最終三部作・Ⅲ 異世界防衛戦線
「よっ、と」
「やっぱり田舎から荷台をずっと引きながら歩くのは…疲れるな」
大量の荷物が乗った荷台をゴトンと置いた少年は「スカス・マダ」、ひょんな出会いから大いなる運命に巻き込まれる今はまだ何の力もない少年である。
「さてと、まずは寝泊まりする場所を探さなきゃなぁ。」
ゴルダラ王国の城下町を適当に歩く、この町の住民のほとんどは兵士で、建たっている一軒家のほとんどが兵士の家族がほとんどだ。
このゴルダラ王国は永世平和を謳っているが、こんなにも兵士を雇っているのには訳がある。
この国にはやたらとドラゴンが多いんだ。それを駆除するために自ら兵士を志願するものが大半だけど、噂によればこの国の隣国に勢力を拡大しようとする計画もあるらしい。
こんなののどこが永世平和だよ、国王は領土獲得を描き、そこら中にドラゴンが飛び交っていて。正直この国はちょっとだけ危ない側面があると思うんだ。
「うん?あれは…」
少し足を止めてみる、そこには妙な人だかりと黒髪黒目のあからさまな異邦の少年がいた。
「うわー!すごーい!」
あれは恐らくあれだろうか。近頃噂になっている未来人とやらだろうか、よくのわからない大道芸人のような技を繰り出し、荒れた人間を訳の分からない論法で説得したつもりになってその上周りの女の黄色い声が鼻に付く。
流石に未来人と聞いて僕も興味がないわけではない、とりあえず名前を伺ってみる。
「君の名前はもう知っているよスカス・マダ…」
!?、嘘だろ…俺の名前を先手取って言われてしまった…なんなんだこいつ、まるで意味がわからない。
「俺は如月烈火…お前を殺す男だ」
「如月様も冗談がキツイわね」
「いいや、俺は本気だ。お前をここで殺す」
すると情け容赦なく、如月は斬りかかる。スカスは反射的に攻撃を受け止めた。
「なんだいきなり!?俺が剣を持ってなかったらお前殺人罪で捕まっちまうぞ!?」
「捕まる…?クックック…俺がこの国の牢屋から出られないとでも思っているのか?」
取り巻きの女は、今までと形相の違う如月に愕然とする。思っていた如月烈火像が一瞬のうちに崩れ落ちてしまったのだから…
「燃え尽きろ!スカス・マダ!!喰らえブレイザー!!」
「うわぁっ!?今度は火炎放射かよ!!」
瞬間、スカスは魔法を見ると全てを思い出す。鍛冶屋の弟子になって…戦争に巻き込まれて…師匠が死んで…ツジゲン帝国に連れ去られて…魔法の修行をして…僕は今、最後の戦いに挑んでいたことをーーー
「冗談じゃない!こんなところで巻き戻されて、ウダウダやっているほど待ってられない」
すると、周りに映し出されている世界は、瞬時に動き出されて行くーーー
「や、やめろ!、時間よ、うごくなーーー!!」
如月の無下な叫びがこだまする。せっかく過去に時を戻す力を再び元に戻るのが、とてつもなく悔しいのだろう。
そしてまた、ゴルダラ城の屋上に辿り着く。
「…これでわかったよね如月。どんなに逃げたって、現実は迫って来る。」
「……認めない!俺はこの世界が楽園なんだ!!現実になんか…戻ってたまるかよ!!!」
再び如月は、剣を握り、ジョンに攻撃を仕掛ける。
戦いは熾烈を極め、魔法の力で宙に浮き、ゴルダラの上空で決死の空中戦が繰り広げられる。
「あれが…如月烈火の魔法…」
とてつもない力を目の前に、スペクは愕然とする。宙に浮く魔法なんて、普通の修行じゃ到底無理だ。
一撃、二撃と閃光だけが上空できらめく。早すぎて常人では視認することすら敵わないからだ…
その高速戦闘の中で、二人は争いを続けている。
「現実から逃げ続けてどうするんだ!?妄想に耽っているだけで前に進めると思うな!!」
「黙って俺に殺されればいいんだよ!!てめえらまとめて俺がぶっ殺してやる!!!」
「もし殺してどうなる!?それが正しい世界と言えるのか!?それよりもっと大切なことがお前にあるんじゃなかったのか!!」
「俺にそんなものはない!!俺はもう死んだ!この世はもう存在していないんだよぉ!!」
「それは違うぞ如月…いや田中!!」
「え?」
そう、田中浩は死んでなどいなかった。
それは何故そう言い切れるのか、スカスやツジゲンの者たちは、無職の男の夢を見ることがあるのが紛れも無い事実だ。
その夢は、夢ではなくてスカスやツジゲンの者たちが憑依して、現実の田中浩の動きに反映されるようになっている。よって、田中浩は孤独死などしていない。どちらかといえば、孤独死一歩手前の状態にあるのだった。
「まだ諦めちゃダメだ!!こんなちっぽけな、異世界なんかに閉じこもっていたらお前自身が死んでしまうぞ!!」
「知ったことかそんなもの!!俺は…あんな現実に戻るくらいなら死んだほうがマシだ!」
鬼気迫る空中戦闘の果てに、一歩甘かったのか、スカスが先に振り落とされ、再び城の最上階に叩き落される。
「ぐっ…」
「フッ…一手甘かったな。その状態なら、すぐには起き上がれないだろう」
飛行状態を解除し、同じ最上階に降りた如月が、一歩、また一歩とスカスの側に迫り来る。
その頃、戦いを終えたジョンが、スカスのいる最上階へと螺旋階段を頼りに登っていく。
「待ってろよスカス。この剣さえあれば、あの如月にかなりの痛手を与えられるーーー」
魔法を断ち切る剣、マジク・ソーディア。これさえあれば、魔法が頼りの如月に痛烈な一撃を与えることができる。何としてでも、この剣をジョンのもとへ運ばなくては。
如月がスカスに最後の一太刀を浴びせる、だが、その一撃も間一髪のところでスカスに防がれる。
「ぐっ、まだそんな体力が残っていただなんてな」
「僕たちブロンダの人々を舐めないでもらいたいね」
戦いはまだ続く。スカスの剣に弾かれながら、ブレイザーを三発撃ち込む。
スカスもそれに応じるように、ウォーターウォールで火の攻撃を防ぐ。だが、その障壁は一瞬のうちに爆発するかのように水蒸気が散り散りに広がった中から、煙が尾を引くように、スカスが如月の下に迫る。
「おりゃあっ!」
スカスが剣を如月に振り下ろす、だが、そこにはもう如月の姿は居なかった。
「何!?」
「こっちだよ」
その声が聞こえたのは、後ろからだった。
反撃する間も無く、如月の攻撃がスカスに直撃する。
「呆気のない最期だったな、スカス。まあ、お前ほどの強敵はどこにも居なかったけどね」
「こっちを向け如月!!今度は俺が相手だ!」
「…ほう、ジョン・ブレイダ。アスタ・ラングスを倒し、ここまでたどり着いたか」
「お前に魔法は無駄だってことはわかり切っている。正々堂々立ち会おうじゃないか!」
隊長との戦いかの如く、再び剣戟が鳴り響く。
こんなものじゃ、スカスが死んでいるなんてことは絶対にない。そう思える確信がジョンにはあった。
だから、如月と闘うことを選んだのは他でもない、スカスが目を覚ますまでの時間稼ぎを狙っての行為だ。
「フッ…お前、本当は龍と人間のハーフだったんだろう。」
「それがどうした!!」
「その事実が世間に明るみになれば、お前を人として認めるものは誰一人としているはずがない!ここで、俺に殺されれば楽に死ねるだろう!!」
「知ったことか!!俺に楽に死ぬなんていう選択肢はねぇんだよ!どんなに足掻いてでも、俺は俺の明日を掴んでみせる!!!」
「ふん、お前程度の存在に、明日なんてあるとは考えられないがな!!」
如月の気迫に負け、ジョンは剣を手から離し、途方へ飛んで行ってしまった。
「マ、マジク・ソーディアが!!!」
「お前の負けだ、ジョン」
「さあ、俺の為に首を捧げるんだ。」
「それだけは絶対に嫌だね。なぁ!!そうだろスカス!!」
すると、背後にいたスカスに気づかなかった如月に、マジク・ソーディアが突き刺さる。
「ぐあああああ!!!俺の!!俺の魔力があああ!!」
「これで完全に…お前の負けだ!!!」
異世界は守られたーーーー
ここまで追い込めば、あとは殺さず、真の目的を行うだけだ。
「なぁスカス、そういえばこいつをどうやってこの世界から追い出すんだよ?」
「あぁそれはね、マジク・アルケミスが最期に創り上げた魔法が頼りになってるんだよ。」
それは、マジクが元より研究していた空間転移魔法の応用が利用されていて、この世界に次元の穴をこじ開けて、その穴の中に如月を放り込む。そうすれば、如月を元の世界に戻すことができる。
「ふーん、で、その魔法の名前はなんていうんだよ」
「ソル・クロムフォール」
そう唱えると、空から光の輪のようなものが形成され、その中から光を放つように真っ白な空間が見えるようになっている。
その姿は、アルリ・ツジゲンの元へも見えていた。
「ほう、これがソル・クロムフォールか。マジクの魔法の完成形が美しいものだとはな…」
「戦いが…これで終わるのね…」
「ああ、わしらブロンダの勝利じゃ。」
光の中へ、如月は吸い込まれていく。
「なぁ、スカス君」
「何?」
「…もう一度、俺はやり直せるかな。」
「ここではやり直すなよ。せめて、君の世界で君は生き続けて見せればいいと、僕は思うよ」
「…そうか、だったら、あともうちょっとだけ、頑張ってみるよ。」
「さよなら、如月。」
「ああ、スカス。」
すると、光の中へと如月は消えて行った。
この戦いはのちに、ブロンダ革命と呼ばれる戦争として語り継がれるものになる。最初で最後、ツジゲン帝国とゴルダラ王国が手を組んで戦を行なっていたものとして。
ブロンダ革命から数ヶ月後、ソルアス・ゴルダラは如月と協力していたことがバレて、ギロチンによって処刑され、ルナス新女王としてゴルダラを率いることとなった。
スカス達はゴルダラ王国の復興に勤しんでいた。
その復興に当然のようにツジゲン帝国も協力をしていたが、ほとんど終わりかけのその日、ツジゲン帝国がこの国から離脱することを表明した。
「ここから我々が助けてやれることはもうない。我々は一時的に手を組んだに過ぎない。我々にだってやることがあるからな」
アルリ帝王がルナス新女王にそう告げる。
「ええ、やはり貴方達と組んでいるのに少し違和感を感じていたのでちょうどよかったですわ」
だが、スペクは少しだけ意見が違っていた。
「いや、私はこの国に少しだけ残らせてもらう」
「スペク、どういうつもりだ。とりあえず説明してもらおう。」
「この国の体術は馬鹿にできたものではありません、我々の軍の欠点は、体術の会得に欠けているという点です。それを補う為にも今一度、私の勝手をお許しください。」
「体術の会得…か。」
「いいだろう、許可する。但し、必ずツジゲンに戻ってくるようにな」
「ありがたき幸せ。」
「では、我々は失礼する。ルナス新女王陛下、次に我々と会うときは、敵同士ということをお忘れなく。」
すると、ホウキを持った兵や飼いならされたドラゴンが一斉にツジゲン帝国へと羽ばたいて行った。
「…スペクさん、貴女は残ってくれるんですね」
「スカス、勘違いするんじゃない。これは技術留学だ。お前のためにこの国に残ったわけではないぞ」
「ははは!スカスの野郎、ツジゲンに彼女見つけてきやがったな?」
「ジョン、次の仕事があります。こんなところでうつつを抜かしている暇はありませんよ」
「…こっちはより肝が座り過ぎてる感じだけどな」
異世界の戦いは、これからも続く。異なる世界といえど、そこには文化がある。戦がある。人の物語は紡がれていくものなのだ。
そこには、人の流した血と汗と愛と勇気と知恵が詰め込まれている。どんな世界にだって、それは溢れかえるほど存在している。その事実には、現実にだって変わりはない筈だ。
それこそが、永遠に変わらない『世界』と言えるものだと言えるのではないのだろうか。




