最終三部作・Ⅰ お前の恨みはここにある
ジョンたちは、城を目指すべく、さらに進軍を進める。第二波は来ないようで案外順調に進んでいる。
「まさかこんなにあっさりとやられるとはな…ゴルダラの兵はここまで衰えていたとは」
「いや、まだですよ長老…こんなのは恐らく初陣にしか過ぎません…如月が次は来ます」
「如月ねぇ…」
ブロンダの勢力は、もうすでにシルバリーまで侵攻することに成功している。碌に兵士を配置していなかったためか、この勢いならあと数日でゴルダラまでたどり着いてしまう勢いだ。
だがそんな中、地平線の向こうから騎兵隊が迫り来る。
「…ついに来やがったか」
「ここからが本番ってわけか。気を引き締めていかねぇとな」
「当然じゃ。今度こそあの時の仕返しをしなければな」
遠方から迫り来るゴルダラの兵は当然のごとく矢を放つ、いくつかの矢はブロンダの兵に当たるものの、大概は剣によって弾かれる。
だが、無情にも如月の魔法がこちら側に放たれる。
恐らくそれはブレイザーの強化版と言ったところだろうか、広範囲にダメージを与えられるだろう。
「危ない!!」
火がこちら側に着く前にジョンが目の前に庇うように咄嗟に出てくる
「この剣で…どうにかできれば!!」
希望を託すようにマジク・ソーディアを振るう。すると、見る見るうちに炎が吸い込まれ、巨大な刃と化す。
「へぇ、こいつはすげぇ!早速ぶちかますか!!」
巨大な炎の刃がゴルダラの軍に放たれる。
「ぐわぁっ!!」「くそっ!なんだありゃあ」「うわぁあ!」
ゴルダラの兵は戸惑いを隠せない。まさかあのブロンダに魔法を利用した技術が存在していただなんて誰一人として想像をしていなかったからだ。
「クソッ!おのれジョンまで俺の行く手を阻んでいくのか!ふざけるな!ソル・ファイ!!」
怒りに任せて如月がソルファイゲンを放とうとした所を隊長が制止する。
「やめておけ如月。今のお前は冷静さを欠いている、それにあの技は恐らく魔法を利用した技術だ、そのソルファイゲンとやらを撃てばまた我々の後退を余儀なくされるぞ。だが、それに対抗しうる方法はある。如月、少し俺に任せてもらおうか」
「頼みます…」
そして隊長は如月のもとから離れ、一直線にジョンの元へ馬を駆る。
「ほっほっほ、やはりマジク・ソーディアは物凄い威力じゃの。魔力を断ち切る力は即ち、放たれた魔力を吸い取る効果さえある。じゃから、あの芸当が成せたんじゃ。」
「ジョンにやるにはもったいないほどの剣だな。」
「何を言っておる、わしだって何も考えずにジョンに渡したわけじゃない。」
「…その言い方、ちょっと気になるな。まあいい、それより姫さま、仲間たちだったものをあそこまでやっちまって…心は痛まないのか?」
「…そんなわけないでしょう、ジョンだってやりたくてやっているわけじゃない。同士討ちなんて出来ることなら御免です。」
「まあ、そりゃそうだよな」
ジョンはそれからは次々とゴルダラの兵士達を倒していく。
「くっ…本当に気が滅入るぜ。今まで仲間だった兵士を殺んなきゃならねぇとはな。」
気が滅入っているジョンの元に、物凄く早い速度で迫り来るゴルダラの兵が迫る。
「…あの馬の動き、間違いない。」
ジョンはその時点で全てを察していた。あの動きはアスタ・ラングス隊長だ。
「いきなりヤバいのがきたな…」
ジョンは少しだけビビってた、それも無理はない。何故なら、隊長には訓練で一度も一本を取ったことがないからだ。そして、ジョンを去ることながら他の兵士も言わずもがな。
そんな強さを持った男がこちらに迫り来る。騎馬の上から飛び、ジョンに向けて一目散に斬りかかる。
間一髪のところで最初の一太刀をジョンは防ぐ。だが、防いだ反動で奥に弾き飛ばされる。
「ぐっ…」
「どうしたジョン?訓練の時と違って足が震えているぞ?それでも若手の新星か!!」
「なんたってあんたがいきなり前線に出てきやがる!?ここで出てきていいやつじゃない」
「ふん、いつも戦には全力を尽くす!当然であろう」
そう言った隊長は再びジョンに刃を向けた、一撃、また一撃と斬撃を浴びせる。
間一髪、ジョンは躱したり、防いだり、完全に防戦一方の状態になっている。
「オラオラ!どうしたジョン!そんなものでは、せっかく率いた軍が破れてしまうぞ!!」
「くっ…」
アスタの機転により、戦局が一転し安堵した如月が一人呟く。
「なるほど、自らは魔法を使うことができない、だからこそ剣術のみを駆使して魔法を吸い取るあの剣を封じる手に打って出ましたか…さすがです隊長」
ブロンダは焦りを隠せない。
「おいおいなんだありゃ、ゴルダラにあんな奴がいるなんて聞いてねぇぞ?」
過去を思い出したのか、長老が嘆きとともに独白する。
「ああ…あれは間違いない、過去に我等の国を占領した戦争で猛威を振るった男…アスタ・ラングス!!」
「ジョンといえど…アスタを倒すことは不可能に近いじゃろう、なんといっても我々は奴一人に苦しめられたようなもんじゃからな!」
「おいおいおいおい、なんだよそりゃ!無茶苦茶だ!そうなりゃ他の部隊をアスタ一人に集中させれば…!!」
「無駄じゃ無駄じゃ。あやつは百人襲いかかって一人残らずこの世に返さなかった男じゃ」
「くそっ!打つ手なしってことかよ…!!」
「ジョン…お前にかかっとるぞ…」
「やはり、ジョンに全てを託すしかないようですね…」
ジョンとアスタの戦いは続く、アスタは剣を振り下ろし、ジョンに的確に攻撃を与える。
やはりジョンはアスタの攻撃が効いたのか、少しずつ怯んでいく。
「はっはっは、お前のその剣、マジク・ソーディアだな?だがその剣、俺に効くかな?」
「!?…何故知っている!」
「教えてやろうか?ジョン。」
「20年前、俺はある国を占領した。俺はその国で何もないと思っていたある山肌の岩に触れた、」
「それは不思議なことに、触れても感覚がなかった。そこでそれが気になった俺はその岩の中を入ってみるとそこには洞窟があった。」
「その洞窟は一本道で、その奥にはなんて事の無いなまくら刀が刺さっていた。俺はその剣を引き抜こうとした。」
「だが、その剣は俺を拒んだ。」
「この俺の力を持ってしても引き抜くことすら出来なかったんだよ」
「だが、お前は引き抜き、そしてその剣を今お前は振るい、俺たちに脅威を与えようとしている。」
「それだけでも、お前に俺が挑む価値は十二分にある!!!」
「じゃあ、ブロンダを占領したのは、隊長達の世代…多くの命を奪ったのは。あんたらの世代!!!」
「うわあああああ!!」
ジョンは怒りに任せて剣を振るう。今までの怯えは一つも残っていない、だが、その攻撃はがむしゃらに放たれるのみで、アスタには一太刀も浴びせることすら叶わない。
「そうだ!!その怒りだ!!!その怒りをぶつけてみろ!!!これが、俺が求めていた戦い!!」
「お前が!!お前達が!俺たちの国を!!!!」
男二人、戦場の中に火花を散らす。クーデターを引き起こそうとするもの、ただひたすらに王に忠誠を誓い続けるもの。その二つの大きな意思が、剣戟を持って雌雄を決するのかもしれない。
だが、怒りに燃えるジョンの攻撃は、やはりアスタの上では赤子のようにあしらわれる。
所詮は若きもの、経験がまだ足りてすらいない。ドラゴン狩りの一族といえど、その一族を狩るものに比べれば、圧倒的な差がそこにある。
ジョンはへたりつく。怒りに身を任せた剣も、限界が訪れてしまった…
「ぐっ…はぁ…はぁ…」
「どうしたジョン!?おまえの力は!怒りはその程度だったのか!!!」
アスタはへたりつくジョンに最後の一太刀を浴びせようとする。
だがそこに、トドメを刺そうとあの男が迫り来る。
「ジョンの命は俺がもらった!!」
「如月!?」
と思われたが、その男の攻撃は未遂に終わった。
なぜなら、その一瞬のうちにスカスがやってきたからだ。
「ぐふほっ!?」
「やっとだよ。待たせたねジョン」
「スカス!?来てくれたのか!!」
すると、スカスがやって来たと同時に、ツジゲン帝国の戦力がゴルダラに攻撃を仕掛ける。魔法が封じられていて、尚且つ挨拶がわりの兵力だったためか、次々と集中砲火に遭う。
「スゥゥカァァアスゥゥ……!!貴様らーー!!」
スカスを目の前にし、如月が斬りかかろうとしていたところに、アスタ隊長が如月の腹部を殴り、失神させる。
「兵たちよ!!よく聞け!!!この場では我等ゴルダラは部が悪い!白旗を上げ、撤退せよ!!!!」
アスタがそう呼びかけると、一目散にゴルダラの兵士たちが白旗を掲げながら城の方向へと退却していく。
「ジョン、おまえとの決着はお預けだ。」
「次は城で待っている。そこが裏切り者であるおまえの墓標だ。」
アスタは再び馬に乗り、失神した如月を乗せ、ゴルダラへと退却していく。
「くっ…はぁ…助かったぜスカス、あとちょっとで俺が死んでたところだった。」
「やっぱり隊長って言うだけあって、物凄く強かったんだね」
「それより、やっぱおまえも強くなったのか?」
「ああ、間違いなくね」
「そうか、そうなりゃ百人力だな」
「それにしても、なんで隊長は如月を殴って連れ帰ったんだろうな」
「そりゃあれだよ、これ以上戦っても意味がないと言うのに、如月だったらあのままこっちに戦いを続けろ!!とか、そんなこと言っちゃいそうな雰囲気出てたでしょ?」
「なるほどなぁ、やっぱ、それが理由か。」
ジョンは立ち上がろうとするも、痛みですぐ倒れてしまう。
「ぐっ…いたたたた…」
「今は無理しないほうがいいよジョン。だったら、すぐ回復できるようにする、ハイヒーラー!!」
「!?、身体がみるみるうちに治っていく…」
「やるなスカス!!」
相当嬉しかったのだろうか、元気になったジョンは、スカスの肩を持つ。
「本当に強くなったんだな、お前」
「自分でもびっくりだよ。まさか、僕がここまで魔法を使えるようになるだなんてさ」
ツジゲン軍は、ブロンダ軍と合流する。
そこにアルリ・ツジゲンの姿もあり、真っ先にルナス元女王に会いに行っていた。
「お初にお目にかかりますな、ルナス女王」
「ええ、こちらこそ」
「その瞳、色々あったようだね。」
「…」
「如月か、あいつは人間として失格な部分が多い男だよ」
「ええ、全くよ。ってなんでそんなことを!?」
「私に知らないことはないよ、何せ、魔法を極めし者の国の長だからね。」
「当然、私の力も」
「ああ、紹介しよう。この人はスペク・アルケミスだ」
「今我々が備えている魔術師で最高位の者だ」
「貴女の曇りのない瞳なら、この国もまだ捨てたものではないなと少しだけでも信じられる」
「でも、私だって毒されていたのは事実よ」
「そう認められるだけでも、曇りのないことには変わりはない。」
「貴女いいこと言うのね、ツジゲン帝国の見る目が少しだけ変わった。」
「さてと、体制を整えたと同時に、ゴルダラの城に突入していく感じでよろしいかな?」
「なんでも構わないわ。だって私、そう言うのてんでわかんないもん」
「…そうか、じゃあ我等の好きにやらさせてもらおう」
最終決戦の火蓋は切って落とされた。ブロンダとツジゲンが手を組み、兵力としてはもはや敵なしとまで言わんばかりの揃い踏みとなり、ジョンとアスタ、如月とスカス、それぞれの思いがこのゴルダラに結集した。これぞまさに、最後の決戦にふさわしい。
さあ、舞台は整った。あとは、全てが終わりを告げるまで。




