンダムの魅力は何か。

 いろいろあるが、一つには主人公アムロのビルディングスロマンになっているところが、それまでのロボットアニメにない特徴の一つだろう。

 番組開始当初、アムロはガンダムの操縦が下手だった。下手だがマシンが最新式の高スペックなので、戦闘では敵にかろうじて勝てた。敵からも味方からもアムロはダメな操縦士として馬鹿にされていた。

 しかし最終回までにはアムロは名パイロットに成長しており、仲間内からもリスペクトされるようになっている。

 ファーストガンダムはビルディングスロマンだから人気があるのだろう。



3.世界文学のビルディングスロマンについて


 ところでビルディングスロマンという語だが、もともと西洋の近代文学から発生したものだ。

 最近読んだチャールズ・ディケンズの「デイビッド・コパフィールド」はビルディングスロマンに分類されるのだろうか。

 この小説で面白かったのは主人公コパフィールドの人生ドン底の時期。ホームレスになり、伯母の屋敷を目指してロンドンからドーバーまで徒歩で長距離旅行をする場面だ。徒歩なので数日かかり、途中、野宿して過ごす。

 ところが伯母に引き取られてからの人生は豊かになり、経済的に人生はほぼ順風満タンとなる。

 主人公は大人になり作家として成功するが、このへんの苦労話は何も書いておらず、ビルディングスロマンとしては小生は少し物足りないというのが正直な感想だ。

 主人公は結婚を2回する。最初の奥さんは美女。2回目の奥さんは不美人だが自分にやさしい。

 ”嫁は外見より中身で選べ。”

 これがディケンズ先生が訴えたかった人生訓か。それを悟った主人公は大人に成長したという意味か。


 マルセル・プルーストの小説「失われた時を求めて」も最近読んだ小説だが、これは逆ビルディングスロマンに読める。

 つまり人間が成長する様子を描くというより、人間が老いてダメになっていく様子を描いた小説だからだ。

 子供時代、あんなにりっぱに見えた大人の貴族たちと彼らが集う社交界サロン。

 ところが主人公=プルーストが40歳を越えると、80代になった男爵がよちよち歩きになっている。

 若い頃、憧れの美女だった貴族の婦人たちも老婆になって容色が衰えている。

 そもそも社交界自体がすばらしいものでなく、貴族たちが自分の知識をひけらかしてマウントを取り合う場になっている。さらにゲイの貴族が大勢いる。そこまではいいのだがゲイの貴族の中には、庶民が通うようなマフィアが経営する地下の風俗業界と関係している者もいてSMプレイを楽しんでいる。

 こうなるとかつての社交界サロンへの憧れは消えてしまう。

 こういうことに40歳になってようやく気がついた主人公=プルーストの精神的成長。これを描いたビルディングスロマンが「失われた時を求めて」かも知れないが。


(つづく)


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